独立を夢見る料理人にとって、タイミングやその先の道筋を見極めることは大きな課題です。今回は2023年3月のオープン以来、早くも予約困難店として注目を集めている京都「廣澤」のオーナーシェフ・廣澤将也さんに、好調なスタートを切るためにどんな準備をしてきたのか、独立一年目のリアルについて語っていただきました。
【PROFILE】
廣澤将也:「廣澤」オーナーシェフ
「赤坂璃宮」へ新卒入社して3年目に副料理長を務めたのち、京都祇園「蓮香」料理長、香港「陶源酒家」副料理長、大阪北新地「蓮心」料理長を経て、2023年3月に完全独立。34歳で「廣澤」を開業。日本料理やフレンチなどの技法を自在に取り入れた新発想のモダンチャイニーズが注目を集め、全国からファンが来店する人気店となる。「ミシュランガイド京都2024 セレクテッドレストラン」「The Tabelog Award 2024 Bronze/Best New Entry」受賞。
京都「蓮香」料理長への転機をつかむまで
小学生の頃にダイナミックな中華の世界に憧れて、専門学校卒業後は「赤坂離宮」で5年間修業をしました。もともとチャーハンづくりが大好きで、高校時代は一日20回以上も鍋を振り、研究を重ねたこともあります。修業時代も、どんなにしんどくてもチャーハンだけは毎日作り続けた結果、赤坂璃宮の3年目で副料理長のポジションを任されるようになりました。
35歳までに独立することを目標にしていたので、コース料理はすべてつくれるよう独学で勉強をしていました。そんな中、私の料理を召し上がったお客様から、京都「蓮香」の料理長のお話をいただいたのです。独立を意識してしっかり準備を進めていたおかげで、迷うことなくそのチャンスをつかむことができました。
完全独立に踏み切った背景
「蓮香」の5年間の中では、うまくいかないもどかしさに苦しんだ時期もありました。飛び込み同然で香港へ修業に行き、あえて厳しい状況に身を置いて自分を奮い立たせたことも。実力不足によるつらさや苦しさは二度と味わいたくない、との思いは、その後大阪「蓮心」の料理長になってからも、努力に努力を重ねる原動力になりましたね。次第に、「お客様が自分の料理を受け入れてくださっている」ことを肌で感じられるようになり、その成功体験が完全独立を後押ししてくれました。「蓮心」が「The Tabelog Award 2021 Silver/Best New Entry」を受賞したことも自信につながりました。
独立は「自己表現の場」
自分の店を開くにあたり、「お店は自己表現の場」との考えから、店の名前は「廣澤」としました。ロゴも書道セットと半紙100枚を買ってきて自分で書いたんですよ。最初は一枚の半紙に「廣澤」と書いていたんですが、なかなかバランスがとれなくて。97枚目と98枚目に一文字ずつ「廣」「澤」と書いたらうまくかけたので、その二枚を採用しました。世界観は「居心地のいい空間」をコンセプトに、椅子、テーブル、カトラリー、ワインクーラーなど、目にするものや触れるもの、すべてが気になる「唯一無二」のお店づくりを目指しました。
たくさんのお客様に支えられての開業
「蓮香」・「蓮心」でお店の立ち上げを経験していたこともあり、開店準備は比較的スムーズに進み、物件も尊敬しているお客様からイメージどおりの町家造りをお借りすることができました。たくさんのお客様に支えられての独立だったため、集客の心配なくスタートを切れたのは本当に幸せなことだったと感じています。「廣澤」を訪れた従来からの常連客様に「あなたらしいお店だね」と言っていただくと、自分の全てを褒めていただけたようでものすごく嬉しいです。料理に向き合う姿勢や、自分が表現したい世界観を応援してくださるお客様に、これからも一流の料理で御恩返ししていきたいと思っています。
応援と感謝、そして挑戦
日々、自信をもってお料理を提供している一方で、メニューが変わる月初めは毎月ドキドキが止まりません。お客様の反応が怖くて、なかなかカウンターに行けないこともあり、スタッフからは「廣澤さんは謙虚シェフ代表ですね」なんて言われています。そんな中でお客さんの笑顔や「美味しい」という言葉に触れると、不安が徐々に自信に変わっていくんですよ。お客様が料理の世界に入り込んでいる姿を見ると、幸せすぎて泣きそうになることもあります。誰よりも美味しいものをつくっている、という自信は、お客様に支えられているからこそのものなのです。
今後は、より多くのお客様に「廣澤」の味を楽しんでいただくために、二店舗目・三店舗目の出店にも本格的に力を入れていきます。同時に「廣澤」に魅力を感じて入社してくれたスタッフが、自己表現できる場を創ることも、これからの私の仕事だと思っています。
独立を目指す人へのメッセージ
わからないことや知らないことを敬遠せず、一歩踏み出せば、自然に二歩三歩と進めることはよくあること。やってみてダメでも「今はできないんだ」と思えば、可能性が閉ざされることはありません。私も日々コツコツと、誰よりも鍋を振ってきて、今があります。自分が本当に気持ちを込めて、一瞬のタイミングを逃さず創りあげたものが、お客様の心身に沁みていく感動は言葉に表せません。万全の準備を続けながら、時を待ち、時を創り、是非ご自身の夢を叶えてください。応援しています!
