料理人にとって「美味しい料理をつくること」は大切な使命です。
けれど、味が良いだけで、何十年、何百年と店が続くわけではありません。
今回は、滋賀県と京都府に店を構える老舗そば店「鶴喜そば製菓株式会社」(本社:滋賀県)の取り組みを通して、地元に愛され続ける店であるための工夫や考え方を4つの視点から紹介します。
お話を伺ったのは……
【鶴喜そば製菓株式会社】
代表取締役 真鍋 衛輝 氏
1 「日常」に根ざすことが、最大の強みになる
「鶴喜そば」の創業は享保初年頃。初代・鶴屋喜八氏が坂本の地にそば屋を開いて以来、比叡山延暦寺とのご縁を背景に、地元の暮らしに根づいた商いを続けてきました。現在は分社化を経て、「鶴喜そば製菓株式会社」として滋賀・京都に4店舗を展開しています。
観光客の多い立地ながら、店を支えているのは地元の常連の方々です。なかには、子どもの頃から通い続けている方や、今は孫を連れて来店する三世代の常連客もいます。そのようなお客様との関係性を大切にするため、たとえばランチセットの価格は長らく据え置き。実際、年金支給日には、客席がすぐに埋まるほど多くのお客様でにぎわう光景が見られます
“ふらっと蕎麦を食べに行く” “今日はちょっと贅沢に” 地域の人々の暮らしに根付き、身近な存在であり続けることこそが、長く愛される店の強みです。
2 「変えない味」と「変える工夫」を両立する
「鶴喜そば」ではセントラルキッチンで蕎麦を打ち、全店舗で提供する蕎麦の品質を均一にしています。一方で、秘伝のつゆは毎朝各店舗で出汁をひき、「昔から変わらない味」「いつ来ても同じ美味しさ」を実現しています。現場の料理人がその時々の素材や状況に応じて手を加えることで、安定と柔軟性の両立が図られています。
また、現在の真鍋社長が就任してからは、これまで存在感の薄かった鰻料理を看板商品として再定義。2000円を切る価格ながら本格的な味わいで、今ではお客様の“お目当て”のひとつとなっています。さらに、ホームページや販売サイトのリニューアルに加え、「そばそうめん」や「鮎そば」などのオリジナル商品も開発。贈答品や土産品のラインナップを拡充し、新たな需要を掘り起こしています。
守るべき味を守る一方で、時代やニーズに合わせて変えるべきところは変えていく。伝統に甘えず、挑戦を続ける姿勢が、老舗の今を支えています。
3 「無理をさせない環境」が人を育てる
店を率いる真鍋社長は、もともと建設業界出身です。15年間の現場経験を経て、5年前から鶴喜そばの経営に参画、3年前に代表取締役に就任しました。就任後は、すぐに給与のベースアップや残業削減、有給取得の柔軟化などに着手。あえて大きくアピールすることはせず、「社員が自然に気づいてくれたらそれでいい」というスタンスで、静かな改革を積み重ねています。
また、人材の育成については「一人前の仕事ができるようになるには、5年はかかります。人が育ってこそ“美味しい料理”が提供できるので、焦らず着実に成長して欲しいと思っています」と語る真鍋社長。無理をさせないという考え方は、「鶴喜そば」に昔からある穏やかな社風とも通じているようで、実際、勤続30年を超える料理長や、子育てを終えて戻ってきたパートスタッフなど、長く働く人が多いのもこの店の特徴です。
4 役割に境界をつくらず「支え合う」関係性
「鶴喜そば」では肩書にとらわれず、「自分にできることをする」という風土が根づいています。社長自身、設備の不具合があれば工具を持って現場へ向かい、店舗のトタンを貼り直すことも。もちろん、それが社長の本業ではありませんが、「できることをやる」という姿勢が、立場を越えた信頼をつくっています。実際に社内では、パートスタッフが社長に直接電話をして「この日、休みをいただけますか?」と気軽に相談できるような関係性が構築されています。こうした目に見えない「空気感」こそが、店の魅力を支えているのかもしれません。
5 まとめとメッセージ
地元に愛される店は、いつも人々の暮らしのそばにあります。
気軽に立ち寄れる安心感。変わらない味。無理なく働ける環境と、助け合える関係性。
そうした日常の積み重ねに心を配り、丁寧に育てていくこと。それこそが、店を長く続ける力になるのだと思います。
気軽に立ち寄れる安心感。変わらない味。無理なく働ける環境と、助け合える関係性。
そうした日常の積み重ねに心を配り、丁寧に育てていくこと。それこそが、店を長く続ける力になるのだと思います。
最後に、社長からのメッセージをお届けします。
「歴史は大切ですが、窮屈に考えることなく、これからもメニューや情報発信、働き方など、柔軟に変化して進化を続けていきたいと思っています。なにより、社員一人ひとりが自分らしく働ける会社を目指したいですね。一緒にチャレンジを楽しみましょう! 出会いを心待ちにしています」
