「コーヒーを飲む」「友達とおしゃべり」「仕事の打ち合わせ」「ランチや軽食」「ひとりで静かに過ごす」。目的はそれぞれ違っても、多くの人がカフェという場所を選んでいます。
コーヒーを飲むだけなら、今やコンビニでも買えます。ひとりで過ごすだけなら、自宅のほうが気楽かもしれません。それでも私たちは、お店のドアを開けて、席に座り、その場所で時間を過ごすことを選んでいます。なぜ、カフェなのでしょうか。
カフェを運営するC-Unitedは、「珈琲文化の創造と発展を通して人を幸せにすること」を経営理念に掲げています。珈琲の「文化」とは、いったい何を指しているのでしょうか。そして、その文化は誰がつくっているのでしょうか。
今回は、カフェ・ド・クリエで店長を務める細川野々香さんにお話を伺います。カフェで過ごすあの時間や空間が、どのようにつくられ、そこにはどんな思いが込められているのか。「珈琲文化」の正体に迫ります。
細川 野々香さん/カフェ・ド・クリエ 丸の内明治安田生命ビル店 店長/専門学校日本ホテルスクール出身/2023年入社
【C-United株式会社】 「カフェ・ベローチェ」「珈琲館」「カフェ・ド・クリエ」など、8つのブランドのカフェを全国で展開しています。大切にしていることは、一杯のコーヒーに心をこめて、心地よい日常を文化にすること。コーヒーのおいしさだけでなく、お店で過ごす時間そのものを心地よいものにし、その街の財産となるお店づくりに取り組んでいます。
■「珈琲文化」って、どんなものでしょうか?
「珈琲文化」とは、一杯のコーヒーを通じて、人々の暮らしや心を豊かにする文化。言い換えれば、カフェが誰かの毎日の一部になっていることだと考えています。実際、C-Unitedが目指しているのも、お客様の日常に寄り添い、その街の財産となるお店づくりです。
コーヒーは、飲まなければ生きていけないものではありません。それでも、気持ちを切り替えたいときには、あると嬉しいもの。つまり、コーヒーそのものの価値はもちろん、それを飲んでいる時間や空間に価値があるのだと思います。
そう感じるのは、働く側を見ていても同じです。「カフェで働きたい」と来てくれるスタッフの中にはコーヒーをあまり飲まない人もいて、理由を聞くと、返ってくるのは決まって「カフェの空間が好きだから」という言葉です。
お客様側も同じです。私が働くお店では、平日、同じお客様が毎日のようにご利用くださいます。その方たちにとっては、コーヒーを飲むこと以上に、お店で過ごす時間そのものが一日の流れに自然と組み込まれているのだと思います。
「文化」という言葉は大きく聞こえますが、お店でできるのは小さなことの積み重ねです。一声かける、ご注文を覚えておく、店内を整えておく。そんな一つひとつが、カフェをその人の日常にしていき、その先に、誰かの暮らしが少し豊かになる瞬間があるのだと思っています。
■人はなぜ、カフェで過ごしたくなるのでしょうか?
お客様が求めていらっしゃるのは、飲み物だけではありません。居場所であり、時間であり、体験。そして、それが何なのかは、お店がある場所によって変わります。
私が店長を務めているのは、東京駅の近く、オフィスビルの中にあるお店です。その前にいたお店はショッピングモールの中にあって、ご来店されるお客様はご家族連れが中心でしたから、同じカフェでも求められるものはまったく違います。
今のお店で働くようになって、なかでも驚いたのは、1日に何度も足を運んでくださる方がいらっしゃることです。喫煙ブースのあるお店なので、休憩のたびに立ち寄って、そのたびにお飲み物を買ってくださる。その方たちにとって、カフェは一日のうちに何度も立ち寄る、身近な場所なのです。ですから、目の前の一杯だけではなく、その方の一日の生活のどこにお店があるのかも想像できると、接客は変わります。
カフェで過ごしたくなる理由は、お店ごとに、お客様ごとに違います。その違いを見つけていくことも、この仕事のおもしろさだと思います。
■心地よい時間は、どこから生まれるのでしょうか?
心地よい時間は、働いているスタッフの雰囲気から生まれるものです。
私自身が利用する側になったときにほっとするのは、黙々と作業をしているお店よりも、声をかけ合ってうまく連携できていることが伝わるお店です。商品のおいしさや店内のきれいさは前提として、その上でお客様に届いてしまうのが、スタッフの空気なのだと思います。
同じメンバーで働いていると、誰か一人が不満そうにしているだけで、その空気はお店全体に広がり、お客様にも届いてしまいます。自分の機嫌は自分だけのものではないのです。
その空気に早く気づきたいのですが、「これがやりにくいです」と自分から言葉にするのは、なかなか難しい。だから雑談が中心でもいいので毎日話して、体調や気持ちの変化に気づけるようにしています。お客様に届く心地よさは、そうした日々のやりとりの先にあるのだと思います。
■ブランドは違っても変わらない、C-Unitedの想い
「人を大切にする」ということは、どのブランドでも変わりません。
一方で、ブランドごとの姿はずいぶん違います。私のいるカフェ・ド・クリエを含めてC-Unitedには8つのブランドがあり、たとえばカフェ・ベローチェは、時間を有効に使いたい方に向けて、カウンターで受け取ってすぐ席につけるお店。対して珈琲館は、ご注文ごとに一杯ずつ淹れて、席までお持ちするお店です。
では、なぜ揃えないのか。お客様の過ごし方が一つではないからです。5分で出たい日もあれば、1時間ゆっくりしたい日もある。違うからこそ、さまざまなニーズにお応えでき、いろいろな時間を届けられるのです。
そのように姿が違っても、変わらないのは、人に向ける気持ちです。その気持ちは、お客様にもスタッフにも向きます。スタッフは長い目で成長を見ていく相手で、お客様はそのひとときを心地よく過ごしていただく相手。関わる時間は違っても、想う気持ちは同じです。
それは、会社の理念にも表れています。
「珈琲文化の創造と発展を通して人を幸せにすること」~“人”という言葉には、お客様、お取引先様、そしてすべてのスタッフとステークホルダーが含まれます。~
どのブランドでも変わらないのは、この想いです。
■珈琲文化をつくっているのは、そこで働く一人ひとり
珈琲文化は、会社が一方的につくるものではありません。お店に立つ一人ひとりが、一杯ずつの接客を積み重ねていくなかで、少しずつ育まれていくものだとものだと考えています。
以前いたお店に、忘れられないスタッフがいます。大学3年生の学生スタッフで、商品をお出しするときの「ありがとうございました」を毎回最後まで言い切り、きちんとお辞儀をする。1年ほど一緒に働いて、手を抜いている姿を一度も見たことがありませんでした。
彼から一杯を受け取ったお客様が、「また来よう」と思ってくださる。それが積み重なることで、お店はその方の毎日の一部になっていきます。学生のスタッフでも、お客様の日常はつくることができるのです。教える立場だったはずの私のほうが、自分の接客を見つめ直すきっかけをもらいました。
一人ひとりが主役だとすれば、私自身も例外ではありません。大事にしているのは、自分が楽しく働くことです。私が楽しそうにしていれば、隣のスタッフにも、お客様にも伝わり、みなさんに楽しい時間を過ごしていただくことにつながっていくのだと思います。
珈琲文化をつくる主役は、一人ひとりの社員。その一人ひとりの成長が、お客様に心地よい時間を届け、その先の地域や社会へと幸せの輪を広げていきます。だから私たちは、人を育てること、人を大切にすることを、何より大事にしています。
