小田原の地で40年にわたり、地域の人々に親しまれてきた洋菓子店「樫の樹」。現在は二代目の草間幸(くさまゆき)社長が、先代の想いを受け継ぎ、未来へとその志をつないでいます。甘い香りに包まれたお店には、お菓子づくりへの真摯な姿勢と、地域への深い愛情が息づいています。今回は「樫の樹」の歩みや想い、そしてこれからの展望について、草間幸社長にお話を伺いました。
有限会社樫の樹 代表取締役社長 草間 幸(くさま ゆき)氏
幼少期より父・草間次郎氏が創業した「樫の樹」の姿を間近で見て育つ。 大学卒業後、一度は一般企業への就職も検討したが、お菓子作りへの道を選び、辻製菓専門学校へ入学。 卒業後は、都内有名パティスリーを含む複数の店舗での修業を積み、現在は「樫の樹」二代目社長として、技術の継承とともに、 職場環境の整備や人材育成にも力を注いでいる。「幸せ・やさしさ・安心」をテーマに、お菓子と職場づくりの両面で地域に 寄り添う経営を実践中。
■創業に込められた「地域を守る」想い
私の父・草間次郎は、中学卒業後すぐに洋菓子店で修業を始め、菓子職人としての人生をスタートしました。若いころ、仲間たちと語り合ったのは、「いつか自分の店を持ちたい」という夢と、「お菓子を好きなお客様が来てくれることの幸せ」だったと聞いています。
そして、1985年、38歳で小田原に移り住み、夫婦二人三脚で小さな店舗を構えました。開業当初は朝4時から仕込みを始め、すべての工程を自分たちでこなす毎日。当時、小田原のこの地域では洋菓子店が珍しく、開店を待ち望んでくれていた多くのお客様が来店し、次第に「地域にとってなくてはならない存在」となっていきました。
それから40年、震災やコロナ禍など、苦しい時期もありましたが、そんな中でも「開いててよかった」とお客様が変わらず足を運んでくれました。地域のお客様の温かい支えによって「樫の樹」は今日まで歩みを続けています。
店名「樫の樹」の由来は、父の故郷・茨城に並ぶたくましい樫の木。風よけになり、地域を守る存在であるその木のように、「自分たちも地域の暮らしに寄り添える存在でありたい」という想いが込められています。これからも、地域を支え、寄り添えるようなお店であり続けたいと思っています。
■お菓子で届ける、ささやかな幸せ
「安心・安全で幸せを届け、お客様に喜んでもらうこと」
これは父が大切にしてきた信念です。
そして、私の名前「幸」は、父が“人に幸せを与えられるように”という思いを込めてつけてくれました。父の信念を受け継ぎながら、その名前に恥じぬよう、今度は私が地域の皆さまに「幸せ」を届けられるようにと日々を仕事をしています。
ケーキは、誕生日や記念日、ちょっとしたご褒美など、人生の中の“ささやかな幸せ”に寄り添うもの。だからこそ、どんな商品にも気持ちを込めて届けたいと思っています。
「幸せロール」など、名前に“幸”を込めた商品もその象徴。ありがたいことに、たくさんのお客様から好評をいただいています。
■“人”と“技術”を育て、安心して働ける職場に
父が大切にしていたのは、「人とのつながり」でした。遠方から修業に来てくれた若者に対しても、技術を惜しみなく教えるだけでなく、自宅に招いてご飯を食べるなど、家族のように接していました。
私は今、社長として「安心して働ける職場環境」を大事にしています。洋菓子業界では昔ながらの厳しい職場環境が残る店もありますが、『樫の樹』では早くから社会保険の整備や労働時間の管理などを徹底し、働く人の安心を第一に考えてきました。
技術はもちろん、働く人の人間性を育てること。お菓子を通じて人を育て、地域を育てていく。それが『樫の樹』の文化です。
■昨日の自分を超えること。それが仕事の楽しさになる
私がスタッフによく伝えているのは、「昨日の自分を超えよう」ということ。どんなに小さなことでも、昨日よりちょっとだけでも良くなれたら、それは立派な成長だと思うんです。
お菓子作りは、地道で繰り返しの多い仕事。でも、そこに工夫や気づきを積み重ねていくことで、やりがいが生まれます。50歳になった今も、私は「昨日の自分より、今日の自分のほうが少しでも良くなっていたい」と思いながら働いています。
誰かの幸せを支えるという誇りと、自分の成長を実感できるという実感。その両方があるのが、パティシエという仕事の魅力です。
■これからの『樫の樹』が目指す未来
今後は、お店の規模をむやみに広げるよりも、むしろ、地域に根ざした“特別なお店”としての役割を、もっと深めていきたいと考えています。
そのために、守るべきものは守りながらも、新しいものは柔軟に取り入れ、季節感や地域素材を取り入れた商品開発にも力を入れていきたいですし、地域の生産者さんとのつながりも大切にしたい。さらに、スタッフ一人ひとりが“自分ごと”としてお店づくりに関われるような、新しいチャレンジの機会もつくっていきたいと思っています。
「地域の誰かの大切な一日を、ケーキで支える」。そんな小さな幸せを積み重ねて、これからの『樫の樹』の歴史を、みんなでつくっていけたら嬉しいです。
■未来を一緒につくる仲間へ
『樫の樹』は小田原にある小さな洋菓子店です。でも、小さな店だからこそ、一人ひとりの存在がとても大きい。自分の仕事が、誰かの笑顔につながっていると実感できる場所です。
今はまだ自信がないという方も大丈夫。私たちは、時間をかけて丁寧に育てていくつもりです。大切なのは、素直に学び、昨日の自分を超えようとする気持ち。
「樫の樹で働いていたことが、誇りになる」 そんな場所を、これからも守り育てていきたい。そして、その未来を一緒につくっていける仲間と出会えることを、楽しみにしています。
