料理人としての一歩を踏み出す就職活動。
街場のレストランか、ホテルか、二択で悩んでいる人は多いと思います。
でも、ちょっと待ってください。
「ホテル」とひと口に言っても、ラグジュアリーからライフスタイル型まで多彩な形があり、調理の役割や学べることも大きく変わります。
「ホテル」とひと口に言っても、ラグジュアリーからライフスタイル型まで多彩な形があり、調理の役割や学べることも大きく変わります。
今回は、国内外のホテルで豊富な経験を積んできたヘッドシェフに、ホテル調理の魅力や特徴についてお話をうかがいました。
【チャプター京都 トリビュートポートフォリオホテル】
ヘッドシェフ 桝 直人 氏
国内外のホテルやレストランで経験を重ね、外資系ラグジュアリーホテルの開業にも従事。フランス料理やイタリア料理に精通し、2024年7月より現職。
フランス料理のシェフに憧れてこの道へ
私が料理人を志したのは幼稚園の頃です。テレビの料理番組を観て、白いコックコートと高い帽子を身にまとったフランス料理の講師に憧れたことがきっかけでした。小学校では6年間、将来の夢と題する作文には「料理人になる」と書き続け、高校卒業後すぐにホテルの現場に飛び込みました。
就職した国内ホテルでは、宴会部門に配属されました。メニューやレシピがすべてフランス語で書かれており、必死に勉強しましたね。当時の給料は8万円ほど。その中から1万円近いフランス語の辞書を購入し、毎月ナイフを一本ずつ揃えていったことを鮮明に覚えています。
その後は町場のレストランで15年間修業を重ね、2006年以降は外資系ラグジュアリーホテルを複数経験。エグゼクティブシェフとして、開業や立ち上げにも携わってきました。
ホテル調理の特徴と魅力
【ホテルの世界観を表現する】
ホテルの調理には、料理を通じてそのホテルの世界観を表現することが求められます。たとえば、私が初代エグゼクティブシェフを務めた外資系ホテルでは、本国のレシピや調理指示を忠実に再現することが必須条件でした。大きな責任を伴う任務でしたが、私はさらにローカライズの視点を提案。ブランドの世界観に日本らしさを加えることで、「ここでしか味わえない特別感」を生み出し、結果的にブランドの価値を一層高めることができました。
【多様なニーズに応えるやりがい】
ホテル調理のもうひとつの特徴はゲストの多様性です。国籍や文化、滞在や利用の目的もさまざまで、求められる料理も変わります。分業化されている大規模なホテルではお客様の声が届きにくいこともありますが、さまざまなゲストに満足していただける料理を提供することは、ホテル調理の使命であり醍醐味ですね。また、社内に多彩なシーンの料理を学べる環境があることも、ホテル調理ならではの魅力だと思います。
ホテルのカテゴリーと調理現場の特徴
ホテルにはラグジュアリー、プレミアム、ライフスタイルなど、いくつかのセグメント(ブランドカテゴリー)があり、仕事の進め方や求められることが異なります。
【ラグジュアリーホテル】
最高級のブランドに位置づけられており、世界の富裕層やVIPが多く訪れます。希少かつ高価な食材を扱い、料理にも高い完成度が求められるため、緊張感を感じる場面は多いかもしれません。また、部門間で役割が分かれており、指示命令系統が明確。ひと通りの経験を積むには一定の時間がかかる傾向があります。
【プレミアムホテル】
品質の高さを維持しつつ、ビジネスから観光まで幅広い層のゲストに対応するホテルです。ラグジュアリーほど厳密な分業制ではなく、チャレンジできる領域も比較的広いのが特徴です。安定した体制の中で基礎をしっかり学びながら、現場での対応力や応用力も磨ける環境といえます。
【ライフスタイル型ホテル】
デザイン性や利便性を重視したホテルです。一皿にじっくり時間をかける料理は少ないのが実情で、効率性やスピード感を重視したオペレーションが求められます。少人数のチームで動くことが多く、一人が幅広い業務を担うため、さまざまな持ち場を経験できる点が魅力です。
これらはあくまでも一般的な傾向にすぎず、実際にはホテルの経営方針や価値観によって大きく変わります。さらに同じホテル内でも、レストラン部門と宴会部門では、例えて言うなら内科と外科くらい仕事の進め方や役割が違います。ラグジュアリーホテルを目指す学生さんは多いと思いますが、大切なのは自分の性格や目的、そして目指す料理人像に合った環境を選ぶことです。自分のやる気のベクトルと、企業のベクトルが重なるかどうかを意識して就職先を考えてみてください。
チャプター京都 トリビュートポートフォリオホテルのベクトルと魅力
当ホテルは「まだ知らない京都に出会える体験の提供」をテーマに掲げています。その世界観を表現するため、料理もサービスも「ここにしかない価値」を常に意識しています。海外ゲストが全体の7割を占め、その多くは北米やヨーロッパからの来訪者です。京都=日本料理という発想をさらに進化させ、彼らに馴染みのある料理をベースに和のエッセンスを加え、新しい驚きを届けることを心がけています。
また、規模が大きすぎないホテルだからこそ、料理を通じた「顔の見えるおもてなし」が可能です。たとえば海外ツアーのゲストを迎える際、あらかじめ一人一人の出身地を調べ、サプライズとして郷土料理を提供したこともあります。こうした臨機応変なチャレンジができるのも、このホテルならではの魅力。個人的には、日本の旅館に通じる家族的な温かさがある環境だと思っています。
学生のみなさんへのメッセージ
進路を決めるうえでは、友人や先生方に相談するほど悩んでしまうこともあるでしょう。その時に大切なのは、どういう自分になりたいか。例えば「1年後にはこうなりたい」と思えば、その手前で必要な行動や選択肢が見えてきます。努力と捉えると負担を感じる人は、「昨日より一つでも多く芋をむこう」という、小さな行動を積み重ねていけばいいんです。日々の工夫が、半年後には大きな差になって現れます。
そしていい料理を作りたいのなら、仕事は明るく楽しく前向きに。スタッフにも日頃から「機嫌よく働こう」と伝え、楽しい空気をそのままゲストに届けられる環境を大切にしています。私たちのベクトルに興味を持って下さる方は、ぜひ、会社見学にお越しください。お会いできることを楽しみにしています。
