「地域密着」という言葉を耳にする機会は多いかもしれません。けれど、地域の人々に本当に愛され、その土地に根付いていくことは決して簡単ではありません。そこには、見えないところで積み重ねられた努力や工夫があります。
「幸せの丘」は、創業から50年、厚木で「記念日や誕生日といえば幸せの丘」と言われる人気パティスリーです。世代を超えて愛されるその裏側には、どんなこだわりや工夫があったのか。今回はチーフを務める雪田もみじさんに、「幸せの丘」が生み出す“幸せ”の秘密について伺いました。
ケーキハウス 幸せの丘
神奈川県厚木市に本店を構える「幸せの丘」は、1975年創業の老舗パティスリー。 人気のシュークリームやショートケーキをはじめ、地域に寄り添った商品づくりとイベント企画で、地元の人々に 長年愛されています。親子三世代で通うお客様も多く、厚木を代表するケーキ屋として知られています。
今回お話を伺った、雪田もみじさん。
できたてが一番美味しい!「幸せの丘」が守り続けるこだわり
幸せの丘が一番大切にしているのは、「できたてのお菓子を届けること」。
看板商品のシュークリームは、注文を受けてからクリームを詰めるスタイルをずっと続けています。サクサクの皮と新鮮なクリームが味わえるのはこの方法だからこそ。1日に何度も追加で焼き上げても、午後には完売してしまうほどの人気商品です。
また、ショートケーキは特注窯で焼き上げるふわふわのスポンジと、甘さ控えめで口どけの良いオリジナルブレンドの生クリームが特長です。「生クリームは苦手でも、幸せの丘のケーキなら食べられる」と言われることも多く、幅広い世代に愛されています。
これらの人気商品はレシピを大きく変えずに守りながらも、時代に合わせた小さな工夫を重ねてきました。「変わらない味を守りつつ、より良く進化させていく」姿勢は、長く愛され続ける理由のひとつです。
できたてにこだわることは、一見当たり前のように思えるかもしれません。しかし実際には、仕込みや焼き上げのタイミングを調整するなど、鮮度を落とさない工夫をする必要があります。お菓子は“完成した瞬間”が最も美味しい。その一瞬をお客様に届けるためにこだわっています。
固定観念にとらわれない。お客様に喜ばれる新商品開発
幸せの丘では、伝統の味を守る一方で、常に新しいお菓子づくりにも挑戦しています。ポイントは「今のお客様が何を求めているか」を意識すること。
例えば最近人気の「ウサギのスイーツ」も、社長の経営者仲間や他店から得た情報をヒントに誕生しました。「うちの店はこれしか作らない」と固定観念にとらわれず、他店を研究し、自分たちらしくアレンジして取り入れる。こうした柔軟な姿勢が、地域のお客様に喜ばれる商品を次々と生み出しています。
また、幸せの丘では経験年数に関わらず誰もが挑戦できるのも特長です。1年目の社員でも試作が認められれば商品化につながり、実際にヒット商品を生んだケースもあります。商品化のプロセスでは「原価計算」「ターゲット層」「売れる理由」を考え抜くことが求められます。単なる「作りたい」ではなく「お客様に届く商品」を生み出す経験は、パティシエとしてだけでなく経営視点を持った職人へと成長させてくれます。
地元で愛され続ける秘密は“還元”と“つながり”にあり!
幸せの丘が厚木で長く愛されている理由は、美味しさだけではありません。地域に根ざした活動を続けてきたことが大きな要因です。
たとえば、毎月の還元イベント。ロールケーキを半額で提供したり、桃やメロンなど旬のフルーツを使ったケーキを特別価格で販売したり。利益よりも「たくさんのお客様に喜んでほしい」という思いを優先し、感謝を伝える場にもなっています。
また、季節ごとのイベントも恒例です。夏祭りやハロウィンでは射的や輪投げ、仮装イベントを開催。子どもの夢をケーキで表現する「夢ケーキ」などユニークな企画も実施し、地域の子育て世帯にとって「家族で楽しめる場」となっています。
さらに、キッズパスポートの仕組みでは、来店ごとにシールを渡し、貯まるとプレゼントと交換できます。子どもたちにとっては「通う楽しみ」となり、家族ぐるみで通うきっかけにつながっています。
こうした取り組みを通じて、幸せの丘は「ケーキを売るお店」を超えて、地域の暮らしの一部となってきました。ここには、パティシエとして技術を磨くだけでなく、“お客様と長く関係を築く姿勢”を学べる場もあります。
地域の現場でしか得られない学びの体験
幸せの丘では、地域に根ざしているからこそ、店内業務だけでは得られない経験ができます。
農業組合と連携した親子ロールケーキ教室では、スタッフが講師となり、子どもたちにお菓子づくりを教えています。目を輝かせる子どもたちや「ありがとう」と直接声をかけてもらえる体験は、パティシエとして大きなやりがいを実感できる瞬間です。
また、駅構内にある「スイーツボックス」など、催事にも出店しています。ここでは、店頭とは違い、数秒で「買う・買わない」が決まります。どんな見た目なら手に取ってもらえるのか、価格はどう設定するか、声をかけるタイミングはいつがいいか、一つひとつを試行錯誤しながら学べます。
こうしたお客様の反応を肌で感じながら工夫を重ねる経験は、販売力や接客力を磨く貴重な場となっています。
地域に根ざしているからこそ、ただお菓子を作るだけでなく、“売れる工夫”や“お客様との関係づくり”を体験しながら学べる環境があるのです。
学生のみなさんへのメッセージ
幸せの丘は、できたてにこだわり、地域に根ざしたお店づくりを続ける中で、多くのお客様に支えられてきました。そこでは、伝統の味を守るだけでなく、新しい商品開発やイベント、外販といった挑戦の機会が日々あります。
こうした環境で働くと、お菓子づくりの技術はもちろんのこと、「お客様の立場で考える力」や「売れるための工夫」といった幅広い視点も自然と身につきます。お菓子を作る人から“愛される職人”へと成長できる場が、幸せの丘なのです。
これからパティシエを目指す皆さんには、失敗を恐れずにたくさん挑戦してほしいと思います。地域のお客様の笑顔に直接触れながら、自分の力で“幸せな一瞬”を生み出す。その経験は、きっと将来どこに行っても大きな財産になるはずです。
