食材が「料理」として提供されるまでには、生産・加工・販売・サービスといった多くの段階があります。生産から提供までを一社で一貫して担う(6次産業化)ことは決して容易ではありませんが、今回はその挑戦をいち早く実現し、独自ブランド鶏で飲食業態を確立した企業をご紹介。料理人としての学びを深めるヒントをお届けします。
お話をうかがったのは
株式会社炭寅コーポレーション
福岡を中心に、12店舗の焼き鳥店や居酒屋を展開。開発に携わったブランド鶏「みつせ鶏」の飼育から販売までを手掛ける「第6次産業化」※ の先駆けとして業界を牽引する存在です。地域一番の繁盛店、地域一番の厚待遇企業を目指しています。
※一次産業=生産(農業・畜産など)、二次産業=加工、三次産業=販売やサービス。これらを一社で一貫して行い、新しい価値を生み出す取り組みを「6次産業化」と呼びます。
※現在は以前の親会社である㈱ヨコオと2社で6次産業化となっています。
※一次産業=生産(農業・畜産など)、二次産業=加工、三次産業=販売やサービス。これらを一社で一貫して行い、新しい価値を生み出す取り組みを「6次産業化」と呼びます。
※現在は以前の親会社である㈱ヨコオと2社で6次産業化となっています。
代表取締役 横尾 和磨 氏
「みつせ鶏」誕生の背景
炭寅コーポレーションの創業は1975年(昭和50年)、養鶏事業を手がけていた祖母が「うちの鶏をもっと美味しく届けたい」と、焼鳥屋を開業したことが始まりです。養鶏事業(現:株式会社ヨコオ)としては、1963年(昭和38年)から鶏肉の生産と加工に取り組み、「もも肉」「胸肉」など部位ごとの精肉提供を導入するなど、食肉流通の新しいスタイルを広げていました(㈱ヨコオの外食事業部として始まった炭寅は、現在は㈱炭寅コーポレーションとして独立しております)。
当時は欧米から入ってきたブロイラー(量産用の白い鶏)を育てていましたが、鶏肉ならではの豊かな味わいと安全性を備えた品種を追求する中、1988年(昭和63年)に独自のブランドの鶏を作り出す研究が始まりました。世界で400種ある赤鶏の中から、フランスの赤鶏「レッドブロ」を導入。その後7年という歳月をかけて誕生したのが、理想的な肉質と旨味を兼ね備えた「みつせ鶏」です。現在の日本の流通市場では約1.5%しか存在しない「優良肉用鶏」の銘柄鶏のひとつで、非常に稀少な鶏として知られています。
ブロイラー vs 赤鶏、その違いと美味しさの理由
「ブロイラー」と呼ばれる白い鶏は、短期間で大きく育つため飼育コストを抑えられるのが特徴で、現在でも市場に出回る鶏肉の大半を占めています。成長が早い分、肉質はやわらかいものの水分が多く、あっさりとした味の傾向があります。
それに対して赤鶏は、自然な環境と長期飼育で育つ「優良肉用鶏」で、スローグロウスと呼ばれているように、ゆっくりと時間をかけて育つ品種です。ブロイラーが約40日で出荷できるのに対し、赤鶏は60日~80日と、約1.5倍の時間をかけて育てるためコストがかかりますが、その分肉質は締まり、旨味が濃く、弾力のある食感が楽しめます。効率よりも美味しさを優先する姿勢から生まれた「みつせ鶏」は、今では炭寅コーポレーションの代名詞ともいえるブランドに成長しています。
鮮度を守り、余さず活かす取り組み
佐賀の工場で処理・精肉された鶏は、その日の夜のうちに提携の運送業者によって各店舗へ配送されます。スタッフが出勤すると、すぐに仕込みができる状態になっており、いわば「前日処理・翌日提供」というスピード感が実現されています。通常は2日以上かかるところ、当社では一貫体制と専属の協力会社による直送によって最短ルートを確保。この仕組みこそが、みつせ鶏の鮮度と美味しさを守る大きな強みとなっています。
さらに、生産から携わる6次産業の仕組みを活かし、一般にはほとんど出回らない希少部位も提供しています。代表的なのが「鶏とろ」と呼ばれる部位で、胸肉の付け根にあるごくわずかな部分。淡白でありながら驚くほどジューシーで、噛むほどに旨みが広がります。こうした部位を無駄なく活かすことは、鶏一羽への敬意を形にするものでもあります。また、鶏をカッティングする際に出る端肉はまかないで使うなど、余すところなくいただく工夫も各店舗で徹底しています。
命に向き合う料理人の責務
炭寅では、焼き鳥を焼くのは社員に限られています。さらに焼き手は、社内の技術審査をクリアした者だけ。なぜなら、鮮度を損なわず、美しい仕上がりで提供するためには、想像以上に繊細な手さばきや火入れの技術が欠かせないからです。食材への敬意と「無駄なく一番おいしい形でお客様に届けたい」という強い思いが、この厳しい基準の背景にあります。
また、新人社員は入社後の研修で、養鶏場や加工場を必ず見学します。鶏が育つ環境や精肉の工程を自分の目で確かめることで、「料理は命をいただいて成り立つ」という実感を得られるからです。その経験が、焼き場に立つときの心構えとなり、一串一串に込める真剣さへとつながっていくことを信じています。
料理の世界は技術を磨く場であると同時に、食材や人への思いを形にする場所でもあります。食材の背景を知り、その命に向き合う姿勢は、これからの持続可能な食や社会を考えるうえでますます重要になるでしょう。今回の記事がみなさんの学びの一助になればうれしく思います。
