パン職人という仕事は、同じ業界の中でも働く場所によって、求められる能力や適性、身につくスキルが大きく変わります。この世界で長く活躍するうえで重要なのは、「どの店で働くか」ではなく、「自分がどのような経験を積みたいのか」を意識して進路を考えること。
今回は“パン激戦区”神戸で、連日行列の絶えない「パンやきどころ RIKI」の社長に、パン職人を目指す人必見!の心得についてお聞きしました。
パンやきどころRIKI(兵庫県神戸市中央区)
神戸・元町に佇む、行列の絶えない人気ベーカリー。国産小麦100%使用、添加物不使用で、生地から具材まですべて手作り。毎日200種以上を朝から焼き続ける、こだわりと熱量が詰まったお店です。
高須賀 力也(タカスカリキヤ)社長
① 学生時代と開業の原点
この世界を目指したきっかけは15歳のときです。ボクシングに打ち込む日々の中、チートデイに食べた菓子パンが驚くほどおいしくて、「パンってこんなに人の気持ちを動かすものなんだ」と感動。高校生になるとパン屋でアルバイトをしながら、北海道から九州まで全国のパン屋を巡りました。
当時から、「なぜ店によってここまで違いが出るのか」「何が良さを生むのか」を知りたい気持ちが強く、実際に足を運び、味わい、試してみることに精力を注いでいました。その後、神戸で自分の店を持つという目標を掲げ、専門学校へ進学。就職したパン屋でも、独学で材料や製法についての学びを深め、「パンやきどころRIKI」を開業しました。
② 「パンが好き」と「仕事として続けられる」は違う
学生のみなさんと話していると、「パンが好きだからこの業界に進みたい」という声をよく耳にします。もちろん、それ自体はとても大切な入り口ですが、好きという気持ちと、仕事として日々続けられるかどうかは、実は別の話だと私は感じています。
パンづくりの現場は、想像以上に体力を使う仕事です。同じ作業の繰り返しが続き、決して華やかな時間ばかりではありません。むしろ大半は地味で細かく、根気を求められる工程です。
それでも続けられる人の共通点は、「楽しいからやる」のではなく、「しんどさを含めて自分で選んでいる」という感覚を持っている人。この納得感がないと、入社後に感じるギャップや戸惑いが大きくなると思います。
それでも続けられる人の共通点は、「楽しいからやる」のではなく、「しんどさを含めて自分で選んでいる」という感覚を持っている人。この納得感がないと、入社後に感じるギャップや戸惑いが大きくなると思います。
③ 評価から逃げられないのが「仕事」
仕事としてのパンづくりの特徴に、「結果が毎日可視化される」という点があります。仕事である以上、パンをつくることは手段であり、目的はお客様に喜んでいただくこと。「おいしい」「また来たい」と感じていただける結果を出さなければ、お店もパンづくりも続けられないという点は、シビアですが働くうえで欠かせない視点です。
自分の実力が他人の基準で測られることを、前向きに受け止められるかどうかが、大きな分岐点になると思います。
自分の実力が他人の基準で測られることを、前向きに受け止められるかどうかが、大きな分岐点になると思います。
④ 大規模店と小規模店、それぞれの違いと特徴
また、お店によっても求められる役割や身につくスキルは大きく異なります。参考までに、規模ごとの特徴や傾向を紹介しておきましょう。
【大・中規模店の特徴】
ほとんどが分業制。最近はセントラルキッチン化が進み、店舗で焼くのは一部の商品だけ、という店も増えています。教育体制やマニュアル、福利厚生が整っていて、働くうえでの安心感がある一方で、すべてを自分で作るという実感やお客様の反応を受け取る機会は、小規模店と比べると非常に少ないのが現状です。
【小規模・個人店の特徴】
限られた人数でパンをつくるため、一人が担う業務範囲は自然と広くなります。入社した瞬間から「スタメン」というイメージで、密度の高い実践経験を積むことができ、自分のアイデアを形にしたり、独立に必要な経営の視点を学べたりする機会が多いことも特徴です。
ちなみに、私たちの店では「どの工程を担当するか」よりも、「パンづくりそのものをどれだけ理解できるか」を重視しています。カスタードなど材料から店内で手掛けているのも、私自身が「どのように作られているのか」を知らないまま扱うことに違和感があるから。
また、「こちらの方が美味しい」とわかっていながら、妥協して質を落とすことができない性格なので、材料も常に自分の中で最高ランクのものを使い続けています。
作り手のこだわりが、商品に即反映されるところも、小さな店ならではの特徴。そして、そのようなこだわりが結果として、お客様の評価につながっているのだと思います。
また、「こちらの方が美味しい」とわかっていながら、妥協して質を落とすことができない性格なので、材料も常に自分の中で最高ランクのものを使い続けています。
作り手のこだわりが、商品に即反映されるところも、小さな店ならではの特徴。そして、そのようなこだわりが結果として、お客様の評価につながっているのだと思います。
⑤ 将来活躍するために、学生時代から準備できること
意外に思われるかもしれませんが、パンづくりの土台を支えているのは、継続力や時間管理、体調管理など、日常生活を送るうえでの基礎的な力です。学生のみなさんには、特別な技術や高度な知識を身につける前に、まずは、同じ作業を安定して続ける力、地道な工程を丁寧に積み重ねる姿勢などを身につけることをおすすめしています。具体的なポイントをお伝えしますね。
「生活を自分で回す体験」
日々の生活を自己責任で整えること。できたら、一人暮らしをしてみるといいですね。掃除や洗濯など日々のルーティン、体調管理、時間管理といった日常を自分の責任で行い、継続する経験を積んでおくことは、仕事への耐性を身につけるうえで役立つと思います。
「継続の体験」
パン職人の仕事は、短距離走というより長距離走に近い世界で、結果が出るまでに一定の時間がかかります。部活動でもアルバイトでも構いません。しんどさや壁を感じながら何かをやり遂げた経験は、社会に出てからの自分を支える大事な土台になります。
「興味を突き詰める体験」
自分の「好き」や「気になる」を曖昧なままにしないこと。「なぜ好きなのか」「何に惹かれているのか」を自分なりに掘り下げてみてください。材料、製法、お店の考え方、味の違いなど、深く知ろうとする行動そのものが、この仕事との相性を見極める大切な材料になります。
最後に……
自分が心から納得できるパンをつくる、その過程はワクワクすることよりも、しんどいことの方が多いかもしれません。それでも私がこの仕事を続けているのは、自分の仕事が誰かの喜びとなり、評価として返ってくることが嬉しいからです。パンづくりを通して得たいものは何か? その実現には何が必要か? みなさんも就職を考えるときには、ぜひ“自分がこの選択をする理由”を考えてみてください。
踏み出す一歩が、あなたの理想の未来へ続いていくことを、心から応援しています。
踏み出す一歩が、あなたの理想の未来へ続いていくことを、心から応援しています。
