料理の仕事と聞くと、厨房に立って腕を振るう姿を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか? 実際は、お客様の前に一皿が届くまでには、食材を仕入れる人、工場で加工する人、安全を確かめる人、お店まで運ぶ人など、たくさんの人の仕事が関わっています。食材の調達から加工、物流、店舗での提供までを、自社で一貫して管理する仕組みを「食のSPA」と言います。厨房で手にする食材は、誰の手を経て届いているのか。そして、調理の学びは厨房の外でどう活かせるのか。今回は、株式会社コロワイドMD 品質保証室 兼 教育管理部の星井美穂さんにお話を伺いました。
【株式会社コロワイドMD】 コロワイドグループの食材の調達から製品開発、製造、物流までを担う会社。セントラルキッチンでの加工や、グループ全体の品質保証も手がけ、「食のSPA」の中核として、さまざまなブランドの食を支えています。
■厨房の外にも、料理人の知識が活きる場所はあるのですか?
厨房の外にも、料理人の知識が活きる仕事はたくさんあります。私たちのグループが取り入れている「食のSPA」は、食材の産地からお店の厨房まで、食の流れを自分たちで一貫して管理する仕組みです。その中心にいるのがコロワイドMD。一皿に関わる仕事の多くが、グループの中にあるんです。
流れを追うと、まず各ブランドの商品開発の担当者が、お客様に出すメニューを考えます。その依頼を受けて、コロワイドMDが食材を調達し、工場で使いやすい形に加工して、お店まで届けます。そして最後に、お店のスタッフが調理してお客様にお出しします。
料理の知識は、この流れのあちこちで活きています。メニューそのものを考えるブランドの商品開発はもちろん、工場でソースや加工品をつくるMDの製品開発でも、「この切り方にすれば、もっと効率よくつくれる」といった調理の視点が、より良い製品や働きやすい現場につながります。料理人の知識や技術は、一皿の裏側でも必要とされているんです。
■お店で使うソースや食材は、どこで、どうやって生まれているのですか?
お店で使うソースや加工品の多くは、コロワイドMDの工場で生まれています。たとえば、フレッシュネスバーガーで販売した、ポルチーニ茸のクリームソースを使ったバーガー。このソースは、ブランドが考えたメニューをもとに、MDの製品開発が工場でつくれる形にしたものです。
実は、試作のキッチンでおいしくできた味も、工場で大量につくると、混ぜる順番や温め方、冷まし方の違いで、風味や食感が変わることがあります。そこで製品開発では、工場でも同じ味を再現できるよう、配合や工程を調整していきます。ポルチーニのソースでも、バーガーから垂れてこない粘度に整えたり、工場で効率よくつくれるよう工夫したりしました。どのお店で食べても同じおいしさを届けられるのは、こうした仕事があるからなんです。
食材の調達にも、あまり知られていない工夫があります。野菜は季節や天候によって、とれる場所も量も変わります。たとえばキャベツは、冬は愛知、春は千葉や神奈川、夏は群馬の高原というように、季節ごとに産地が移っていきます。これを「産地リレー」と言います。調達の担当者は、こうした旬や天候の動きまで見ながら食材を確保しているので、お店では一年を通じて同じメニューをお出しできるんです。
■チェーン店の厨房では、どこまでお店で仕込んでいるのですか?
お客様にお出しする料理はお店で調理し、手間のかかる下ごしらえの一部を工場が担っています。たとえば、キャベツの千切りや大根のツマ。お店で一から刻むと時間がかかりますが、セントラルキッチンと呼んでいる工場でまとめて加工すれば、お店の仕込みがぐっと楽になります。刻む作業には異物が混ざるリスクもありますが、工場で検査をしてから出荷できるので、安全も守れるんです。
こうした製品の形を決めるとき、工場が大切にしているのは、お店の厨房でどう使われるかです。どんな状態で届けば、すぐに使えるのか。袋の大きさは、一度に使う量に合っているか。そうした使い勝手まで考えて、製品の形や包み方を決めています。
そのためには、お店の現場を知ることが欠かせません。最近のMDの新入社員も、2つの業態のお店で1カ月ずつ研修を受けました。実際に厨房で働くことで、どんな形なら使いやすいのかが見えてくるからです。お店での調理と、工場での下ごしらえ。その両方がかみ合って、一皿ができあがっているんです。
■いろいろな業態のお店があることで、どんなメリットが生まれるのですか?
仕入れた食材を、グループ全体で無駄なく使いきれることです。たとえば、牛角で使うお肉は塊で仕入れていますが、カルビやハラミなど、ブランドの規格に合わせて切り分けると、どうしても規格に合わない部分が出てきます。牛角だけでは使いきれないその端材も、ステーキ宮のハンバーグや、フレッシュネスバーガーのパテの原料としてなら活かせるんです。牛スジの端材を、煮込み料理に仕立てることもあります。
こうした使い方ができるのは、コロワイドMDがグループのすべての会社に食材や製品を届けているからです。ブランドからの依頼を待つだけでなく、MDの側から「この端材をこう使えませんか」と提案することもあります。仕入れた食材のうち、料理として使える割合を「歩留まり」と言いますが、ブランドの枠を越えて使い道を探すことで、グループ全体の歩留まりを高めているんです。
まとめて仕入れることでコストを抑えられ、お客様にも手頃な価格でお届けできます。仕入れた食材は、グループのどこかのブランドで必ず何かのメニューになる。それが、たくさんのブランドを持つ私たちの強みなんです。
■調理を学んだ人には、どんな可能性が広がっているのですか?
料理を作ることだけでなく、一皿の価値そのものをつくる仕事にまで広がっています。ここまでお話ししてきたように、一皿がお客様に届くまでには、メニューを考える、どのお店でも同じ味を出せる形にする、旬や産地を見て食材を確保する、無駄なく使いきる方法を考えるといった、たくさんの仕事があります。そのどれにも、食材や調理を知っている人の知識が活きる場面があるんです。
おいしいこと、どのお店でもいつでも同じ味であること、安心して食べられること、手頃な価格であること。お客様が受け取る一皿の価値は、こうしたたくさんの仕事が重なってできています。料理を作る人から、食の価値をプロデュースする人へ。調理の学びは、そんなふうに広げていくことができるんです。
学生の頃の私は、うまくいったことのあるやり方や安全な道ばかりを選ぶタイプでした。それでも、上司が「やってみたら?」と声をかけてくれるなかで少しずつ挑戦できるようになり、今は品質保証と教育の二つの仕事を担当しています。厨房に立つ日を楽しみにしながら、一皿の価値をつくる仕事にも、ぜひ目を向けてみてください。
