1952年に神戸・新開地で誕生し、70年以上も地元の方に愛され続けてきた老舗洋食店『グリル一平』。2019年に三宮店がテレビで紹介されると、一気に知名度を上げ連日行列ができる洋食店へ。その後は徐々に店舗数を拡大し、現在は神戸市と西宮市で4店舗を展開している。新しい業態の新店舗オープンを間近に控える中、株式会社一神(グリル一平)、4代目社長の山本憲吾氏に、飲食店の概念を壊す取り組みについて聞いてみました。
山本社長のProfile:家業を継ぐために入社するも、わずか1ヶ月で飛び出す
『グリル一平』の創業者・横山カンの娘である祖母から、「あんたがグリル一平を継ぐんやで」と言われ続け、高校を卒業後、迷うことなく株式会社一神(グリル一平)に入社。新開地本店で働き始めましたが、入社して1ヶ月も経たないうちに料理に嫌気がさしてお店を飛び出し、スーパーやガソリンスタンドでアルバイトをすることに…。
その時感じたのは、料理は好きじゃないけど接客は嫌いじゃないということ。その数年後、大阪の道頓堀にフードテーマパークができるということで「出店しないか」とお声がかかり、新店舗の立ち上げを任されたことをきっかけに料理の世界へ戻ることになりました。
人生のターニングポイント:料理への興味が芽生え、「嫌い」から「面白い」へ
大阪のフードテーマパークに出店したお店が軌道に乗ったころ、東京の西洋料理店のシェフから「一度東京に行かせたらどうや」と父にお声がかかり、そのお店で働かせてもらうことに…。料理への興味は相変わらずでしたが、シェフから指示されたことは忠実に行うよう心がけていました。
西洋料理店は土曜日の夜と日祝が定休日。休みを利用して一緒に修行していたグリル一平の社員と、毎週末いろんなお店を食べ歩きました。お酒もたしなむようになり、お酒と料理を組み合わせることで、料理のおいしさがより引き立つことを実感。その頃から料理への興味が徐々に芽生え、気づけば「嫌い」から「面白い」へと変わっていました。
料理は足し算ではなく、掛け算だとよく言われますが、組み合わせ次第で新たな可能性を切り拓いていけると思えたことが、今の私の価値観の礎となっています。
伝統に対する挑戦:新たな可能性を切り拓くために、秘伝のレシピにメス
東京での4年半の修行を終え本店に戻ったものの父とのぶつかり合いが絶えず、2011年、初代から伝わる秘伝のレシピを受け継ぎ三宮店をオープン。老舗の味をただ守るだけでなく、時代に合わせた変化も取り入れようと、覚悟を決め料理にメスを入れました。
そのひとつが、乾燥パン粉を生パン粉に変更すること。乾燥パン粉は粒が細かいのでカリッとした食感が特徴ですが、衣が薄くつくので脂っこくならず、高齢者の方にも食べやすい仕上がりになります。昔ながらの常連さんが多い新開地本店は今も乾燥パン粉を使用。それに対し、生パン粉は粒が粗いため、揚げるとサクサクとした食感になり、見た目もボリューム感があって食べ応えがある仕上がりになります。若者やビジネスマンが多い三宮店では生パン粉の方が好まれると思い変更を決意。またそれに合わせてデミグラスソースも、少し甘めの味付けに変更しました。
次へのステップ:店舗拡大と、大衆洋食・高級洋食の二極化に挑戦
2019年、三宮店がテレビ番組で紹介されたことをきっかけに、お客様が爆発的に増加。ありがたいことに、それ以来行列が絶えなくなり、一気に繁盛店へと上り詰めました。その後、2022年12月に元町店をオープン。同年、父から代表の座を引き続き4代目社長に就任しました。
現在、次のステップとして考えているのが、東京や京都など他の都道府県への展開。また洋食は、気軽に食べられる大衆食堂のイメージが強いですが、気軽に入れるフライ専門の店舗を新たに作る一方で、ワインなどのお酒と一緒にゆったりとしたラグジュアリーな空間を楽しめる店舗も新たに立ち上げ、今後大衆洋食と高級洋食の棲み分けを図っていきたいと考えています。
店舗の枠を超えた挑戦:洋食との掛け合わせで、新ビジネスを開発中
その他にも新たな試みとして行ったのがセントラルキッチンの導入。時間がかかる仕込みの一部をそこで行うことで、店舗における調理の負荷を減らし、より働きやすい職場へと改善していくのが目的です。
またキッチンカーの導入は、『グリル一平』の味をこちらから出向いて行ってお客様へ届けるのが狙い。お店で出す料理は出さないというコンセプトで行っているので、カツサンドやエビフライドッグ、ミンチバーガーなどを提供しています。
キッチンカーはお客様との距離が近いため、「美味しい」の言葉を直接聞けたり、お客様の喜んでくださる姿を間近で見たりできるので、料理人としての喜びをより実感できます。また『グリル一平』をもっと多くの方に知っていただくための広告塔であり、社員への多様な働き方の提案のひとつでもあります。
今後さらに力を入れていこうとしているのがECサイト用の商品開発。現在、グリル一平監修のハンバーグとカレーライスを販売していますが、お土産として持ち帰ってもらえる商品なども開発したいと思っています。
私の中の判断基準:「ワクワクするか」「楽しそうか」で考える
老舗洋食店としての秘伝のレシピを受け継ぐ一方で、面白いと思ったことにはどんどん挑戦できる、そんな会社でありたいと思っています。それは飲食関係の事業だけにとどまらず。洋食店と掛け合わせられるものなら、どんなジャンルでもよいと考えています。
例えば以前、本気で立ち上げようと思ったのが整体院。調理師は立ち仕事なので体に疲れが蓄積されやすく、私自身が整体院の施術を毎日受けられればいいなと思ったのが、検討するきっかけです。整体院が社内にあれば、社員は施術を受け放題。一般のお客様で売上を稼ぐことができれば、社員への福利厚生の一環として活用することができます。ちょっと極端な例かもしれませんが、飲食業界の発展や業績拡大、社員の働き方改革につながることで、自分たちがワクワクできることであれば、飲食店の概念を壊す取り組みにも挑戦していきたいと考えています。
