京の街・祇園に店を構える老舗天ぷら店「圓堂」。格式のある専門店でありながら、訪れる誰もが心ほどけるような時間を過ごせるのはなぜなのか──
今回は女将と総料理長のお二人に、お客様の満足を生む“プラスアルファ”のおもてなしについてお話を伺いました。
【京都祇園 天ぷら圓堂】
創業140年。年間5万組超の会食や2千組の慶事・弔事に対応する天ぷら専門店。国内外に店舗を展開し、200名超の職人と接客スタッフが在籍。
── お客様のご要望に最大限お応えする姿勢を大切にされていると伺いました。まずは、その根底にあるお考えを教えていただけますか?
女将: 私たちのお店はもともとお茶屋から始まったこともあり、お客様がいらっしゃる時間にあわせてお迎えするというのが、ごく自然な姿勢として根づいています。「定刻一斉スタート」の店が増えていますが、お客様が「この時間に行きたい」と思われた時に、気持ちよく迎えられる店でありたいというのが私たちの考え方。接待やご家族での会食に選ばれることが多いからこそ、その方のご予定に寄り添うことを大切にしています。
(写真)女将:遠藤惠さん
店舗を増やしたのも、そうした背景があってのこと。予約は一括管理し、満席の場合も他の店舗をご案内できるようにしています。また、定休日を設けていないのも、いつでもお迎えできる体制を整えるため。「できる限りお断りをしない」という姿勢は、圓堂におけるすべてのサービスの基本だと思っています。
店舗を増やしたのも、そうした背景があってのこと。予約は一括管理し、満席の場合も他の店舗をご案内できるようにしています。また、定休日を設けていないのも、いつでもお迎えできる体制を整えるため。「できる限りお断りをしない」という姿勢は、圓堂におけるすべてのサービスの基本だと思っています。
総料理長: 料理においても、旬の食材を一番おいしい状態でお出しすることは当然のこととして、ベジタリアンの方など、当日の急なご要望にもできる限りお応えしています。また、コースの中には季節の京野菜を取り入れるとともに、「トウモロコシ」「エビパン」「コロッケ」といった圓堂名物のいずれかを、必ずお出ししますね。高級食材の天ぷらも特別感はありますが、「ここに来たらこれがある」とお客様に安心していただけるメニューがあることも大切です。そのベースの上に、新しい試みを取り入れるようにしています。
(写真)総料理長:金子哲也さん
(写真)総料理長:金子哲也さん
── カウンターでのお料理の提供は、お客様との距離が近くなりますね。その中で意識されていることは?
女将: カウンターは料理だけでなく、料理人の所作や空気感までもが「おもてなし」となる場所です。茶道を学んでいる板前が多いのも、そうした“美しい所作”のため。きちんと整えられた手元や、無駄のない動きは、それだけでお客様に感動を与えるものだと思います。
仲居もまた、常にお客様の様子に目を配っています。天つゆや塩、取り皿のお取り替えなども、必要と感じたらさりげなく。心地よさの感じ方は人それぞれですから、マニュアルにとらわれず、その場に応じた対応を心がけています。日々異なるお客様をお迎えするため、「これが正解」というものがなく、70歳のベテランでもいまだに初めての経験がある世界です。
総料理長: 食材の並べ方、道具の置き方ひとつにも気を抜かず、お客様の目にどう映るかを意識しています。天ぷらは、一度にまとめて出すと定食のような感があるため、一品ずつ揚げながらご提供しますが、お客様のペースや反応を見ながら進行する配慮も欠かせません。会話を楽しみにされている方にはお話を、静かに召し上がりたい方には程よい距離感を。そうした空気の読み方も、一人前の板前に求められる力だと思います。
── お料理のこだわりや、提供するうえで大切にされていることは?
総料理長: 常に質の高い料理をお出しすることは、おもてなし以前の基本です。油、衣、温度、すべてにこだわり抜いた当店の天ぷらは、衣はごく薄くカラッとした仕上がりになるため、胃にもたれず体にも蓄積しにくい。専門店としての自負を持って、上質で、体にやさしい一品をご提供しています。
ただ、その一品を生み出すには、やはり修練が欠かせません。私は常々「今揚げた天ぷらは、二度と同じようには揚がらない」と言っています。繊細な料理だからこそ、五感や心を研ぎ澄ませて向き合うことが求められます。
女将: 「天ぷらが揚がったら何を置いてもすぐ運ぶ」という方針を徹底しています。店の規模に対して、仲居の数を多く配置しているのもそのため。たとえば「天茶」は、揚げたての天ぷらを座敷に持って行き、その場でお茶を注ぐのですが、アツアツだからこその「ジュッ」と音が立つ瞬間を逃さないようにしています。熱いものは熱く、基本に忠実であることこそ、最も誠実なおもてなしだと思っています。
── 調理場と接客側で、意見がぶつかることはありますか?
女将: はい(笑) 料理が始まる直前に「この食材が食べられません」とおっしゃるお客様がいらした場合など、「すぐ変更お願いします!」と、どうしても語気が強くなってしまうことがありますね。
総料理長: そうですね、なかなかの勢いで言われることもあります(笑) でも、仲居さんはお客様の代弁者なので、私たちもきちんと受け止めて対応しています。「もう少し優しく言ってくれたら…」と思うことも、正直ありますが(笑)
女将: そのあたりは、ごめんなさい(笑) お互い真剣だからこそ、時にはやり取りがややこしくなることもありますね。
総料理長: 日によって状況や忙しさも違いますし、気持ちに余裕が持てない時があるのはお互い様です。それも含めて現場のリアルですね。
── しつらえや空間づくりへの配慮についても教えてください。
女将: 玄関路地の水打ち、香を焚くこと、季節の花や掛け軸で空間を整えること、 これらは料理と同じように、私たちのおもてなしの中核をなす要素です。各部屋に飾る軸の意味を記した「しつらえノート」を毎月作成し、スタッフ全員で共有していますし、仏事や慶事などの用途に応じて、当日に掛け軸を変更することもあります。たとえ数時間でも、お客様にとって特別なひとときとなるよう、空間の気配を整えることが私たちの務めです。
── こうしたおもてなしの技や心は、どのように次の世代へ受け継がれているのでしょうか?学生へのメッセージもぜひお願いします。
総料理長: 昔のように「先輩より早く来て準備しておく」みたいな厳しさはなく、始業時間はみんな同じ。まかないも一緒に食べるなかで、自然とチームワークが育まれています。二年目あたりから、揚げもどんどんやってもらいます。初めはみんな真っ黒な天ぷらになりますが(笑) 失敗しても、次にどうするかを考えるのが大事ですね。カウンターに立ったら、お客様に名刺をお渡して、指名をいただけるように成長していく。その過程も、板前としての醍醐味だと思います。チャンスをつかむフィールドや活躍の舞台は整っているので、一緒にがんばっていきましょう。
女将: 仲居頭は30代、若いスタッフが中心なので、普段は和気あいあいとしています。ちょっとしたことで笑いが起きたり、お互いに助け合ったり。もちろんお客様の前ではきちっとしますが、裏ではにぎやかです(笑)馴染みにくいイメージがあるかもしれませんが、みんな面倒見がいいですし、京都らしい良き文化が根付いているお店だと思いますので、安心して仲間になってくださいね。
