リュミエール
唐渡 泰氏
(プロフィール)
株式会社ケイクール・代表取締役、リュミエール・オーナーシェフ。数々の名店、ホテルで修業後、2006年、大阪・心斎橋に「フレンチレストラン リュミエール」を開業。シェフとして “野菜の美食”をテーマに自身の料理を追求しながら、レストラン経営、飲食事業のプロデュースを行う。現在8店舗を展開。「ミシュランガイド」では12年連続星を獲得。
来年1月9店舗目となる「ビストロカラト」を新規開業予定。
来年1月9店舗目となる「ビストロカラト」を新規開業予定。
大阪心斎橋で「野菜の美食」をコンセプトにしたフレンチレストラン「リュミエール」をはじめ、さまざまな業態の8店舗を展開する唐渡泰氏。新型コロナウィルスによる影響が続く中で、飲食業界が今後向かうべき方向、人材育成についてについて聞きました。
---------------今回の新型コロナウィルス感染症流行は飲食業界にとっては大きな打撃となりましたが、その影響はいかがでしたか。
飲食が好きな人が100年継続できる飲食ビジネスに
コロナの影響は、大打撃ですよね。うちは8店舗ありますが、売り上げのマイナスは2億超え。昨対8割減の時期が2ヶ月ぐらいはありました。4月から半年間閉めた店舗もあります。これまでも、リーマンショック等でお客さまが減ることはありましたが、「すべての人がレストランに行ってはいけないという状況」は初めてのことです。
4月、5月は幸いテイクアウト中心の「パンカラト ブーランジェリーカフェ」の売り上げは伸びたので、イートインの席をつぶして物販エリアを広げ、そこにスタッフを集中させました。「リュミエール」ではご家庭への配送商品を開発し、カウンターの「唐渡」は1組限定にして営業するなどして、解雇社員は一人も出すことなく、なんとか赤字を最小限にして凌ぎ1店舗も閉店すること無く、9月で全店舗再開しました。
まだまだコロナ禍の中100%には戻らないと、防戦一方ではなく、来年早々には新店舗開業と攻撃にも力を注ぎます。
今回は、改めていろんなことを考えさせられました。これまで売り上げが減ることはあっても、ゼロになる経験はないですから。それでも出ていく経費はある。マイナスをどうなくしていくか、いろんな角度からコスト面や合理化を見直しました。
そして、飲食経営者としては「飲食業が好きでやっている人が、継続してこの仕事ができるようにしなければならない」いうことも強く感じました。
リュミエールグループとしても、これから100年続く飲食ビジネスにしていくには、この10年をどうしていけばいいのか。
危機のときにいつも思うのは、「私たちのような仕事はいらないのでは?」ということです。
震災のときもそうでしたが、「1万円も払ってコース料理を食べる場所なんていらないのでは?」と。でも、お客さまが私の料理を食べて、「今まで頑張って働いてきてよかった」「明日からも頑張ろう」と言ってくださる度に、「人々のハートを満たす私たちの仕事は100年後も必要」と思うんです。
「お客さまに幸せを届ける食」そのことを再認識し、そのために私たちはどうあるべきなのかを考える機会になりました
---------------この危機を乗り越え、今後100年飲食ビジネスを継続させるためにはどのようなことが大切になるのでしょうか。
大事なのは、「働く私たちも楽しみながらお客さんをハッピーにする」というバランス
飲食業界を「働きたい」と思える業界にしなくてはいけません。
ひと昔は「お客さまに喜んでもらう」ためには、働く人たちが寝る暇も削って、ひたすら汗をかき、プライベートなど無く、我武者羅に働くのは当たり前でした。
これからの時代は「働く私たちも楽しみながらお客さんをハッピーにする」というバランスが大事だと思います。とはいえ、食はお客様の命にも関わる仕事なので、戦場のような調理場では厳しいことを言われることもあるけれど、そればかりでは辛い。
当社の人材教育体制も、この14年で随分変化してきました。「一人前になるのに10年かかる」といわれた料理人の世界は、「技術は見て覚えろ」という時代の話です。今は必要な技術や知識は惜しみなく教えて早くからいろんなことにチャレンジしてもらい、自分で考えて動けるような職場をめざしています。
オーナーシェフは、社長である料理長ですので、絶対的権限を持ちワンマンになりがちですが、そうするとみんながどうしましょうか?となり考える機会を奪ってしまいます。
お客さまに対してサービスの人がよく「シェフに聞いて参ります」と言うけれど、それは最悪。
お客さまに喜んでもらうためには、ご希望は一番そばにいる人が即時に判断するべきなんです。
極端な話ですが、14年前、リュミエール開業時にホール責任者に伝えたのは、お客さんが「カツ丼をください」と言われて、あなたがokを出したなら調理場は作るよと。
ただokを出すには、メニューにはないけれど調理場にその材料はあるかどうか。
提供したら周りのお客さまはどう思うか。提供したらお店がなくなるかも?など、プラスもマイナスもトータルに考慮した上で判断する。
自分で考えて判断すること、そして全ては自分の責任と考え行動することにより、仕事はもっと楽しくなると思います。
---------------御社は飲食業界の中でも人材の定着率が高く、5、6年で料理長を任される人もいると聞きました。 入社後の研修やキャリアアップはどのようなものですか。
20代の10年間は一番パワーがある時期。自分をいかに成長させるか考えよう
当社は新卒採用をスタートしてから12年経ちますが、その頃に採用した11年選手が今では料理長として働いてくれています。早ければ5年目、6年目から料理長になる人もいます。当社はさまざまな業態を展開していて、昼にカフェ、夜はレストランなど、環境的に短期間でいろんな経験をするのでスタッフの成長が早いです。しんどいですが(笑)志高いスタッフはよく頑張ってくれています。
新卒は毎年5、6人採用しています。入社したら、新人教育係として2、3年目のスタッフがつき、日常的になんでも相談できるような環境を整えています。
入社後すぐに2日ほどかけて研修をします。内容は、ビジネスマナーや会社の方針説明、キャリア設計などです。キャリア設計は、目標シートを作って、そのために最初の1年目に「何ができるようになりたいか」を明確にします。
その後は、月1回ほどの面談やライン、メールなどでコミュニケーションをとっています。私自身も、よく新人とラインのやり取りをしています。「なんでもいいから報告しておいで」というと、「お客さんからもらった嬉しい言葉」を送ってくる子がいたりして、サービス業としてとても大事なことに気づいてくれていると嬉しく感じることがあります。
1年後には振り返りの面談をし、自分がこの1年でどれぐらい成長したか、目標に近づいているかを確認します。
このような1年を10回繰り返せば、料理人としての勝負はついています。20代の10年間は人生で一番パワーがある時期です。大事な10年のうちの1年を当社で過ごすことで、どう自分の成長につなげるか。この時期に、一生続けると決めた仕事に対し、全力で挑戦するスイッチを入れられるかどうかが大事ですね。
----------------しっかりとした教育体制とコミュニケーションがあってこそ、人は成長するということですね。 まだしばらくコロナの影響は続くと予想されますが、来年度の採用予定はどんな感じでしょうか。 採用時の基準や面接で重視していることなどはありますか?
必ず聞くのは、「1年間続けられますか?」ということ
業界の先行きが見えない状況ではありますが、当社は来年度も新卒採用予定です。来年の1月末にパルコにお店を出店することが決まっているので、いい人がいれば10人ぐらい採用したいです。
採用基準はとよく聞かれますが、ひと目で人間性はある程度わかりますが、人はやってみないとわかならいというのが正直なところでしょうか。不器用な子でもこつこつやり続けて、何かのきっかけで突然成長することもあります。ただ最終面接で必ず聞くことがあります。「1年間続けられますか?」ということです。どんな仕事についても「職業選択」として自分が選んだことを1年も続けられないというのは、人間的にも将来的にも?ですので、何があっても逃げずに1年は頑張ること。そこだけは、心に決めて来てほしいですね。
---------------最後に、これから飲食業界をめざす学生にメッセージをお願いします。
逆境は楽しんだ方がいい。一度きりの人生、面白い人生を。
レストランはドラマの舞台にもなりやすいだけあって、トラブルや事件はつきものです。「あるはずのエビがない!」とか、「用意した料理の皿がガッシャーン!」とかは、あるあるです(笑)。でも、それによって成長するのも事実。修羅場をどう越えるか。私もクレームがきたら落ち込むけど、それをどう成長につなげるか。臨機応変なアイデアで挽回してお客さんが喜んでくれたら大成功。どうせならそれを楽しんでほしいです。逆境は楽しんだ方がいい。別に命をとられるわけじゃない(笑)。
将来、独立をめざしている人も多いと思います。私は1軒の店をやりたいと思ってこの世界に入りましたが、もう9軒目です。店を持つということはお金があればできるでしょうが、継続するということは別です。自分自身、普段から周りの人を大切にすること。そんな自然な人と人とのつながりがいつか協力となり、人が集まり笑顔になる空間が出来上がります。これは何度やってもエキサイティングな経験です。
これからいろんな仕事がAIに代わられたとしても、人の心を揺さぶるような料理を作るのはシェフしかできません。
一度きりの人生です。後悔のないように。
若き日に修羅場をくぐりぬけて、挑戦できる力をつけて、存分に活躍してください。