この連載では、新しい視点で自分らしい働き方をするシェフにインタビュー。どうやって自分らしさを見つけたか? どうやって今、自分らしく働いているか? シェフたちの道のりや、現在の仕事について聞きます。
vol.21 チェンチ 坂本 健(後編)
自分をさらし、失敗したら質問。質問は食い気味くらいがちょうどいい
京都・平安神宮のほど近くにあるイタリア料理店、「チェンチ」。オーナーシェフの坂本 健さんは大学卒業後に地元京都のイタリア料理店に就職し、修業時代はイタリア料理を京都の伝統料理と融合させる感覚を磨きました。2014年の独立開業後もオリジナルな発想で「京都人のイタリア料理」を創作。全国から坂本さんの料理を食べにお客が訪れます。
そんな坂本さんのインタビューを、前後編で紹介している後編。お伝えするのは、独自性のある料理人になるための、修業中でのアドバイス。すぐにでも実行できる話がたくさんあります。併せて、若い料理人へのメッセージもいただきました。
坂本 健 さかもとけん
1975年生まれ、京都出身。大学在学中にイタリア料理の道を志す。卒業後、笹島保弘氏がシェフを務める「イル・パッパラルド」で修業を開始。2002年、笹島氏の「イル・ギオットーネ」独立開業に伴い同店へ。2005年オープンの東京・丸の内店が軌道に乗った後は京都店の料理長となり9年間務める。2014年「チェンチ」を独立開業する。
料理を分解して考え、分析する習慣を
前編…大学時代の英国短期留学で、イタリア料理に出会った坂本さん。超多忙の店に入っての修業を経て、料理長に。その時代を経て自分のアイデンティティを確立し、徐々に独立を意識するようになった(前編はこちら)
――坂本さんは今、地元京都の食材や食文化と、世界をご覧になってきたご自身の感覚を融合させ、独自の料理を作っています。どうしたら、そのようなオリジナリティのある料理を作ることができるのでしょう? そのために、修業中からできることはありますか?
若いうちから意識できること、行動できることはたくさんあります。
その前に、まずオリジナリティのある料理を作る段取りを、私がどう考えているかお伝えしますね。
オリジナリティのある料理を作る時に、鍵となるのが分解再構築です。つまり、自分が食べて感動した料理や、人に強く支持されている料理を分解して考え、自分なりに再構築することです。
その分解する時に、どれだけ細かく分けられるかが大事だと思っています――料理のパーツをできるだけ分解して捉え、それぞれの内容、風味や食感の成り立ち、関係性、温度などまで分析する。調理プロセスも細分化し理由とポイントを考察する、ということです。
こうやって、一度、徹底的に細かく分けた要素を自分のアイデンティや、自分のフィルターを通しながら再構築する。もとのものとは違う料理を生み出していくのです。
なお再構築の時には、アイデンティティや自分のフィルターを持っていることが非常に大事となります。でも、これらを確立し、料理に生かすことができるのは、修業を重ねて上級者になってから。
若い人はまず、精密な分解から取り組むのが順当だと思います。
オリジナリティはまかないで鍛えられる
――その、細かく分解する能力はどのようにして鍛えられるのでしょう?
まず利用できるのが、まかないですね。
まかない作りでは、最初に「こんな完成形をめざす」という絵をしっかりと描くのが重要です。たとえばガパオライスを作ろうと思ったら、「ガパオライスってどういうものだろう?」「おいしさのポイントは何だろう」を自分なりに理解し、「じゃあこういうビジュアル、こういう味、こういう食べた印象をめざそう」としっかりと定めます。そして「そこに向けで、どんなアプローチをしようか」を考える。
この一連の作業では、分解再構築の考え方と同じで、どれだけ細かく考えられるかというのが鍵になります。
で、そうして考えても、最初からおいしい料理に着地させることは難しいでしょう。しかし考えた上での失敗ですから、失敗の理由を深掘りできます。その時は、ちゃんと自分でメモをとっておいてくださいね。スマホのメモでもいいです。
あと、失敗したら「なぜこうなってしまったのか」を先輩にどんどん聞いてください。
たとえば鳥腿肉の照り焼きを作ろうと決めたとします。その時は、あらかじめ肉を焼くポジションにいる先輩に鶏腿肉を焼く方法を聞き、その通りにやってみる。でもうまく仕上がらなかった。理由を聞いたら「肉は常温にもどしておいた?」「下味はどうやった?」などと教えてくれるはず。逆に質問せずにただ焼き、失敗したら「何してんねん」で終わりますから(笑)。
質問は、自分で準備した上でなら、ちょっと食い気味にするくらいでちょうどいい。でないと、先輩も忙しいですから、自分から手取り足取り教えはしません。
あと、厨房の人、サービスの人、いろいろな人に聞くといいですね。「イマイチだった」と話す人もいれば「この部分はよかったよ」と話す人もいて評価が割れる……というケースもあるでしょう。そんな時は、なぜそう思うのか質問し、理由を分析すれば、2個の引き出しを自分の中に作ることができます。
「まかないを適当に作ったらおいしくできてラッキー」という姿勢はダメ。私はスタッフに「“なんとなく”でまかないを作るな」といつも口を酸っぱくして言っています。
準備、質問、分析。続ければ結果につながる
――先ほどの例でガパオを作る時、まずは完成イメージと、そこに到達するためのアプローチを頭の中で固めておくように、とおっしゃいました。そのためには、ガパオがどんなものか、ある程度事前に知っておく必要がありますよね。
そうですね。それは調べればある程度わかります。
僕らの若い時はそれこそ図書館に料理本を見に行ったり、本屋さんでオレンジページを見たり(笑)。オレンジページは最強です(笑)。村田さん(京都「菊乃井」主人、村田吉弘氏)が家庭向けに書かれた、調味料の割合がテーマの本にもお世話になりました。
今はネットを見れば何パターンものレシピがわかります。僕は、ネットでもYouTubeでもどんどん利用すればいいと思っています。でも失敗も質問もたくさんして、自分の糧となる使い方をすることが大切です。
最近は、ネットを自分の記憶装置と勘違いしてしまう人が多いのが残念。単に「やったことがある」のと、失敗や質問を通して自分の糧にするのとでは全然違う体験です。
――自分をさらして、いろいろな人の意見を聞くのは勇気が要ります。
そう、やっぱり怖いので、意外とみんなこれをやらないんですよね。先輩が忙しかったり、休憩で自分の時間を過ごしている時に「僕のまかない、どうでしたか?」と話しかけるのはなかなかハードルが高いでしょう。なので質問するタイミングを見極めるのは大事です。
ただし、20歳そこそこの人が失敗するのはみんなわかっていますから、そういう意味では質問しやすいと考えてください。
こうした姿勢と行動を2年、3年、5年続けると、絶対に結果が変わってきます。ふと気づいたら、先輩から「お前があの料理作ると旨いよな!」と言われるタイミングが絶対に来る。それまで手を動かし、頭を働かせ続けてください。
人気コンビニおにぎりからも多くを学べる
――そのほか、若いうちにできることがあれば教えてください。
就職してすぐできることとしては、とにかく掃除や洗い物を早くきれいにやること。頭も使って段取りをつけて、誰よりも早く終えられるよう毎日取り組んでください。
これができると、「あいつが入ってから、洗い物がすぐに片付く」と先輩たちも気付きます。そうしたら次は、「じゃあ、あいつにちょっと仕事をまかせてみようか」「一回まかない作らせてみようか」となりますから。スタートはそこ。掃除と洗い物は、チャンスをつかむきっかけです。
あとは……いろいろなものを食べることですね。必ずしもいいレストランに行かなくてもいいです。若いうちはお金がないでしょうし。
でも、たとえばコンビニで売れているおにぎり、世間で大ヒットしているスイーツにはさまざまなヒントがあります。人気のおにぎりの具でじゃこと高菜とかあったとすれば、「この組合せの何がおいしさを生むのか」と考える、とか。
年数が経って、少しお金が使えるようになれば、ちゃんとしたビストロでプリフィクスのランチを2500円くらいで食べる、という具合に一歩ずつ進むといいですね。流行っているお店の味を吸収するのもいい。
そんな中で「自分はこの味が好きだ」というのが見えてくるでしょう。濃い味なのか、やさしくナチュラルなのか……。それ見つけることが将来、流行に流されるのではない、自分の味を作る第一歩になります。
――話が飛びますが、坂本さんは今、海外のシェフとのコラボレーションも多くなさっています。世界で活躍するシェフになりたいと考えている若い人も多いと思いますので、そうなれるコツがあったら教えてください。もちろん、説得力とオリジナリティのある料理を作ること前提ですが、それ以外に何かあれば……。
やはり「チャンスがあったら海外で料理したい」と口に出し続けることだと思います。
僕の場合は笹島さん(笹島保弘氏。「イルパ・ギオットーネ」オーナーシェフ)のもとで料理長をさせていただいている時、海外のお客さまがいらっしゃれば「海外で料理したいです」と話していました。
シンガポールで、コンテンポラリーのジャンルで高く評価されているレストラン「イギーズ」のオーナー、イグナシウス・チャンさんもそんなお客さまのお一人。イギーさんに「いつか海外で料理したいと思っている」と話し続けていたら実際にシンガポールに呼んでくださり、料理を作る機会をくださいました。
また別のお客さまで、香港から定期的に来られる方にも同じように話していたら、独立してすぐ「香港クラブでイベントをしてよ」と呼んでくださいました。3日で400人の方を招く大規模なイベントでびっくり(笑)、でもとてもいい経験でした。今も、ことあるごとに「海外でイベントをやりたい」と言い続けています。
海外でのフェアや海外シェフとのコラボレーションは、本当に楽しいです。この間もソウルのモダンコリアン「アラプリマ」でキム・ジンヒョクさんとコラボしたのですが、互いの知恵を共有できるし、自分の引き出しが増えるし、たくさんの刺激をいただきました。
モダンコリアンのスターシェフで、キムさんの友人であるカン・ミングさんの「ミングルス」にも連れて行ってもらいました。そこでは古漬けキムチの使い方に感銘を受けたり、伝統的な味覚構成の日韓の共通点に気づいたり。料理人どうしの交流にもワクワクします。
なお英語はできるに越したことはありませんが、流暢である必要はなく、意欲で通じるくらいできれば十分。前へ前へ、笑顔で、ホスピタリティの精神で。そういう姿勢が大事ですし、実際、それでいっぱいコミュニケーションが取れます。
成功体験をいっぱいできる仕事
――最後に、この仕事に就いている、若い料理人にメッセージをいただけますか。
料理の世界は、ちゃんと続けていれば成果が出る世界だと僕は思っています。
料理のセンスの差はあるでしょうが、スポーツの世界のように「体格が違うから、いくら練習しても絶対に敵わない」というほどではない。医学の世界のように、5年間研究したけれど思う成果が出なかった、ということもない。
そして料理の世界は、お客さまを毎日笑顔にできます。しかも1日3食ある。料理人は、成功体験がいっぱいできる仕事です。
僕の大学時代からの大切な友人に、世界にファンを持つ鞄の作家がいるのですが、彼は僕の仕事を羨ましいとよく言います。「鞄をがんばって作るけれど、売るところに立ち会うことも、作っているところを見てもらうこともない。どういう人に使ってもらっているか、どこを好きになってくれたかも知ることはない」と。「でも、レストランは作った料理をすぐ食べてもらえて、2〜3時間でみなさんのテンションを高めて笑顔にできる。しかも最後に『美味しかった、楽しかった』と帰っていただく。めちゃくちゃいいよな」。確かにそうだな、と思います。
なので若い人には、料理人はすごくいい仕事だと伝えたいですね。また、食べるということは、人の一番近いところにある行為。そこの喜び、感動を作り出せるすばらしい仕事です。
修業中につらさはつきもの。そんな時は、料理という仕事のすばらしさを思い出して頑張ってほしいです。
チェンチ
京都府京都市左京区聖護院円頓美町44-7
075-708-5307
https://cenci-kyoto.com
撮影 轟あずさ