三鷹の地で70年以上、街のパン屋さんとして愛され続けている「トーホーベーカリー」。2025年11月、同店はさらなる理想の環境を求めて大規模なリニューアルを果たしました 。なぜ、今このタイミングで大きな投資を行い、何を変えようとしたのか。そこには、お客様への感謝と、次世代を担うスタッフへの深い想いがありました。今回はそんなリニューアルの背景を踏まえ、どう新しくなったのか、社長の松井さんにお話を伺いました。
【株式会社トーホーベーカリー】
1951年(昭和26年)創業。三鷹・吉祥寺エリアに根差し、「焼きたて・揚げたて・作りたて」の3たてをモットーとする地域密着型のベーカリーです。看板商品の1日約1,000個売れる「GOLD塩バターロール」をはじめ、受賞歴もある自家製サクサクカレーパンなど、数多くの人気商品を展開。週末には駐車場が満車になり、店外に行列ができるほどの賑わいを見せる、全国でも屈指の活気あふれる街のパン屋です。
【トーホーベーカリー 代表取締役 松井 成和 氏】
大学時代にパンの販売アルバイトを経験し、接客の重要性を学んだ後、専門学校の夜間部に通いながらパン作りの技術を習得。その後、外部のパン屋での武者修行を経て実家を継承しました。現在は自店の経営のみならず、同業他社との情報交換や会の設立にも尽力し、業界全体の発展とスタッフが誇りを持って働ける環境づくりに情熱を注いでいます。
10年前から描き続けた、理想の「ストレスフリー」な環境
今回のリニューアルは、決して突発的なものではありません。実は約10年前からリニューアルは検討していました。きっかけは、お客様が混雑で外に並び、その様子を見て購入を諦めてしまう状況をずっと心苦しく思っていたことです。
私が掲げたテーマは「お客様と従業員のストレスフリー」です。理想の環境を作るためには、隣接エリアまで工房を広げるチャンスを待つ必要がありました。そのタイミングが訪れるまで約10年。長く感じるかもしれませんが、むしろ、その間にじっくりと構想を深め、最新設備の知識を蓄えることができた「熟成期間」だったと捉えています 。
そうして、じっくり構想を深めてきた結果、最終的に行き着いた答えが、お客様にはスキャンレジの導入や店舗面積を1.2倍に広げることで、スムーズにお買い物ができる環境を提供すること。そして従業員には、手狭に感じていた工場を1.8倍に拡張し、移動や作業における物理的なストレスを解消することでした。
1.8倍の広大な工房と最新設備が、職人の「学びの質」を変える
新しくなった工房には、快適で効率的に仕事ができるよう最新の製造設備を導入しました。私が設備にこだわったのは、最新の設備を導入することで、「より働きやすく、より美味しく、より成長できる環境」につながると考えたからです。皆さんに、新しく導入した設備の一部を紹介します。
<写真左手>
■ブラストチラー(急速冷却機): 焼きたてのパンを一気に冷やし、美味しさを閉じ込めます。通常1時間半かかる冷却、スライス作業を30分に短縮。鮮度を保ちながら、大幅な時短と効率化を実現できるようになりました。
■ブラストチラー(急速冷却機): 焼きたてのパンを一気に冷やし、美味しさを閉じ込めます。通常1時間半かかる冷却、スライス作業を30分に短縮。鮮度を保ちながら、大幅な時短と効率化を実現できるようになりました。
<写真右手>
■フリーザー(冷凍庫): マイナス10度で生地の劣化を止める機械です。タイマー管理で、皆さんの出社時には生地が最適な状態に戻っています。これにより、「氷温熟成」が可能となった上に、早朝からベストなコンディションで成型・調理に入ることができ、高い品質を維持しながら、効率的に仕事ができるようになりました。
■大型生地ミキサー: 一度の仕込み能力が35〜40kgと倍以上に拡大しました。これまでは2〜3回に分けていた仕込みが1回で済むようになり、1日1時間の時短を実現しています。一度に大量に仕込んで「氷温熟成」させることでパンの旨味を引き出し、それを小分けにして焼くことで、お客様に提供する「焼きたての回数」を劇的に増やすことができるようになりました。
■デバイダー(分割機): 重い生地の塊を一瞬で均等なサイズに自動分割します。手作業で一つひとつグラムを測る手間を省き、圧倒的なスピードアップを実現しました。もちろん、このあと丸める作業はあります。
■自動攪拌機: 以前は職人が手作業で行っていたカスタードやカレーの撹拌といった重労働を自動化しました。腱鞘炎になってしまうこともあったスタッフの身体への負担を減らしつつ、プログラミング制御により、誰でも安定して「最高に美味しい看板の味」を再現できる環境を整えています。
こうした環境は、皆さんが「感覚だけに頼るのではなく、理論とデータに基づいて最高の結果を出す」という、現代的な職人の働き方を習得するための大きな武器になるはずです。
効率化で生み出した「余白」が、皆さんの創造性を育てる
最新設備の導入によって生まれた価値は、作業時間の「短縮」そのものだけではありません。それによって生まれた「隙間時間」を、皆さんの新商品開発や技術向上のためにも使ってほしいと思っています。
トーホーベーカリーでは、1年目の新人であっても新商品のアイデアを出し、形にするチャンスがあります。現在も月に4〜5品の新商品が店頭に並びますが、これらを企画・製造するプロセスこそが、職人としての視界を広げます。
以前は、練習したくても、忙しさからなかなか時間を確保できずにいました。しかし、これからは、最新設備による業務効率化から生まれた時間をうまく活用してもらえればと思っています。一昨年には私たちがバックアップする中で中堅スタッフがパンコンテストで優勝しましたが、それを見た後輩たちが「自分も挑戦したい」と刺激を受ける良い循環が生まれています。効率的な環境は、皆さんのクリエイティビティを支えることにもつながるはずです。
地域に愛され続ける誇りと、進化し続けるベーカリーの未来
リニューアル後、お客様の数は以前の1.4倍ほどに増え、土日は駐車場が常時満車になるほどの盛況ぶりが続いています。しかし私は、現状に満足していません。さらなる楽しさを提供するために、新しい挑戦を続けていきます。
今後は、行列に並ばずに商品を受け取れる「オンライン予約」の本格始動や、美味しさを閉じ込めた冷凍パンの全国発送、ふるさと納税への出品など、デジタルを活用した新しい「街のパン屋」の形を作っていきます。
機械を入れても、手焚きの良さや、職人としての「正解の基準」を知っているからこそ、高い品質をキープできます。歴史ある伝統を大切にしながら、最新の設備を使いこなし、常に「お客様の喜び」を最優先に考える。このバランス感覚こそが、トーホーベーカリーで働くことで得られる最大の学びです。プロとして、地域を笑顔にする仕事を一緒に追求していきませんか?
