神戸港を望むウォーターフロントに、非日常の上質な時間が流れるスモールラグジュアリーホテルがあります。
ホテル ラ・スイート神戸ハーバーランド。
客室数70室というその空間には、兵庫五国の恵みをテーブルに届けるという、揺るぎない食の哲学が息づいています。
今回は同ホテルの総料理長に、地産地消を体現する考え方と現場の工夫についてお話をうかがいました。
【 目 次 】
▶ なぜ、地産地消なのか
▶ 兵庫五国という、豊かな食の地図
▶ 総料理長が自ら産地を歩く理由
▶「脇役」を「主役」に押し上げる技法
▶ 料理人を目指すみなさんへ
【 目 次 】
▶ なぜ、地産地消なのか
▶ 兵庫五国という、豊かな食の地図
▶ 総料理長が自ら産地を歩く理由
▶「脇役」を「主役」に押し上げる技法
▶ 料理人を目指すみなさんへ
ホテル ラ・スイート神戸ハーバーランド
総料理長 大山 圭介 氏
鹿児島県出身。調理学校を卒業後、フランスの星付きレストラン「ジャン・ポール・ジュネ」等で実務研修を重ねる。1999年ハウステンボスに入社し、フランス料理界の巨匠 上柿元勝氏に師事する。2008年にホテル ラ・スイート神戸ハーバーランドへ入社。2018年には統括料理長に就任、2021年より総料理長を務める。トック・ブランシュ国際倶楽部会員。クラブ・デュ・タスキドール会員。
なぜ、地産地消なのか
私たちのホテルが地産地消を軸に据えた背景には、このホテルが生まれた理由そのものがあります。
2005年、阪神淡路大震災から10年が経ち、ようやく神戸の人口は戻ったものの、街の賑わいはまだ取り戻せていませんでした。神戸市が主導したウォーターフロントの事業コンペで、十数社の競合を経て選ばれたこのホテルに課せられたのは、「神戸の街を元気にする」という使命。
その使命に応えるために、私たちが選んだ手段のひとつが、神戸と兵庫の食材でお客様をもてなすことだったのです。
それは、単なる食材調達の話ではなく、地元の生産者を支え、地域経済を循環させ、この土地に根ざしたホテルとして存在し続けることの表明でもありました。
兵庫五国という、豊かな食の地図
兵庫県は日本で唯一、日本海と瀬戸内海の両面に接している県で、その中に摂津・播磨・丹波・但馬・淡路の「五国」があります。それぞれの地域が、まったく異なる顔を持つ食材の宝庫。私たちはこの五国の四季と旬の食材を、テーブルに届けることをコンセプトにしています。
たとえば、5月・6月は淡路島の玉ねぎや鮮魚が輝く季節です。夏が深まれば丹波の黒枝豆や地野菜が旬を迎え、秋には丹波篠山の松茸や丹波栗が届きます。「神戸ビーフ」のブランドで世界に知られる神戸牛も、もちろん欠かせません。
フランスの美食都市リヨンが、周辺産地のブレス鶏やシャロレー牛を食の礎にしているように、神戸もまた「背後に広がる豊かな産地」を持つ都市です。フランス料理界のレジェンドと呼ばれるシェフが、日本初出店の地として神戸を選んだのも、偶然ではないのかもしれません。
総料理長が自ら産地を歩く理由
現在、直接取引または継続的なやり取りがある農家・生産者は30軒ほど。業者経由を含めれば、その数はさらに広がります。私自身、できる限り産地を訪ね歩き、畑や海の現状を自分の五感で確認する中で、その食材を最大限に生かす料理を考えます。
たとえば、ホテルで採用している但馬産の鹿は、私がこれまで食べた中で最も繊細で旨味が強く、多くの修業を経た今も「最高」と言い切れる一品です。加工業者を訪問した際、捕獲してから解体に至るまでの血抜きの精度、衛生管理の徹底、合理的に設計された冷蔵熟成の工程を目の当たりにし、なぜこの鹿肉がここまでの品質になるのかを、体感として理解しました。
だからこそ、料理として提供する際にも一切の妥協はしません。サービススタッフには、お客様への説明の際に必ず、「もし口に合わなければ、作り直しをしますので」という言葉とともに、この鹿肉をおすすめするよう徹底しています。そこまで言い切れるのは、自分自身が現地を見て、納得して仕入れている食材だからです。
これは、食材の均一性と安定供給が優先される大型ホテルの厨房では難しいことだと思います。私たちは70室という規模だからこそ、食材一つひとつと真剣に向き合い、産地との信頼関係を深め続けることができるのです。
「脇役」を主役に押し上げる技法
地産地消を実践する上で、私がもうひとつ特に意識していることがあります。それは、地元食材を「付け合わせ」で終わらせないということです。
フランス料理の皿では、神戸牛がメインであれば、地元野菜はどうしても脇役になりがちです。でも私は、「神戸牛も美味しい、でもその隣の兵庫産の野菜も主役級にいてほしい」という考え方で組み立てます。
たとえば、春の看板メニューである「三木産マッシュルームとアミガサ茸のクリームソース、リードヴォーのムニエル」。三木市のマッシュルームは世界でも旨味の強いキノコとして知られ、フランス料理にとてもなじみ深い食材です。
そこに、春限定のアミガサタケ(モリーユ茸)を合わせ、師匠のレシピからインスピレーションを受けた技法でクリームに仕立てることで、兵庫の地産食材と「ザ・フランス料理」の技法が交わる一皿になります。一つひとつの食材を尊重する姿勢が、最高の一皿につながっていきます。
そこに、春限定のアミガサタケ(モリーユ茸)を合わせ、師匠のレシピからインスピレーションを受けた技法でクリームに仕立てることで、兵庫の地産食材と「ザ・フランス料理」の技法が交わる一皿になります。一つひとつの食材を尊重する姿勢が、最高の一皿につながっていきます。
料理人を目指すみなさんへ
地産地消は、「地元のものを使いましょう」というスローガンではありません。地域の生産者と手をつなぎ、食材の個性を最大限に引き出し、その土地を訪れたお客様にしかできないおもてなしを届ける。それが、私たちがずっと変わらず大切にしてきた哲学です。
みなさんが将来どのような厨房に立つとしても、若いうちに身につけた“食材を見る目”は、包丁の技術と同じくらい、その後の料理人としての土台になります。ぜひ、目の前の食材を一歩深く知ることに挑戦してみてください。
