「AIがコードを書いてくれるなら、プログラミングを勉強する意味はあるの?」。IT業界を目指す皆さんなら、一度は考えたことがあるかもしれません。株式会社アルス・ノヴァで、LLM(大規模言語モデル)を活用した業務支援ツールの開発に携わるNguyen Van Be(グエン・ヴァン・ベ)さんは、「仕事によっては、コードの8〜9割はAIが書く」と言います。それでも、エンジニアの仕事はなくならない。むしろ、求められる力が変わってきているそうです。ベトナムから来日して9年、AIサービス開発の最前線に立つべさんに、AI時代のエンジニアに本当に必要な能力を伺いました。
【株式会社アルス・ノヴァ】 東京・秋葉原に本社を置くIT企業。システム・ソフトウェア開発、モバイルアプリ開発、Webデザインから運用保守までを一気通貫で手がける。開発の現場ではAIを積極的に取り入れ、AIを活用した業務支援サービスの開発にも取り組む。会社運営そのものにAIを組み込む「AIネイティブ企業」を目指している。
AIでコードが書ける時代になりましたが、エンジニアの仕事は変わりましたか?
案件にもよりますが、コードのほとんど、8割から9割をAIが作ることもあります。その場合、私はチャットで指示を出して、出てきたものを微調整したり修正したりします。不具合の調査も、内容を伝えればAIがプロジェクト全体から関連する箇所を探して、修正案まで出してくれるので、正直、とても楽になりました。
では、今後エンジニアの仕事はなくなっていくのかというと、そうではないと思っています。以前は「コードを書けること」自体が大きな強みでしたが、今は「AIをどう活用するか」「AIへどんな指示を出すか」を考える力が重要になっています。コードを書く速さよりも、何をどう作るべきかを判断する力が問われる時代になったと感じています。
これは悲観的な話ではありません。AIは仕事を奪う存在というより、コーディングや調査、設計の一部を支援してくれることで、エンジニア一人ひとりの生産性を大きく高める存在です。そういった変化に合わせて、自分自身も成長し続けることが大切なんです。
AIが書いたコードや設計を、どうやって評価しているのですか?
まず確認するのは、仕様どおりに動くかどうかです。ただ、動けばいいというわけではありません。
たとえば、既存システムへの影響。AIはそこまで考慮できないことが多いのですが、私たちの仕事は、すでに動いているシステムに新しい機能を追加していく形がほとんどです。いま使っているデータベースをそのまま活かすのか、AIが提案してきた新しい仕組みを採用するのか。そこを見極める必要があります。ほかにも、あとから修正しやすいか、セキュリティは大丈夫か、使う人にとって分かりやすいか、などをひとつずつ確かめていきます。こうした選択肢を総合的に見て選ぶには、技術的な知識と経験が必要です。エンジニアにも「アーキテクト(設計者)」のような考え方が求められるようになっていると感じます。
AIは非常に優秀ですが、業務の視点が抜けた提案をしてくることもあります。あるデータを記録する機能を設計したときも、AIの案は一見、問題なさそうに見えました。しかし「そのデータでどんな分析をしたいのか」「運用はどうするのか」という視点が足りていなかったんです。
だから「AIがそう言ったから」で採用してはいけません。自分で理解した上で、チームのリーダーに「こう設計しようと思うのですが、どうでしょうか」と必ず相談します。すると、考慮の足りない点を指摘されるので、その繰り返しで、判断の軸を鍛えている最中です。
AIをただ呼び出すだけなら簡単です。難しいのは、業務の流れやユーザーの使い方を踏まえて、どう設計し、サービス全体にどう組み込むかを考えること。「AIを使うこと」より「AIをどう活かすか」に、エンジニアの力が表れるんです。
学生のうちから意識しておくとよいことはありますか?
「システム全体がどうつながっているのか」を意識して学ぶことだと思います。
画面、API、データベース、認証、AI。それぞれの役割を少しずつ理解していくと、「この機能なら、このサービスを組み合わせれば実現できそうだ」という発想ができるようになります。とはいえ、そういった幅広い知識を身に着けて、発想できるようになるのは簡単なことではありません。私も新しい技術に触れるたびに、調査しながら設計しています。
ただ、技術を組み合わせること自体が目的になってはいけない、とも思っています。最終的にユーザーが迷わず使えるか、欲しい情報にすぐたどり着けるか。フロントエンドからバックエンドまでを、ひとつの体験として考えることが大切です。ひとつの言語だけを学ぶばかりではなく、「どう組み合わせてシステムを作るか」という視点を持つことが、将来大きな強みになると思います。
国籍や文化、職種の違いを越えて働く上で、大切にしていることは?
「自分で考えること」と「相談すること」のバランスです。分からないことをすぐ聞くことも大切ですが、まず自分で調べて仮説を持ち、「ここまで調べましたが、この2つの方法で迷っています」という形で相談すると、より建設的な議論ができます。
来日して9年経ちますが、今でも仕事中に語彙をとっさに思い出せなかったり、考えを整理して分かりやすく伝えるのに苦労したりする場面があります。だからこそ、結論を先に伝える、要点を絞って話す、といった工夫を意識しています。
チーム開発では、エンジニアだけでなく、デザイナー、テスト担当、プロジェクトマネージャーなど、いろいろな立場の人と協力します。そのため、相手の意図を理解し、自分の考えも共有しながら、目的を合わせていく必要があります。AIを使いこなすためにも、人間同士の認識合わせや信頼関係構築、そのためのコミュニケーション力は欠かせないと感じています。
AI時代エンジニアを目指す学生へ、メッセージをお願いします。
私は、学校で学ぶ基礎知識は、AI時代だからこそ以前より重要になっていると思います。
AIはコードや設計案を提案してくれますが、それが本当に正しいかどうかを判断するには、プログラミングやデータベース、ネットワークの基礎知識が必要です。基礎がある人ほど、AIをより効果的に活用できます。全体の構造を理解している人がAIに指示を出せば、その通りに作ってくれますが、その考えを持っていない人は、AIの提案のどれを選ぶべきかで迷ってしまいます。
一方で、AIの登場によって、エンジニアに求められるレベルは確実に上がっています。私も、時代遅れにならないように、新しい技術のニュースを毎日チェックしています。だからこそ、流行のツールだけを追うのではなく、基礎をしっかり身につけながら、AIも積極的に使ってください。AIを自分の力として活用できるエンジニアを、目指してほしいと思います。
