ユネスコ無形文化遺産にも登録されている「和食」。その技と食文化を継承する日本料理店では、伝統を重んじることが極めて重要です。しかし、刻々と変化する時代の中で、過去と同じことだけを続けていたのでは、お店も人も活性化しません。
伝統を受け継ぎながら、新たなことにもチャレンジを続ける日本料理店「四季の味ちひろ」。温故知新を信条とする、その真髄に迫ってみました。
お話を伺ったのは、「四季の味ちひろ」の二代目代表取締役・西廣真治氏です。
先代から引き継いだ店を守り抜くために
和歌山県和歌山市にある「四季の味ちひろ」は、60年以上の歴史を持つ老舗の日本料理店です。創業者である先代は大阪で修行し、和歌山初のフグ専門店として開業。名物料理のてっちりをはじめ、和歌山の海の幸・山の幸をふんだんに使った鍋料理、そして四季折々の会席料理を提供し、家族や親しい人との会食、接待、慶事や法事などに利用される店へと成長を遂げてきました。
その二代目を継いでいるのが、先代の息子である現社長・西廣真治氏です。
西廣社長はかつて証券会社に勤務し、輝かしい実績を残してきた敏腕ビジネスマンです。
「人生の節目節目に人々が集い、食事を楽しむ————そんな昔からの習わしの場として、当店は必要とされている。この伝統を守り続けなくてはいけない」という強い想いを抱きながら、「新しい時代で生き残っていくためには、社会のニーズに合わせて変化することも必要」と、社長就任後はこれまでになかった新しい取り組みにも果敢に挑戦しています。
和歌山の魅力に触れるきっかけに〜殿様献上料理を再現〜
中でも西廣社長が力を入れているのは、自社とともに地域社会を活性化する取り組みです。
和歌山は海、山が近くにあり、旬の食材に恵まれた地域。醤油や味噌といった、和歌山発祥のものも多くあります。世界初の全身麻酔による外科手術を成功させた華岡青洲、粘菌の研究で功績を残した南方熊楠など、世界的な偉人も数多く輩出しています。
ところが、こういったことが県外や世界にうまくアピールできていないばかりか、地元の人ですら知らないことも少なくありません。
「まずは自分のふるさとや、住んでいる地域のことを知ってほしい。そうすれば郷土愛が生まれます。地元を愛することは、地域を活性化することにつながるはずです」と西廣社長。
地産地消にこだわり、紀州の食材を使った料理を提供し続けているのも、和歌山の魅力を伝えたいという想いによるものです。
そして、地域を活性化するための取り組みの1つとして、2021年には「紀州徳川家の殿様献上料理」をメニュー化しました。
これは、徳川家康の十男で、紀州徳川家の初代藩主であった徳川頼宣が、三重県へ鷹狩りに行った時の殿様献上料理を再現したものです。徳川家菩提寺の国宝・長保寺に眠っていた献立を、文献資料をもとに試行錯誤し完成させました。
予約制のこのメニューは県外からの観光客に喜ばれ、和歌山の魅力を感じてもらうツールになっています。また、地元の人にも和歌山の歴史を知ってもらうきっかけとなり、郷土愛の醸成に役立っていると言います。
日本文化を親しみやすい形に〜立礼式の茶室を設置〜
西廣社長はさらに、和歌山だけでなく、日本の歴史や文化を伝えていくことにも強い使命感を持っています。
その1つは、もちろん“本物の日本料理”です。それだけにとどまらず、「四季の味ちひろ」では茶室を備え、お茶を体験し禅の世界観に触れる機会も提供しています。
5年前には従来の座敷スタイルから改装し、イスとテーブルの立礼式の茶室「千寿庵」を設置しました。これも、正座できない人が増えてきている現代のニーズに応えた、新しい取り組みの1つです。
社長自身も表千家に所属しており、この茶室は表千家の先生の監修によって、お茶のお稽古や初釜にも対応できる正式な仕様になっています。
毎週月曜日には、食後に抹茶を楽しんでもらうサービスデーを設けていて、外国人や若い人にも日本文化に触れてもらういい機会になっています。
このように時代のニーズに合わせて変化していくことは、現代を生き抜く術でもあり、同時に、若い人たちにも触れやすい形にすることで伝統文化を残していくことにもつながっているのです。
これこそが、西廣社長が大切にしている「温故知新の精神」の真髄といえるでしょう。
メッセージ〜共にアイデアを出し合い、楽しい挑戦をしよう!〜
5年前の改装時には、お客様が高齢になってもこれまでと変わらず来ていただけるよう、店内にエレベーターを設置しました。コロナ禍には、高級仕出し弁当の分野にも進出しています。西廣社長は、これからも地域社会を活性化するようなユニークな取り組みをいろいろと考えていると言います。
そんな西廣社長に、「四季の味ちひろ」に興味を持ち、一緒に働きたいと思う皆さまへのメッセージをいただきました。
「働く人が変われば、人それぞれのやりたいことや考え方が異なるため、取り組むべき内容も変わってきます。当社では、従業員一人ひとりの声にも、極力応えたいと思っています。
また、新しい取り組みは、働く人の成長にもつながります。殿様献上料理を手がけた料理長は、現在は独立し、自分の店を構えるまでになりました。新しいことに挑戦し、真剣に取り組んだからこそ、夢を実現する力を身につけられたのだと思います。
これから入社していただく皆さんも、ぜひ自分のやりたいことを伝えてきてください。そして、当社が行う伝統の継承と新たな挑戦に、共にわくわくしながら力を貸してもらえたら嬉しいです!」
