埼玉・狭山に本店を置く人気ベーカリー「サンセリテ」は、1日500斤以上の食パンが売れる行列店としてメディアでも紹介され、多くのパン好きを魅了しています。その美味しさの秘密は、“ホシノ天然酵母”を使ったパン作りにあります。
しかし、ただ使っているだけではありません。天然酵母特有の難しさと真摯に向き合い、手間暇を惜しまない製法と長年の技術によって、独自の味を実現しているのです。
今回は、そんなサンセリテが誇る“天然酵母のパン作り”に迫り、その魅力とこだわりを深掘りしていきます。
株式会社サンセリテ
埼玉県狭山市に本店を構え、東京都世田谷区を中心に複数店舗を展開するサンセリテは、“ホシノ天然酵母”を用いたこだわりの パン作りで知られるベーカリーです。素材の選定から製法、接客に至るまで、“パンで人を幸せにする”という企業理念のもと、 丁寧なものづくりを徹底しています。
お話を伺った方
株式会社サンセリテ 代表取締役 高田知明氏
大学卒業後、フランスに製菓学校も持つフランス菓子の名店で修行を積み、パン職人としての腕を磨いたのち、実家のサンセリテ を継ぎ、試行錯誤を経て天然酵母を用いた独自のパン作りを確立。現在では、数々のコンテストでの受賞歴を持ち、「東京青雲会 会長」「日本リアルベーカリー協会 理事」「ホシノ天然酵母パン種 技術顧問」などを務め、講師としても活躍するなど、業界 の発展にも力を注いでいます。
天然酵母とイースト菌ってどう違うの?
パンを膨らませる“酵母”には、イースト菌と天然酵母の2種類があります。
どちらも発酵によって生地をふっくらと仕上げますが、その働き方や風味には大きな違いがあります。
イースト菌は人工的に培養された酵母で、短時間で安定した発酵ができるため、多くのベーカリーで使われています。効率が良く扱いやすい一方で、風味はやや単調になりがちです。
一方、天然酵母は小麦や果物など自然由来の酵母で、発酵に長い時間がかかります。管理が難しく、季節や気温によって出来が左右されることもありますが、その分、パンには深い味わいと香りが生まれ、しっとり感や旨みも格別です。
“生きた酵母”と向き合う天然酵母のパン作りは、単なる作業ではなく、気づきと成長の連続で、パン職人としての観察力や応用力が磨かれます。
パン作りにおいて、どの酵母を選び、どう扱うかは、そのお店の個性につながるのです。
サンセリテはなぜ天然酵母を使うのか
サンセリテのパン作りに欠かせないのが「天然酵母」。発酵に時間がかかり、温度管理も繊細で、扱いは決して簡単ではありません。それでもこの製法にこだわる理由はただひとつ。「お客様に、もっと美味しいパンを届けたい」という想いです。
高田社長の修行時代、修行先のシェフが当時まだ日本では珍しかったサワー種やレーズン由来の天然酵母などを扱っており、それが天然酵母との出会いでした。実家を継いでから、自家製酵母に挑戦し、ほぼ独学で技術を磨いていくなかで、天然酵母の奥深さに惹かれていったそうです。
決定的なきっかけは、代官山のベーカリーで食べた“ホシノ天然酵母”のクロワッサン。その豊かな風味に感動し、自らも研究を重ねていきました。今では講習会の依頼が来るほどに。
天然酵母で発酵させたパンは、小麦そのものの旨味や甘みが際立ちます。発酵時間が長くなる分、小麦の風味が引き出され、他にはない深い味わいともっちりとした食感が生まれます。これが、「サンセリテのパンが美味しい」と評される理由です。
サンセリテならではの天然酵母へのこだわりや製法
天然酵母と言ってもいろいろある中で、サンセリテが採用しているのが、「ホシノ天然酵母」。日本酒の醸造技術を応用してつくられた、お米由来の国産天然酵母で、国産小麦・麹・水を使って丁寧に培養されます。
この酵母を使ったパン作りの最大の特長は「長時間発酵」です。生地をゆっくりと発酵させることで、小麦粉のアミノ酸がじっくりと引き出され、粉そのものの旨味と甘みが際立つ、奥行きのある味わいが生まれます。
一方で、ホシノ天然酵母の扱いは非常に繊細。発酵が遅く、気温や湿度、捏ね上げ温度のちょっとした違いで、仕上がりに大きく影響が出てしまいます。例えばクロワッサンでは、生地とバターが発酵中に馴染みすぎて層がうまく出ないなど、細かな課題にも直面します。
こうした難しさゆえに、通常の製造工程では対応が難しく、多くのパン屋では敬遠されがちです。しかし、サンセリテでは、長年の経験と試行錯誤を重ね、細やかな温度管理や工程設計によってこの酵母を自在に扱える体制を確立。これが、他店には真似できない大きな差別化につながっています。
天然酵母という難しくも面白い世界を探求すること。そこには、職人としての探究心と「美味しいもので人を笑顔にしたい」という熱い想いが込められています。サンセリテのパンが多くの人に愛される理由は、まさにその「こだわり」にあるのです。
ほかにはない、天然酵母のパン作りだからこそ学べること
天然酵母を使ったパン作りは、イースト菌を使ったパン作りにはない難しさと奥深さがあります。ですがその分、職人としての成長を大きく促してくれる環境でもあります。
「発酵に一晩かかるので、仕込んだ後は生地の状態をリアルタイムで確認できません。だからこそ、水温や粉の温度、室温などを計算し、予測して仕込む必要があります。それでも、翌朝には生地がパツパツだったり、発酵が全然進んでいなかったりすることもあるので、まだまだ勉強が必要です。」と語るのは、祖師谷店の店長の中村さん(写真右)。
日々の試行錯誤の中で観察力や分析力が磨かれ、次第に感覚が養われていく。こうした経験の積み重ねが、職人としての確かな“引き出し”になっていくのです。
プロフィテ サンセリテの店長の榊原さん(写真左)も、「最初はうまくいかないことばかり。でも、天然酵母のパンに慣れてくると、コンビニのパンなどでイースト特有匂いがわかるようになりました。」と話します。味覚の変化を自分で実感できることも、大きな学びの一つだといいます。
天然酵母と向き合う日々は、単なる製パン技術の習得を超えて、考える力や感覚を研ぎ澄ます訓練そのもの。ここで得られる経験は、将来どこに行っても通用する大きな財産になるはずです。
専門学生へのメッセージ
今、パン業界を目指しているみなさんへお伝えしたいのは、「本当に美味しいパンを作るには、近道はない」ということです。
でも、そのぶん、お客様の「美味しい!」という声が何よりのご褒美になります。天然酵母のパンは手間がかかりますが、素材の力と職人の技がダイレクトに伝わるパンになります。
サンセリテでは、そうした“真のパン作り”にじっくりと向き合うことができますし、挑戦する人にはどんどん任せていく風土があります。
パン作りを通じて、誰かを幸せにする力を身につけたい方と、ぜひ一緒に働けることを楽しみにしています。
