渋谷の街をメタバースに仕立ててさまざまなイベントを実施する「バーチャル渋谷」をご存知でしょうか。
リアルの渋谷だけでなく、バーチャルの渋谷からも新しい文化を発信する取り組みです。こうした渋谷の変革の取り組みを中核となって動かしているのが、一般社団法人渋谷未来デザインです。そんな渋谷未来デザインの理事を務めるのが長田新子さん。実はMetaverse Japanというメタバース推進団体の代表理事でもあります。リアルとバーチャルの世界を融合させて街の価値を高める仕組みづくりをする長田さんは、さまざまなキャリアを経て視野を広げてきたことが、今の取り組みにつながっていると言います。
キャリアマップ編集部 文/ITジャーナリスト・ライター 岩元直久
リアルの渋谷だけでなく、バーチャルの渋谷からも新しい文化を発信する取り組みです。こうした渋谷の変革の取り組みを中核となって動かしているのが、一般社団法人渋谷未来デザインです。そんな渋谷未来デザインの理事を務めるのが長田新子さん。実はMetaverse Japanというメタバース推進団体の代表理事でもあります。リアルとバーチャルの世界を融合させて街の価値を高める仕組みづくりをする長田さんは、さまざまなキャリアを経て視野を広げてきたことが、今の取り組みにつながっていると言います。
キャリアマップ編集部 文/ITジャーナリスト・ライター 岩元直久
インタビューを受けてくれたのは……
渋谷未来デザイン理事・事務局長、Metaverse Japan代表理事
長田新子(おさだ・しんこ)さん
長田新子(おさだ・しんこ)さん
AT&T、ノキアにて通信・企業システムの営業、マーケティング及び広報責任者を経て、2007年にレッドブル・ジャパン入社。コミュニケーション統括責任者及びマーケティング本部長(CMO)として10年半、エナジードリンクのカテゴリー確立及びブランド・製品を市場に浸透させるべく従事し、2017年に退社。2018年より現職。NEW KIDS(株)代表としてマーケティング・PR関連のアドバイザーやマーケターキャリア協会理事としてキャリア支援活動も行う。
新しい街の価値を文化として創造してブランド発信する
デジタル空間上にもう1つの渋谷を作る「バーチャル渋谷」の話題を目にしたことはありますか。
渋谷に集う多様な人々のアイデアや才能を集めて、社会的課題の解決策と可能性をデザインする組織として、「渋谷未来デザイン」があります。社会課題解決のための多彩な取り組みを進めている中の一つが、バーチャル渋谷のプロジェクトです。この渋谷未来デザインを理事としてリードし、さらにメタバースという新しい概念を議論する組織「Metaverse Japan」の代表理事を務めているのが、今回お話を聞く長田新子さんです。
長田さんは、デジタル技術とリアルの世界の橋渡しをしながら、社会の課題解決につなげる取り組みを総合的に進めているプロデューサーです。そんな長田さんですが、学生時代から現在に至るまでに得た多彩な経験が、現在の取り組みにつながっていると振り返ります。
長田さんがリードする渋谷未来デザインとはどんな組織なのでしょうか。
「産官学民が連携してイノベーションを起こすための組織です。行政と企業が共同で作った組織で、我々の活動に賛同する企業や団体からなる社団法人です。渋谷という世界でも有数の街をリソースに、街の新しい価値や文化を生み出していくような地域のイノベーションを構想して実装することを目指しています」(長田さん)
渋谷未来デザインが取り組んだ代表的なプロジェクトが冒頭で紹介した「バーチャル渋谷」です。もともと、リアルの渋谷の街でAR(拡張現実)の取り組みを推進していたところ、2020年の新型コロナウイルス感染症の感染拡大で渋谷の街から人がいなくなりました。
「日本一、人が来る場所に、誰もいないのです。商業、経済に大きな打撃がありましたし、街の価値とはどのようなものなのかを考え直す必要が出てきました」(長田さん)
そこで、コロナ禍で人がいなくなった渋谷に代わり、メタバース上にもう1つの都市を作り街の価値を提供しつづけようという試みをスタートしました。メタバースの新しいテクノロジーを持っていた企業として、通信事業者のKDDI(au)と共同で作り上げたプラットフォームです。バーチャル渋谷は、コロナ禍の街に新しい場を提供することに成功しました。アーティストやクリエイターがメタバース上の渋谷で活動し、海外からもイベントを開催する動きがありました。
バーチャル渋谷を実践することで、今後への展望も見えてきました。
「一つは渋谷のハロウィン問題です。多くの人が集まり混乱するハロウィンの渋谷ですが、このイベントをバーチャルのメタバースへ誘導する試みが進んでいます。また、渋谷で得た知見をもとに、バーチャル大阪など他地域への展開も進んでいます」(長田さん)
産官学民をつないで、街に新しい価値を生み出す1つの方法としてのメタバースが、社会課題を解決するプラットフォームへと変容し始めています。
産官学民をつないで、街に新しい価値を生み出す1つの方法としてのメタバースが、社会課題を解決するプラットフォームへと変容し始めています。
2018年に一般社団法人として設立した渋谷未来デザインでは、リアルからバーチャルまで幅広い取り組みで渋谷の価値創造のハブになっている
通信業界の広報・マーケティングから都市の価値発信へシフト
このように長田さんが渋谷のまちづくりに関わるようになるまでには、多くの経験がありました。大学で英米文学を学び、卒業後は英国留学をして英語をブラッシュアップし、帰国後は米国の通信事業者のAT&Tの日本法人で営業を経験します。その後、フィンランドの携帯電話大手のノキアの日本法人で営業やマーケティング、広報の仕事をしていたところ、エナジードリンクで有名なレッドブルの日本法人のレッドブル・ジャパンからマーケティング責任者へとの声がかかり、さらに転職しました。
レッドブル・ジャパンでも、千葉・幕張で空のF1とも呼ばれるエアレースの世界大会「レッドブル・エアレース千葉」を15年以上にわたり開催してきたのを始め、行政や企業、人々を巻き込みながら国内各地でイベントを開催してきました。長田さんは、レッドブル・ジャパンのコミュニケーション統括責任者及びマーケティング本部長(CMO)として、こうした取り組みを推進してきたのです。
2017年、レッドブル・ジャパンを退職した長田さんにさらに転機が訪れます。渋谷区が渋谷未来デザインの基礎になるプロジェクトを立ち上げることになったのです。「行政、企業と人材を巻き込んで、地域のブランドを世界に発信する仕組みができたらいいなと思っていました。レッドブルが渋谷区の企業だったことと、私自身が渋谷区民だったこともあり、渋谷で地域のブランド発信の取り組みをしたいと考えました」。長田さんのマーケティングの知見を都市に生かす取り組みが始まったのです。
2017年、レッドブル・ジャパンを退職した長田さんにさらに転機が訪れます。渋谷区が渋谷未来デザインの基礎になるプロジェクトを立ち上げることになったのです。「行政、企業と人材を巻き込んで、地域のブランドを世界に発信する仕組みができたらいいなと思っていました。レッドブルが渋谷区の企業だったことと、私自身が渋谷区民だったこともあり、渋谷で地域のブランド発信の取り組みをしたいと考えました」。長田さんのマーケティングの知見を都市に生かす取り組みが始まったのです。
渋谷で作り上げた仕組みを全国に横展開
その後、長田さんの取り組みは渋谷から全国に広がっています。渋谷未来デザインができることは、渋谷区のブランド発信ですが、全国には多くの街や地域があり、社会課題の解決のための仕組みを求めているからです。
長田さんは、「メタバースの側面から渋谷未来デザインのような取り組みを全国の活動に展開する組織として、Metaverse Japanを2023年3月に設立しました。渋谷で得た“いいもの”を事例として全国に広げていくため、別組織を立ち上げたのです。デジタルツインやメタバース、ARなどのテクノロジーを活用して、地方自治体が抱えている課題を解決することを目指します」と説明します。都市の魅力を高め、観光客の誘致を図り、さらには人口減少や教育格差などの課題解決に結びつける仕組みを「全国に横展開する組織」とういわけです。
ここでも、渋谷未来デザインと同様にさまざまなプレーヤーが参加します。地域のスタートアップ企業から大企業、自治体、大学教員など、産学官の有志が力を合わせて、課題解決に取り組んでいます。
「メタバースでは、その上でいかに儲かるかといった経済的な視点が先行しがちですが、Metaverse Japanは教育や医療、スポーツなども含めた幅広い取り組みを推進しています」(長田さん)
「メタバースでは、その上でいかに儲かるかといった経済的な視点が先行しがちですが、Metaverse Japanは教育や医療、スポーツなども含めた幅広い取り組みを推進しています」(長田さん)
渋谷の上空に時速400kmでフライトするレースを再現する「エアレースX」
渋谷未来デザインとMetaverse Japanによる横展開の第一歩となる取り組みとして、リアルとバーチャルの世界をシームレスにつなぐ「エアレースX(AIR RACE X)」があります。2019年が最終開催となったリアルのレッドブル・エアレース千葉を、都市型XR(AR=拡張現実、MR=複合現実、VR=仮想現実の総称)スポーツとして復活させたものです。決勝トーナメントに勝ち残った各国のパイロットは、リモートに設けられた同一設計のコースをフライトします。このフライトデータをXR技術で映像化し、渋谷の上空に時速400kmでフライトするレースを再現するものです。2023年10月15日に実施した決勝トーナメントでは、渋谷パブリックビューイング会場で、ヘッドマウントディスプレイなどを使った臨場感あるレースを「体験」することができました。
「リアルで実施していたレッドブル・エアレース千葉が幕張に街の新しい価値をもたらしたように、リアルとバーチャルを融合させて渋谷に新しい価値を提供できるイベントです。同じモデルを使うことで他の都市への展開も期待でき、すでに北海道や静岡、広島など、多くの地域が高い関心を寄せてくれています」(長田さん)
広い視野を持つことが目的の実現につながる
視野で広げることで、デジタルとリアル、都市と企業などさまざまな融合の視点が浮かび上がってくる
今ではメタバースの各種の取り組みの仕掛け人にもなっている長田さん。
「面白いなと思ったのは、メタバースやバーチャルの世界では人が多様性をもって振る舞うことが自然になることです。メタバース上のかわいいキャラクターのアバターは、いわゆる“おじさん”であることが多かったりしますし、カップ麺などの物体をアバターにしている人もいます」
ダイバーシティ&インクルージョン(多様性や包摂性)への対応が、メタバースの上ではより実現できる可能性があるとの指摘です。
「メタバースの上なら、自宅から出られない人、病気で寝たきりの人でも、他の人と同じように活躍できます。Eスポーツにもそうした力があるでしょう」(長田さん)
専門学校で学ぶ学生の皆さんに向けて、長田さんはこう語りかけます。
「メタバースの上なら、自宅から出られない人、病気で寝たきりの人でも、他の人と同じように活躍できます。Eスポーツにもそうした力があるでしょう」(長田さん)
専門学校で学ぶ学生の皆さんに向けて、長田さんはこう語りかけます。
「ITやその先にあるメタバースだけではなくて、自分の興味の幅を広げるためにいろんなものを見たらいいと思います。海外に行くのも良いでしょうし、ネットでもバーチャルでも、もちろんリアルでも自分の視野を広げる手段はたくさんあります。そうして広げた視野が、ソーシャルイノベーション(社会変革)につながる取り組みを生み出すと思います」
そして、自身の経験を通じて「選択肢を広げておくことで、1社に属する働き方だけではなく、いろんなことにチャレンジしたくなったらスイッチしていくことができるようになりますよ」と伝えてくれました。そこにはさまざまな体験や仕事にチャレンジし、その先で新しい価値を生み出せる人材へと成長していってほしいという長田さんからの学生さんへのメッセージが込められているようです。