「何のために働くの?」
「会社に何しにいくの?」
その問いに、ある経営者は少しも迷わず笑顔でこう答えました。
「会社に何しにいくの?」
その問いに、ある経営者は少しも迷わず笑顔でこう答えました。
「お金を稼ぐためでしょ。だって、やりがいでお腹はふくれないよ」
「好きなことを仕事に」「やりがいを大切に」。
そんな言葉が前向きな価値観として語られる今、この社長の答えはとても率直で、少し意外にも聞こえるかもしれません。
けれど、きれいごとではなく「働く」とは、まず生活の糧を得ることでもあります。
今回は、飲食業界の厳しさと向き合ってきた老舗そば店「鶴喜そば」(鶴喜そば製菓株式会社)の事例を通じて、会社・従業員・お客様が「三方よし」になるための企業努力と、「働く」の本質をひもときます。
◎飲食業界が直面する「二重苦」 原材料費の高騰と人手不足
現在、飲食業界は深刻な「二重苦」に直面しています。
一つは原材料費の高騰です。利益を出すために値上げをすれば、一時的に粗利率は持ち直しますが、その後も原材料費は上がり続けるため、一年ほどで元の粗利水準に戻ってしまうことも少なくありません。
値上げを重ねれば、お客様が離れてしまうおそれもある。どこまで価格を上げられるのか、その見極めは、飲食店にとって非常に難しい課題です。
とくに鶴喜そばのように、年金生活の方など地域の常連客が多くを占める店では、値上げが客離れにつながる可能性が高くなります。だからといって、価格を維持するために原材料の質を下げることはしたくない。同店では店舗の売上以外に、土産商品で利益を確保するなど、日々工夫と挑戦を重ねています。
もう一つの問題は、人手不足です。近年、飲食業界では売り上げが出ていても、人員を確保できずに閉店する店が増えています。どれだけ需要があっても、調理や接客を担う人がいなければ営業を維持することはできず、事業そのものの継続が難しくなってしまうのです。
もう一つの問題は、人手不足です。近年、飲食業界では売り上げが出ていても、人員を確保できずに閉店する店が増えています。どれだけ需要があっても、調理や接客を担う人がいなければ営業を維持することはできず、事業そのものの継続が難しくなってしまうのです。
◎「待遇改善はマスト」 攻めの姿勢で社員へ還元
こうした状況の中で、同社が最優先で取り組んできたのが、社員の待遇改善です。
「現場を支える人がいなければ店は続かないからこそ、“利益が出たら還元”ではなく“まずは還元”という発想が必要だと感じました」(真鍋社長)
まず着手したのは労働時間の見直しです。月の固定労働時間を10時間近く減らし、そのうえで基本給も約5%引き上げました。さらに、週休二日制を導入して有給取得も奨励。現在は20日以上の有給を取得している社員もいるとのことです。
また、「安心して働ける環境を整えたうえで、事業のうえでもしっかり次の手を打っていく」として、新形態の店舗出店の準備も進めています。
「現状維持はマイナスにしかならない」という考えのもと、待遇改善と事業の成長、その両方を同時に進めていくことが、これからの飲食店経営には欠かせない要件であることがうかがえます。
「現状維持はマイナスにしかならない」という考えのもと、待遇改善と事業の成長、その両方を同時に進めていくことが、これからの飲食店経営には欠かせない要件であることがうかがえます。
◎「欲を持て」 社長が若い世代に伝えたいこと
会社として、利益を出す仕組みづくりと労働環境の整備に取り組む一方で、社長が若い世代に対して繰り返し伝えていることがあります。それが、「欲を持て」ということです。
「たとえば、いい車に乗りたい、もっと稼ぎたい、そういう欲のある人のほうが伸びるんです。稼ぐ仕組みを理解しようとするから、自然とコスト意識や売上意識も育っていく」(真鍋社長)
やりがいを否定しているわけではありませんが、やりがいだけで仕事を選ぶことのリスクを、社長はこう続けます。
「結婚して、子どもができて、それでもやりがいがあるから給料が低い仕事を続けますか、という話になったとき、現実はそう簡単ではない。生活が成り立ってこそ、やりがいも追いかけられる」
稼ぐことは、夢や情熱を持続させるための土台でもあります。まず生活のベースをしっかり築いてこそ、仕事への充実感ややりがいを、長く追いかけ続けることができる。
社長が「欲を持て」と繰り返す言葉の奥には、そんな思いがあるのです。
社長が「欲を持て」と繰り返す言葉の奥には、そんな思いがあるのです。
◎「実際どうなの?」現場で働く社員のリアルな声
では、こうした考え方を、社員たちはどのように受け止めているのでしょうか。
新入社員とベテラン、2人の声を紹介します。
新入社員とベテラン、2人の声を紹介します。
「夢や目標が働く力になる」(入社1カ月の若手社員)
1カ月前に社員になったばかりの岩田さんは、もともとアルバイトとして入社しました。職場の人間関係の良さに惹かれた一方で、社長から「夢を一つ持って頑張れ」と声をかけられたことが、仕事の原動力になっていると話します。母親の誕生日に少し奮発して食事をごちそうしたり、車の買い替えを計画したり。生活基盤が整うことで自分の楽しみが増え、さらに家族にも還元できる実感が、日々のやりがいにつながっているそうです。
「今が満足と言える働き方。今後の変化にも期待」 (歴20年のベテラン社員)
「今の暮らしに満足している」と穏やかに語ってくださったのは、約20年にわたって店を支えてきたベテラン社員の奥村さんです。「1日1日を全力でやっていれば、それで十分」と言い切る姿からは、長く仕事を続けてきた人ならではの実感が伝わってきます。労働環境や待遇改善への取り組みをはじめ、日々変化を続ける会社のあり方については、「これからどうなるかワクワクします」とのこと。会社が進化する中で、若い社員を育てていくことが自分の役割だと微笑まれていました。
◎まとめ「働くとは何か」を考える
「食が好き」「人をもてなしたい」という気持ちで、飲食業界を志す人は多いと思います。しかし、実際の現場では、原材料費の高騰や人手不足など、理想だけでは乗り越えられない課題が数多くあります。そうした現実の中で「稼ぐこと」を真剣に考えることは、働き続ける土台をつくるヒントになるのではないでしょうか。
一人ひとりが稼ぐ意識を持ち、会社は利益を社員へ還元する。その循環が生まれれば、働く人・会社・お客様の三者が支え合い、店は長く続いていきます。
この記事が、あなたにとっての「働くとは何か」をあらためて考えるきっかけになれば幸いです。
この記事が、あなたにとっての「働くとは何か」をあらためて考えるきっかけになれば幸いです。
