食の世界で、「聞いたことはあるけど詳しくは知らない」「今さらだけれど実はわからない」という言葉はたくさんあるはず。この連載ではそうした言葉の中から、食のこれからを知るキーワードを説明。今回は「ヨーロッパの発酵食品」を取り上げます。
vol.5 ヨーロッパの発酵食品
日本は植物性、ヨーロッパは動物性の発酵食品が豊富
発酵とは、微生物の働きによって食材を分解させることです。その結果、多彩な発酵食品が生まれます。発酵食品は、身体にさまざまなよい働きをすることで知られています。
発酵食品の生まれる工程は以下の通り。
材料の食品 × 微生物の働き = 発酵食品
人間にとって有用で、おいしい発酵食品が、長い食の歴史の中で淘汰されて、今に残っています。その中でも、今回はヨーロッパの伝統的発酵食品を見ていきます。
肉食文化、乳製品文化を反映した発酵食品
発酵食品は世界中にあり、それぞれの地域の発酵食品の個性は、とりわけ「微生物」によって形作られます。そういう意味では、日本では「麹菌」が最も重要。味噌、醤油、米は皆、麹菌によって作られます。
一方、今回のテーマのヨーロッパでは、「乳酸菌」が重要です。また材料の食品としては、日本は大豆や米が多いのに対して、ヨーロッパは肉や乳製品が多いという違いがあります。
ではここからは、ヨーロッパでポピュラーな発酵食品がどのように作られるか、ざっくりと見ていきましょう。
◆生ハム
豚肉を材料とする保存食品は、ヨーロッパの食文化の中で重要な一角を占めます。生ハムも、発酵を利用して保存性を高めた食品です。
豚肉を材料とする保存食品は、ヨーロッパの食文化の中で重要な一角を占めます。生ハムも、発酵を利用して保存性を高めた食品です。
生ハムの大まかな作り方は、「豚の腿肉をまるごと塩漬けして水分を抜き、その後、発酵と熟成をさせる」というもの。
たとえば、最高品質で知られるイタリアのパルマの生ハムでは、塩漬けに3週間、塩漬け後になじませる時間に3ヶ月間、乾燥熟成に1週間かけます。このなじませる時間と乾燥熟成の期間に、乳酸菌や酵母による発酵が進みます。
その後、約1年間かそれ以上熟成させて完成。この間にも乳酸菌や酵母による発酵が進み、肉の組成が変わり、独特の香りも生まれます。
ヨーロッパでは、以下の生ハムが特に知られています。
・パルマ産「プロシュート・ディ・パルマ」
・スペイン産「ハモン・セラーノ」「ハモン・イベリコ」
・フランスのバイヨンヌ産「ジャンボン・ド・バイヨンヌ」
いずれも伝統製法と長期熟成を特徴とします。
なお2022年の1月から、イタリア産の生ハムの輸入が停止されています。これは「アフリカ豚熱」という伝染病がイタリアの養豚の現場で広まっているから。早くおさまり、輸入の再開が待たれます。
種類が多いので、チーズは毎日食べても飽きない
◆チーズ
乳製品の発酵食品として、ヨーロッパで欠かせないのがチーズです。実に多くの種類があり、 ヨーロッパ全体では1000種類、そのうちフランスでは400種類も作られていると言われています。
乳製品の発酵食品として、ヨーロッパで欠かせないのがチーズです。実に多くの種類があり、 ヨーロッパ全体では1000種類、そのうちフランスでは400種類も作られていると言われています。
実際、フランス人はほぼ毎日さまざまな種類のチーズを食べる習慣があります。それだけ生活に溶け込んでいるのです。こうしたチーズのバリエーションを作り出しているのが、原料(乳)、菌(カビ)の多彩さです。
チーズの基本的な作り方は、「乳を乳酸発酵させ、酵素を加え固体と液体に分ける。固体を型に詰め、カビの働きで発酵・熟成させる」というものです。
なお、材料となる乳は、牛乳のほか、ヤギ乳、羊乳がポピュラー。またカビの種類としては、白カビ、青カビなどが知られています。そのほか、独特の強いにおいを生むカビもあります。
いくつかフランスのチーズを紹介しましょう。
いくつかフランスのチーズを紹介しましょう。
・カマンベール …… 牛乳・白カビ(2〜3ヶ月熟成)
・シェーブル …… ヤギ乳のチーズ(熟成方法・期間はさまざま)
・ロックフォール …… 羊乳・青カビ(3〜9ヶ月熟成)
・フルムダンベール …… 牛乳・青カビ(約2ヶ月熟成)
・コンテ …… 牛乳(最低4ヶ月熟成。多いのは12〜18ヶ月。それ以上のものもある)
このように、材料とカビ、熟成期間の組み合わせで多様なチーズが生まれます。
◆ヨーグルト
日本でもポピュラーなヨーグルト。乳を乳酸発酵させたものです。フランスには牛乳のほか、羊乳やヤギ乳で作るヨーグルトも売られています。
バターも生クリームも発酵させる
◆発酵バター
「発酵バター」という言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。こちらは言葉の通り、バターを製造する際に発酵の工程が入るものです。
「発酵バター」という言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。こちらは言葉の通り、バターを製造する際に発酵の工程が入るものです。
具体的には、 牛乳を遠心分離してクリームを得たら、そこに乳酸菌を加えて乳酸発酵させます。発酵時間は14〜15時間ほど。その後撹拌し、脂肪分と水分を分けます。脂肪分がバターとなります。
充分に時間をかけた乳酸発酵により、バターは柔らかな酸味を得ます。その酸味と脂肪分のコクが織りなすふくよかな味が、発酵バターの醍醐味。これを使って作った菓子はワンランク上の味わいとなる、高級バターです。
◆発酵クリーム
日本ではあまりポピュラーではありませんが、生クリームを発酵させた「クレーム・ドゥーブル」という乳製品がフランスにはあります。
こちらは、生クリームを乳酸発酵させたもの。まろやかな酸味が持ち味です。ちなみに「クレーム・ドゥーブル」の意味は「ダブルクリーム」つまり「2倍のクリーム」。乳脂肪分の割合ではなく、乳酸発酵によってとろみが増すため、このように呼ばれます。
こちらも発酵バターと同様、製菓や料理作りで用いると一段と奥深い風味が得られるのが特徴です。
ちなみに日本では、主に製菓用に「クレーム・ドゥーブル」という製品がありますが、こちらは生クリームの乳脂肪分の割合を高めたものと、生クリームを乳酸発酵をさせたものの2種類があります。内容に注意して使いましょう。
野菜の発酵、魚の発酵
◆シュークルート
野菜を乳酸発酵させた食品は、世界中でポピュラーです。ヨーロッパではシュークルート(キャベツの乳酸発酵)がその代表。キュウリのピクルスも、もとは乳酸発酵で作られましたが、今では酢漬けにする製法が多く採られています。
◆魚醤(コラトゥーラ、ガルム)
日本に魚を発酵させた「しょっつる」があるように、イタリアではカタクチイワシを発酵させた液体調味料「コラトゥーラ」「ガルム」があります。複雑な旨みが塩気と混じり合って生まれる、インパクトの強い味が特徴です
※コラトゥーラは、酵素の働きで魚が分解されて生まれます。そして酵素は、微生物ではありません(微生物は生き物ですが、酵素は違います)。そのため、「発酵は微生物の働きにより生まれる」という定義からは外れますが、歴史的に発酵食品と呼ばれてきたため、ここで紹介しました。
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以上、駆け足でヨーロッパの発酵食品を見てきました。日本とは異なり、肉や乳製品の発酵食品が発展してきたことがよくわかります。
フランスで働いた経験のある料理人・パティシエたちは、特に乳製品の発酵食品への思いを強く持っているようです。作りたての発酵バター、濃厚かつ爽やかなクレーム・ドゥーブルは、日本ではなかなか体験できない味。こうした乳製品の発酵食品は、本場の味を作るには欠かせない存在なのです。
そんなエピソードからも、発酵食品は文化圏ごとに大きく異なること。そしてそれが、それぞれの文化圏の食のベースにあることがわかると思います。