日本海に面した京都府京丹後市の間人(たいざ)地区は、幻の高級蟹「間人ガニ」で知られる港町です。
今回は、蟹の鮮度を活かした「活ガニ料理」の文化が根付くこの地で、創業156年の歴史を紡ぐ老舗「間人温泉 炭平旅館」を訪問。
「間人ガニ」の希少性や、独自ブランドの「はしうどガニ」、さらに活ガニの付加価値を高める調理の工夫についてお話をうかがいました。
今回は、蟹の鮮度を活かした「活ガニ料理」の文化が根付くこの地で、創業156年の歴史を紡ぐ老舗「間人温泉 炭平旅館」を訪問。
「間人ガニ」の希少性や、独自ブランドの「はしうどガニ」、さらに活ガニの付加価値を高める調理の工夫についてお話をうかがいました。
【間人温泉 炭平旅館(株式会社炭平旅館)】
京丹後市で最も歴史の長い温泉旅館。港から二時間の漁場で獲れる希少な「間人蟹」や、独自に選び抜いた最高級品質の「はしうどガニ」を提供し、地元に息づく活ガニ文化を牽引しています。
京丹後市で最も歴史の長い温泉旅館。港から二時間の漁場で獲れる希少な「間人蟹」や、独自に選び抜いた最高級品質の「はしうどガニ」を提供し、地元に息づく活ガニ文化を牽引しています。
“幻の蟹”と言われる「間人蟹」とは?
「間人蟹」は京都府京丹後市の間人漁港で水揚げされるズワイガニのブランドです。日本海沖には帯状に蟹の漁場がありますが、丹後半島沖では漁場が丸く広がっていて、蟹の生息域になっています。この漁場の深海部には「日本海固有水」と呼ばれる水温0〜1℃の海水帯があり、蟹の餌となるプランクトンや小動物が非常に豊富。この環境が、蟹身の甘さや濃厚な味噌のうまみを育むと言われています。
間人港はこの漁場から約二時間と近く、漁獲した蟹をその日のうちに港へ持ち帰り、鮮度を落とさず競りにかけられるのが大きな強みです。
漁獲環境の厳しさと最高品質へのこだわり
「間人蟹」が「幻」と呼ばれる理由は、その漁獲環境の厳しさにもあります。間人漁港にはわずか5隻の小型底曳網漁船しか所属しておらず、網は横から降ろす方式。海が荒れると転覆の危険があるため、出航できる日数は限られます。
蟹は深海の泥の中に重なり合って潜んでいるため、300メートル下まで狙いを定めて網を下ろし、引き網で上げる作業を繰り返します。さらに、船上では漁師が徹底的に選別を行い、間人ブランドとして太鼓判を押せるものだけを港に持ち帰ります。水揚げ量の少なさは、間違いなく美味しいものを届けるという、漁師さんたちの誇りと情熱の表れでもあるのです。
3日間かけた泥抜きと徹底した品質管理
「間人蟹」は泥の中に生息しているため、そのままでは食した時に、泥の臭みが残ります。炭平旅館では競り落とした蟹を三日間、専用水槽で管理。海水を入れ替えたり、水槽を移したりしながら泥抜きを行います。7つある水槽(合計1400杯の蟹を入れることができます)には、専用の冷却装置がついており、常に蟹の生息域と同じ1度の水温をキープ。光が当たると動き出して身がやせたり、蟹同士が脚で傷つけ合ったりするため、遮光や状態の管理も欠かせません。
また、絶品と称される蟹味噌(肝膵臓にあたる部分)にはキチンキトサンなど栄養価の高い成分が含まれていますが、蟹がストレスを受けると、この味噌の味や成分が変わってしまうことが確認されています。年間で約一万匹の蟹を捌く料理人だけが、このわずかな変化を見抜くことができるのです。
「はしうどガニ」 漁場を超え、その日一番の蟹をお客様に
お伝えしてきたように「間人蟹」は最高級の蟹ですが、水揚げ量が少なく希少なため、予約数に見合う確保が難しい場合があります。そこで炭平旅館では、間人蟹が獲れる丹後山陰沖合で水揚げされたズワイガニの中から特級品を厳選し、「はしうどガニ」という名称でお客様にご提供するプランをはじめました。
名前は地域名「間人(はしうど)」に由来しており、「地域の実力をもってすれば、間人ガニのブランドにこだわらずとも、最高の蟹をご提供できる」との思いを込めました。現在は当社の自社ブランドとしてご案内をしていますが、今後は地域ブランドとして街の魅力発信の一助を担えたらと思っています。
活ガニ文化と独自の調理法
「茹で蟹」が主流の越前地方に対し、京丹後では「活蟹」を中心とした食文化が根付いており、炭平旅館でも仕込みから提供まで一貫して「活蟹」の旨みを最大化する工夫を行っています。なかでも象徴的なのが、「酔い締め」と呼ばれる締め方です。活き蟹に布を巻き、そこに日本酒を染み込ませて、仮死状態にしてから調理をする方法で、次のような効果があります。
① 蟹味噌を守るため
カニはストレスを受けると蟹味噌の味や栄養が落ちます。暴れさせないことで味噌の劣化を防ぎ、身の繊維やはさみの損傷も避けられます。
カニはストレスを受けると蟹味噌の味や栄養が落ちます。暴れさせないことで味噌の劣化を防ぎ、身の繊維やはさみの損傷も避けられます。
② 雑味を広げないため
死んだ直後から、えらやふんどしにある雑味が全体に広がるため、酔わせて仮死状態のまま締めることで、そのリスクをなくします。
死んだ直後から、えらやふんどしにある雑味が全体に広がるため、酔わせて仮死状態のまま締めることで、そのリスクをなくします。
③ 旨みと甘みを引き立てるため
カニは米によく合う食材で、日本酒との相性も抜群。酒の香りが旨みや甘みを一層引き出します。
カニは米によく合う食材で、日本酒との相性も抜群。酒の香りが旨みや甘みを一層引き出します。
また、調理にも毎年工夫を凝らしており、名物の「味噌しゃぶ」では奥深い味わいと、工芸茶のような美しさを楽しむことができます。新鮮な蟹の味噌を鍋にひとつまみ落とすと、繊維が花のように開くので、それをすくってお猪口で召し上がっていただく。蟹の身より「味噌しゃぶ」を目当てに訪れるお客様もいらっしゃるほど人気の一品となっています。
地域の資源と文化で「オンリーワン」の体験を提供
蟹の価値や魅力は漁場や鮮度だけでなく、漁師や料理人など多くの人の誇りと情熱に支えられています。命懸けの漁で選び抜かれた蟹を、徹底管理と試行錯誤を重ねた調理法で最良の状態に仕上げることが私たちの使命。今後も、蟹に自家製の塩や油を組み合わせるなど、美味しい食べ方を究極まで追求していく所存です。地域の資源、文化と伝統をみんなで守り育てながら、これからも「ここでしか出会うことのできない上質な体験」の提供に努めていきたいと思っています。
