中国料理は、なぜこんなに奥が深いのか。創業65年の料理長が語る4つの視点

株

株式会社東天紅

2026/09/25

記事画像
中国料理と聞いて思い浮かぶのは、炎の上がる中華鍋を豪快に振る姿ではないでしょうか?
あのかっこよさに憧れて、この道を選んだ人もいるはずです。
ところが実際の厨房では、その裏側に何日もかけた地道な仕込みが隠れており、知れば知るほど奥深い中国料理の世界があります。
今回は、創業65年の中国料理店・東天紅で、上野本店ダイニング「LUCIS GARDEN(ルーキスガーデン)上野」の厨房長を務める半田誠さんに、学校では習いきれない中国料理の奥深さを教えていただきました。読み終える頃には、いつもの一皿の見え方が少し変わっているかもしれません。
 
半田 誠(はんだ まこと)さん/東天紅 上野本店ダイニング「LUCIS GARDEN上野」 厨房長
北海道調理師専門学校在学中、インターンで東天紅の札幌店へ。料理長や先輩の人柄に惹かれてそのまま入社を決める。旭川店でキャリアをスタートし、仙台店などを経て現在は上野本店ダイニング「LUCIS GARDEN上野」の厨房長。入社から30年以上、東天紅一筋。


■豪快に見えて、実は繊細な中国料理


私が中国料理に憧れたのも、まさにあの豪快さでした。テレビで重そうな鍋を振る姿がとにかくかっこよくて、そこから自分で料理を始めたんです。
ところが、実際にこの世界に入ってみると、ものすごく繊細な部分がいっぱいありました。
 
たとえば、蒸し鶏。前日に洗って、お酒にネギと生姜を加えて漬け込みます。翌日ようやく蒸して柔らかく仕上げ、もう一度スープに漬けて一日置きます。2日かけて、やっとあのしっとりした柔らかさになるんです。
 
乾物になると、さらに時間がかかります。一度干すことで旨みがギュッと締まり、栄養価も高まります。フカヒレ、ナマコ、干し貝柱、干しアワビ。なかでも干しアワビを戻すには、毎日水を替えながら1週間から10日かかります。
 
包丁の技術も、スープを取る作業も同じです。そうした緻密な作業をみんなで結集して、最後のフィニッシュとして鍋を振る。そうしてようやく、お客様に一皿が届きます。
緻密さと豪快さがぴたりと合わさっているところが、中国料理の面白さだと思っています。
 

■土地の気候風土を活かした中国料理

中国料理は北京、上海、広東、四川の「四大料理」として知られ、同じ国の料理なのに、味はまるで違います。
その違いを生んだのは、それぞれの土地の気候です。中国は南北に長く、寒い北と温暖な南とでは、採れるものも、体が求める味も変わってくるからです。
 
・北京……冬が寒い土地。体を温めるために小麦や肉を多く使い、塩味も油も濃いめです。北京ダックが代表格です。
・上海……海に面した土地。上海ガニなど、魚介を使ったあっさりめの味付けが特徴です。
・広東……南部の温暖な土地。海産物が豊富で、強い味付けをしなくても素材を活かせます。フカヒレや飲茶はここから生まれました。
・四川……盆地で、夏は暑く湿気がこもる土地。辛いものを食べて汗をかくと体がすっきりすることから、唐辛子を多く使う食文化が根づいたと言われています。

当社が基本にしているのは、このうちの広東と、すぐ隣の福建です。薄口で、辛い・しょっぱい・甘いがそこまで強くなく、油も多くない。日本人の口によく合い、お子様からご年配の方まで好まれやすい料理です。
もちろん、他の地域の料理を取り入れることもあります。四川の麻婆豆腐も、上海の東坡肉も、優しくアレンジしてお出ししています。どこの料理だからできない、ということはありません。
味付けには、必ず理由があります。どこの料理なのかを知っておくと、味の組み立ても覚えやすくなります。
 

■料理の名前に、物語がある中国料理


中国の古典料理には、それぞれに「言われ」があります。調べてみると、これが本当に面白いんです。
 
・麻婆豆腐……マーというおばあさんが作った、豆腐と牛肉の煮込みが始まりと言われています。「麻」はしびれる、つまり山椒のこと。マーおばあさんの、山椒をきかせた煮込み、というわけです(諸説あります)。
・担々麺……「担々」は天秤棒のこと。棒の両端に麺とタレを提げ、担いで売り歩いていたことが名前の由来です。本来は汁なしで、スープが加わったのは日本でのアレンジだそうです。
・佛跳牆(フウティアオシャン)……修行中のお坊さんが、塀の向こうから漂ういい匂いに我慢できず、塀を乗り越えて食べてしまった。壺の中には、本来お坊さんが口にできないフカヒレやアワビが詰まっています。
 
なぜこんなことを勉強するのか。根底に歴史がないと、自分が何を作っているのかを、自信を持ってお客様にお伝えできないからです。
中国語の辞典を読むのもおすすめです。中和辞典にも料理の名前やちょっとしたエピソードが載っていて、そこから世界が広がっていきます。
料理の名前は、ただの記号ではありません。由来を一つ知っているだけで、お客様との会話が生まれます。
 

■和も洋も、材料にしてしまう中国料理


専門学校では、専攻以外の料理を学ぶこともあると思います。私はそこでの発見を、よく中国料理に持ち帰りました。
お刺身をカットしながら、これは中国料理だったらどう扱うだろう。バターは中国料理でどう使えるだろう、と。本来なら中国料理で使わないものを取り入れた発想ができるのは、学校に行ったからこそだと思っています。
進路を考えるとき、「東坡肉が好きだから上海料理」「フカヒレを極めたいから広東料理」というように、地域で選ぶ方もいます。好きな料理から入るのは、とても自然なことです。
ただ、日本で働く限り、地域によって技術がまったく違うということはありません。揚げる、蒸す、炒める。どの店も総合的にやっているところが多く、「うちは揚げ物はやらない」ということは、まずないんです。
ですから、若いうちから絞り込まなくて大丈夫です。全部を総合的に覚えていったほうが、必ず自分のためになります。
中国料理の面白さは、この懐の深さにあります。今学んでいることに、無駄なものは一つもありません。和食の授業も、洋食の授業も、いつか自分の中国料理になります。
 

■学生の皆さんへのメッセージ


ここまでお話ししてきたことは、どれも私が興味を持って追いかけてきたことです。看板であるフカヒレも、産地の気仙沼まで足を運びました。丘の上に案内していただくと、一面が畑のように見えるんです。よく見ると全部が網で、そこにフカヒレがずらっと干されている。「あれは何ですか」と聞いたら、「フカヒレ畑です」と。昔は捨てられていた胴体も、美味しいと分かった今はお肉として使われていました。ヒレだけじゃないんだな、と驚きましたね。興味がないと、料理人は務まらないと思っています。
 
学生の皆さんに、今のうちからやっておいてほしいことが3つあります。
・食べ歩きをすること:街中華で十分です。どうやって作っているのかを見てください。
・厨房を見せてもらうこと:「◯◯専門学校の◯◯です、少し見学させていただけませんか?」と声をかければ、意外と快く見せてもらえるものです。私自身、そうやって何軒も回りました。
・本を読むこと:知識と技術、その両方をバランス良く成長させていくほうが、後々きっと楽になります。
学生時代は、社会人よりも時間があります。吸収できるものを吸収しておいて、お店に入ってから本格的に料理を学ぶ。その下地がある人は、やはり強いです。
いろんなことを知ったうえで、ぜひ私たちの厨房にも来てください。お待ちしています。
0
この記事が役に立ったら、いいねをお願いします!
個人が特定されることはありません。
#未来へ伝えたい技#伝統のバトン#プロから学ぶリアル話#作るって最高!

おすすめの記事

  • 就活面接でぶっつけ本番は絶対ダメ
  • 店が変わっても活躍できる人が持つ「5つの力」
  • 「イル ルォーゴ ディ タケウチ」オーナーシェフ 竹内啓二さん ボクたちの野心(前編)
  • パティスリー イーズ 大山恵介(前編) 新時代のパティシエに聞いてみた 自分らしく「はたらく」って? vol.10
  • 神戸の実力派パン職人が語る「好きを仕事にするということ」
  • 地味?やりがいは?ルーティンワークがメイン? 先輩たちに聞きました!運用・保守のイメージとリアル
  • チョコほど甘い?甘くない? お菓子のワールドカップ(WPTC2012)優勝シェフに聞いた 「ショコラティエ」という仕事
  • 本場の名店で修業を積んだシェフが語る 「今日より明日」のフランス料理
  • 施工管理の「イメージとリアルのギャップ」にフォーカス!
  • 建設ってひとことでは言い表せない?建設業で働く前に知っておくべきポイントを語っていただきました。
  • 「Kamekichi」オーナーシェフ 亀井健さん ボクたちの野心(後編)
  • 連載第3回:橋はどうやって伸びていく?施工サイクルを解説!
  • 中国料理は、なぜこんなに奥が深いのか。創業65年の料理長が語る4つの視点
  • 歴史のある店=厳格そう…… それってホント? 祇園の老舗で働く若手料理人に聞いてみた
  • おもてなしって「笑顔で丁寧に接すること」じゃないの?創業65年の中国料理店が明かす、一流のおもてなしとは
株

トウテンコウ

株式会社東天紅

本社:東京都台東区池之端1-4-1

No image available
トウテンコウ
株式会社東天紅
本社:東京都台東区池之端1-4-1