建設の仕事は、図面を形にするだけでなく、人と文化をつなぐ力を持っています。
先般、大阪で開催された万博の会場でも、世界各国のパビリオンが個性豊かに並び、建築を通して多くのメッセージが発信されました。
今回は、フランスパビリオンの施工に携わった現場監督兼社長にお話をうかがい、国際的な建設の現場で学んだこと、そして文化や言語の違いを越えて信頼を築くために大切にしてきた考え方をお聞きしました。
先般、大阪で開催された万博の会場でも、世界各国のパビリオンが個性豊かに並び、建築を通して多くのメッセージが発信されました。
今回は、フランスパビリオンの施工に携わった現場監督兼社長にお話をうかがい、国際的な建設の現場で学んだこと、そして文化や言語の違いを越えて信頼を築くために大切にしてきた考え方をお聞きしました。
株式会社ホリーズホーム 代表取締役 堀 郷(ホリ アキラ)氏
大分県出身。 九州職業能力開発大学校から大手ゼネコンに就職後、芸人を志し所持金3万円で来阪。落語家に入門し、芸の道に励むも、再び建設の道に戻り現在に至る。2023年株式会社ホリーズホーム設立。万博フランスパビリオン施工パートナー。
世界的プロジェクトへの参加の背景
(以下、堀氏)
きっかけは、2025年の年明けに知人の現場監督から「万博のフランスパビリオンで人手が足りない」と声をかけてもらったことでした。
自社の現場も動いていたため「手伝い程度なら」と思って参加したのですが、気づけば3階エリアの内装責任者を任されることに(笑)。当時はそれほどまでに監督が不足している状況でした。
開幕まで残りわずか2カ月。大幅に遅れていた工期を取り戻し、他に先駆けて担当の3階エリアが完成。その働きを評価していただき、フランスの工事責任者から正式にパートナー契約の提案を受け、引き続き会期中のメンテナンス工事も担当することになりました。
展示空間の中枢を担う3階フロアを担当
3階は展示の入口となるフロアで、全体の動線の約半分を占めています。来場者が最初に足を踏み入れる空間であり、パビリオンの印象を左右する重要なゾーンでした。
高い完成度が求められる一方で、課題となったのは徹底した湿度管理です。
「ロダンの手」や「もののけ姫のタペストリー」など、高価で繊細な展示品を適切な状態で保つためには、博物館レベルの湿度コントロールが必要でした。一般建築とは異なる環境設計に挑めたことは、大きな学びになりました。
また、専門業者の多さと調整の複雑さも特徴的でした。建築・内装に加え、サイン(看板)、照明、ブランド展示の演出など、日々多彩な業者が出入りする現場は、いわば多国籍・多業種の職人たちの集合体。ひとつの仕上げの裏には数社の意図や手順が絡み合っていて、どの工程をどこまで仕上げておくかという境界線の調整は本当に大変でした。
特に私は工事の途中から現場に入ったため、最初の数日間は現場の体制を再構築することに最大のパワーを使いました。振り返っても、総合的な管理能力と決断力が試される現場だったと思います。
メンテナンスとブラッシュアップで一日3万人の来場者を迎える
開幕前は「万博パビリオンは半年もてばいい仮設建築」などと言われていましたが、少なくとも私たちが手掛けたフランスパビリオンは、通常の新築工事と変わらない、あるいはそれ以上に堅牢な建物でした。柱や壁といった主要部分は非常に頑丈に造られており、最初は「半年の会期ならメンテナンス業務もそれほど多くないだろう」と思っていたくらいです。
ところが実際には、一日3万人という来場者の往来により、壁の傷みや破損など想像以上のダメージがありました。また修繕にとどまらず、VIPエリアのドアの交換や、パビリオン横モニュメントへのライト設置、案内看板の新設など、提案による追加工事も数多く行い、常に変化し続ける現場を支えました。
単に指示を受けるだけでなく、「できないことはできない」「こうした方が良い」と率直に意見を伝え、常に対等な立場で向き合ってきたことが、現場の判断を任せてもらえる信頼につながったのだと思います。
文化の違いを越えて信頼を勝ち取る
国際プロジェクトの現場では、目的は同じでも、国によって「正しさ」の基準や大切にする価値が異なります。今回も、日本では当たり前の進め方が通用しない場面が多くありました。
日本では図面どおりに仕上げ、記録を残すことが信頼の証ですが、フランスでは「最終的に美しいこと」が最優先。図面どおりでも仕上がりの印象が違えば、即座に「やり直して」と却下されます。そこで日本の常識を持ち出しても、話はこじれるばかり。建設的に仕事を前へ進めるため、譲れない点はしっかり主張しながらも臨機応変に対応し、実際の見た目やおさまりを優先する対応を心がけました。
パビリオン正面のモニュメント台座を設置した際も、フランス側の図面通りに据えるとどう見ても不自然で、最終的には自社判断で施工時に角度を調整。図面とは異なる結果になりましたが、フランスの責任者からは「VERY NICE!」と声をかけていただきました。
小さな会社の一人社長である私が、フランス側とパートナー契約を結べたのは、文化や価値観の違いを敏感に察し、柔軟かつ迅速に対応することができたからだと思っています。
まとめ&学生のみなさんへのメッセージ
大規模な建築には、構造の複雑さや関わる業者の多さ、そして全体の工程を組み立てるプランニングなど、一般的な建築現場では得がたい経験が数多くあります。
ただし、そうした大規模建築をやり切るためには、確かな基礎力と経験、細やかな視点とが欠かせません。その力を育てる最良の場が、実はマンション建設なのだと思っています。マンションの新築工事では、構造、仕上げ、そしてお客様との関係づくりにいたるまで、プロジェクトの全てを学ぶことができます。また、居住空間としての快適さや安全性を追求する過程では、繊細で丁寧な仕事の力が磨かれます。
新築のマンションで10年経験を積めば、どんな規模の建築にも対応できる実力が身につくはずです。当社でもマンション建築を手掛けていますし、将来どんな建物でも手掛けることのできる力を身につけたい人は、私がマンツーマンで一人前の技術者に育て上げます。
興味を持って下さった方は、いつでも職場見学にお越しください。一緒に未来を描ける方に出会えることを楽しみにしています。
