住宅やマンション、ビルなどの「建物」を設計する仕事や、道路や橋、河川などを手がける仕事に就きたい… そう思って、建設系の専門学校を選択した人も多いのではないでしょうか。 実は「建築」と「土木」、その両方の知識を必要とする仕事もあるんです。 その一つが公共事業である「水処理施設」の設計。例えば、家庭や工場などから集まった水をきれいにして自然へ戻す下水処理施設には、 水を処理する機械や設備、それらを収める建物や水槽、地下構造物などがあります。 つまり、水処理施設は単なる「建物」でも「土木構造物」でもない、建築と土木が一体となった“複合構造物”なのです。 複合構造物の設計を専門に行う会社は全国的に見ても少ない中、63年にわたり手掛けているのが、 大阪市北区に本社を置く、株式会社藤原設計。 ![]()
北海道から沖縄まで、全国の上下水道施設の設計を手掛ける“複合構造物の設計”を得意としており高い技術力を誇っています。 ※注釈「複合構造物」の定義としては、全く異なる材料や構造形式を持つ建物を指す場合と、 地下が土木構造で地上が建築構造として一体に計画される施設を指す場合があり、本記事では後者を紹介しています。 ![]()
今回は、そんな会社で、土木×建築の「複合構造物の設計」の世界で働く、若手3人に話を聞きました。 ![]()
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「建物」だけじゃない。複合構造物の設計とは?
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水処理施設の設計と聞くと「水道管を設計する仕事?」と思う人もいるかもしれません。
でも、実際は“水を処理する機械や設備を設置する「箱」をつくる”仕事なんです。
水処理施設は、地上には機械を操作するための建物や、そこで働く人のためのスペースがあり、地下には水槽などの大きな構造物が広がります。
また敷地内に、様々な設備を配置するための建物も必要です。
また敷地内に、様々な設備を配置するための建物も必要です。
そのため、地上部分は建築、地下部分は土木というように、一つの施設の中に建築と土木の技術が存在するのです。
ここが一般的な住宅やオフィスビルと大きく違うところ。
「人が快適に過ごすための建物」ではなく、設備をどう配置するか、水をどう流すか、必要な機械をどう収めるか…など、施設の機能を成立させることが最優先されます。
「人が快適に過ごすための建物」ではなく、設備をどう配置するか、水をどう流すか、必要な機械をどう収めるか…など、施設の機能を成立させることが最優先されます。
「構造設計の手法そのものは基本的に同じですが、建築と土木では基準が違います。地下部分では土木専用の計算式を使うこともあります」
そう話すのは、構造設計を担当する濱村さん。
水槽のような構造物では、地面から受ける力だけでなく、「中に水が入ったときに外側へかかる力」も考えます。
建築の知識だけでも、土木の知識だけでも完結しない。そこに、この仕事ならではの面白さがあります。
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「意匠」は処理機能設備を収める“器(施設)”、
細かな仕様を決めること、「構造」は物理的に安全性を確保する
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阿彌さんと山本さんが手がけるのは、施設の中で「どんな建物・空間にするか」を考え、図面にしていく意匠設計。
一般的な建築設計とは少し違うのは、水処理施設では、「ここにこの機械を入れたい」「この処理設備が必要」といった条件が最優先。意匠設計は、それらをきちんと収められるように、機械設備や反応槽などが機能する“器(施設)”を設計していきます。
「当社では案件ごとに一人がメイン担当に就くんですが、甲子園球場以上の広さの敷地内の複数の建物を設計したこともあります」(阿彌さん)
「ほとんどの案件が、基本形は決まっているんですが、中にはデザイン性にもこだわる案件もある。私自身はまだ入社3年目なので担当したことはないんですが…」(山本さん)
そして、意匠が考え作図したその建物の配置・形状、機械設備の配置・重量(荷重)、開口部や動線の位置などを考慮した図面をもとに、構造設計が壁厚・柱・梁を検討します。
「この壁の厚さで大丈夫か」
「柱はどれくらい必要か」
「この構造で安全性を確保できるか」。
「柱はどれくらい必要か」
「この構造で安全性を確保できるか」。
意匠側がつくった設計を構造側が強度という視点から確認し、必要があれば変更する。逆に、構造上の条件によって意匠側の設計を見直すこともあります。
つまり「意匠」と「構造」、「建築」と「土木」が影響し合いながら、一つの施設を完成させていくのです。
「規模の大きい案件だと、図面が100枚を超えることも珍しくはありません!私自身、図面を描くこと自体が大好きなので、自分の考えやこだわりを反映しながら、だんだん形になっていくのがすごく面白いですね」
山本さんがそう話すように、“図面を描くのが好き”という気持ちも、この仕事の大きな原動力になります。
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「建てて終わり」ではない。これからは“守る設計”も重要に!
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水処理施設の分野では、すでに存在する施設を長く使い続けるための設計も重要です。
近年は老朽化した施設の改修や補強、耐震化、浸水を防ぐ「耐水化」などのサステナブルな案件が主流になっています。
水処理施設の分野では、すでに存在する施設を長く使い続けるための設計も重要です。
近年は老朽化した施設の改修や補強、耐震化、浸水を防ぐ「耐水化」などのサステナブルな案件が主流になっています。
ここで特に重要なポジションとなるのが、構造設計。
濱村さんも、耐震診断や補強設計を多く担当。
既存施設の図面や建設当時の構造計算書を確認し、現在の基準に照らして安全性を評価。強度が不足している場合には、鉄筋を追加したり、コンクリートを増し打ちするなど最適な補強方法を検討する…という重要な仕事を担ってます。
「入社前までは、耐震診断という分野が自分に関係するとは思っていませんでした。建築というと、一から建てるイメージが強かったので」(濱村さん)
しかし今では、今ある施設をより安全に、長く使えるよう長寿命化することにも「広く社会に役に立っている」という実感があるそうです。
地震や大雨などの災害時にも、水処理施設は地域の暮らしを支える重要なインフラ。そこに暮らす人たちの生活を支えている「水」を守る設計だからこそ、社会的な意義の大きな仕事です。
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レアな仕事だからこそ、最初は「わからなくて当たり前」
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「そんな専門的な仕事、建設系の専門学校で学んだだけで、できるの?」
「そんな専門的な仕事、建設系の専門学校で学んだだけで、できるの?」
…そう思う人もいるのでは?
今回話を聞いた3人も、実は入社前から水処理施設の設計を知っていたわけではありません。
阿彌さんは大学では文系を専攻。
大学のプログラムで建築に触れ、「建築って面白い」と感じたことがきっかけでした。公共インフラなら今後も必要とされ続けるだろうと考え、就職先を探す中でこの仕事と出会いました。
山本さんは、工業高校の製図の授業でCADに興味を持ち、「図面を描く仕事がしたい」と建築系の専門学校へ。CADから始まり、現在は「やってみたい!」と会社に自ら希望を伝え、BIM(Revit)にも挑戦しているそうです。
濱村さんは、別の仕事を経験した後、働きながら通える夜間の建設専門学校へ進学。構造の考え方を知り、「理にかなっていて面白い」と感じたことが構造設計を志すきっかけになりました。
3人とも、水処理施設の設計は入社してから本格的に学んでいます。
藤原設計では、まず幅広い仕事を知る基礎から育成をスタート。
山本さんの場合、過去の図面をトレースするところから学び、意匠・構造・配筋など、設計に関わるさまざまな業務を育成プログラムで経験。その後、先輩の仕事を手伝いながら担当範囲を広げていきました。
その育成プログラムを経て1年目は先輩の仕事の補助を通じ、一つの案件を最初から最後まで経験。2年目頃からメイン担当となるくらい成長できました。
その育成プログラムを経て1年目は先輩の仕事の補助を通じ、一つの案件を最初から最後まで経験。2年目頃からメイン担当となるくらい成長できました。
「一通りの仕事を経験するからこそ、前後の流れがわかる。ほかの担当者が何を必要としているのかもコミュニケーションを取り、自分で考え、分からない部分は先輩に相談して仕事ができるようになる」
こうした環境が、専門性の高い技術を短期間で身につける力になっています。
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3人が見つけたのは、
多くの人たちの日々の生活に必要不可欠な“公共施設”の設計
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3人に共通しているのは、最初から「水処理施設を設計したい」と思っていたわけではないこと。
3人に共通しているのは、最初から「水処理施設を設計したい」と思っていたわけではないこと。
「何をつくるのか」ではなく、それぞれの興味や将来に向けたビジョンを軸に会社選びをする中で、この仕事に出会いました。
図面を描くことが好きな人。
構造や数字を考えることが好きな人。
新しいことを学び続けるのが好きな人。
「自分の仕事が誰かの生活を支えている」と実感できる仕事を探している人。
そんな人にとって、水処理施設などの「複合構造物の設計」は、建築・土木を学んだ先にある、もう一つの面白い選択肢になるはず。
建築だから「建物」だけ。土木だから「道路や橋」だけ…と限定してしまうのはもったいない!
建築と土木の知識を組み合わせ、“水”を通じて人の暮らしや命を守る、複合構造物設計の世界も、ぜひ一度覗いてみてはいかがでしょうか?
