「いつかは自分のお店を持ちたい」――そう夢見る学生も多いのではないでしょうか。けれど、数あるお店の中で創業し、長く地域に愛され続けるお店をつくるのは決して容易ではありません。
そんな中、厚木で50年にわたり「記念日や誕生日といえば幸せの丘」と親しまれてきたパティスリーがあります。そこには、数々の苦労や挑戦、そして決して揺らぐことのない信念がありました。
今回は、「幸せの丘」の岡田浩明社長に、創業から現在に至るまでの歩みを伺いました。
ケーキハウス 幸せの丘
1975年創業。神奈川県厚木市に本店を構え、親子三世代にわたり愛されているパティスリー。看板商品のシュークリームや ショートケーキをはじめ、地域の暮らしに寄り添った商品やイベントで人気を集めています。
幸せの丘はどのように誕生したのですか?
「幸せの丘」は1975年、私の父が座間に小さなお店を構えたのが始まりです。高知県出身の父は修業を積んだのち、「できたての美味しいケーキを多くの人に届けたい」という想いを胸に神奈川で独立。母とスタッフ1人のわずか3人でのスタートでした。
お店の名前は、創業の地が丘の上にあったこと、そして「岡田」という名字の“岡”を重ね合わせ、「お菓子で人を幸せにしたい」という願いを込めて「幸せの丘」と名付けられました。誰にでも覚えやすく、親しみを持ってもらえる名前にこだわったのです。
創業時にはどのような苦労がありましたか?
当時はまだ洋菓子店自体が少ない時代。宣伝やSNSもなく、口コミがすべてでした。父と母は一人ひとりのお客様に丁寧に接し、信頼を積み重ねながら少しずつ常連客を増やしていきました。
店を支えていたのは、看板商品のシュークリームとショートケーキ。レシピは大きく変えずに受け継がれており、「変わらない美味しさ」が地域の人々の心をつかんでいきました。
一方で、経営は常に順風満帆ではありませんでした。材料費や人件費の負担、スタッフの独立など、課題は尽きません。それでも「お客様にできたてを届けたい」という思いを貫き通すことで、お店は少しずつ信頼を築いていきました。
転換期となった出来事はありますか?
1989年に厚木へ移転したことは、大きな転換点でした。
「お父さんのお小遣いでケーキを3つ買える店」を理想に掲げ、一軒家を改装して“おうちのようなケーキ屋”を目指しました。ピンク色の壁に温かい雰囲気――地域の人々が気軽に立ち寄れるお店として親しまれ、売上は大幅に伸び、神奈川県でもトップクラスの人気店へと成長しました。
私自身も製菓専門学校を卒業後、ホテルやブライダル系の店舗で修業を積み、2代目として店を引き継ぎました。しかし、時代は変わり、人材不足や働き方改革など新たな課題が山積みでした。そこで、週休2日制の導入や大型機械の導入による効率化など、大胆な改革に踏み切ったのです。
「代が変わって落ちたとは言われたくない」――その思いで必死に挑戦を続けたことが、現在の幸せの丘の基盤となっています。
先代から受け継いだ想いは何ですか?
父が大切にしていたのは「従業員を家族のように大切にする」ことでした。その考えは今も幸せの丘に息づいています。
現在も長く働き続けるスタッフや、独立して店を成功させた元スタッフと交流が続いているのは、先代の人柄とその精神を受け継いでいるからこそです。人を大切にする社風が、働きやすく温かい職場環境を支えているのです。
人材育成で意識していることはありますか?
私は「新人だから下積みだけ」という考えは持っていません。1年目のスタッフでも、意欲があれば商品開発に挑戦できます。実際に、入社間もない社員がヒット商品を生み出した例もあります。
ただ作るだけではなく、原価計算やターゲット設定まで考えることを求めています。失敗しても構いませんが、なぜ失敗したのかを分析し、次に生かす。その繰り返しが成長につながるのです。
さらに、社外研修や講習会にも積極的に参加できるようにしており、学んだことは必ずお店に還元してもらいます。こうした取り組みを通じて、スタッフは単なる「お菓子を作る人」ではなく「考える職人」へと育っていきます。
これからの未来について教えてください。
幸せの丘はこれからも「厚木で一番愛されるケーキ屋」であり続けたいと考えています。地域のイベントやお客様とのつながりを大切にしながら、新しい商品開発や働きやすい環境づくりに挑戦していきます。
また、独立を目指す人には必要な知識や経験を惜しみなく伝えたいと考えています。実際に幸せの丘から独立して成功した元スタッフもおり、そうした文化をこれからも引き継いでいきたいです。
これから一緒に働くみなさんへ
創業から今日までの歩みは、決して平坦ではありませんでした。だからこそ私は、「失敗しても挑戦することの大切さ」を伝えたいと思います。
幸せの丘には、できたてにこだわる技術、地域に愛される工夫、そして挑戦を歓迎する風土があります。ここで学べるのは、お菓子づくりの技術だけでなく、「人を喜ばせる工夫」や「経営的な視点」といった、将来必ず役立つ力です。
将来、自分のお店を持ちたい人にとっても、地域に根づくお菓子屋で働く経験は大きな財産になるはずです。ぜひここで多くを学び、自分の夢を形にしていってください。
