前編では、コンクリートの基礎知識や現場へ届くまでの流れ、そして「圧縮に強く、曲げに弱い」というコンクリートの特性についてお伝えしました。
後編では、その特性を技術でカバーし、大空間を実現する「PC工法」と「プレキャスト工法」の仕組みに迫ります。実際の施工事例も交えながら、巨大建築を支える仕事のリアルをご紹介します。
お話をうかがったのは……
株式会社キップ 代表取締役 土山 保清 氏
兵庫県芦屋市に本社をかまえる建設会社。PC工法やプレキャスト工法を用いた躯体工事を得意とし、公共工事(国の重要機関)・民間工事で実績を重ねています。
兵庫県芦屋市に本社をかまえる建設会社。PC工法やプレキャスト工法を用いた躯体工事を得意とし、公共工事(国の重要機関)・民間工事で実績を重ねています。
1 PC工法とは何か ― 「引っ張る力」が大空間を生む ―
まずは、前回のおさらいから。
コンクリートには「押される力に強い一方で、曲げられる力にはあまり強くない」という特徴があります。
たとえばコンクリートでできた梁の上に重さがかかると、梁は真ん中あたりがしなろうとします。
柱と柱の間が広いほど、その力は大きくなる。
でも、だからといって梁を大きく太くすると、今度は重くなり、天井も低くなってしまいます。
柱と柱の間が広いほど、その力は大きくなる。
でも、だからといって梁を大きく太くすると、今度は重くなり、天井も低くなってしまいます。
そこで使われるのが、”PC工法(プレストレスト・コンクリート工法)” です。
これは、ピアノ線のような鋼線を先に強く引っ張っておき、そのまわりにコンクリートを流し込んで梁をつくる工法です。最初に逆向きの力をかけておくことで、上から重さがかかっても梁がたわみにくくなります。
PC工法を使うと、本来は梁の高さが800mm必要な場所でも500mmほどに抑えられるため、その分天井を高くすることができます。見た目の開放感だけでなく、建物全体の重量を抑えられるので、構造的にも経済的にも合理的な工法です。
また、広い空間を実現できるだけでなく、部材の軽量化による建物全体への負担軽減や、荷重がかかった際のひび割れの抑制など、建物の長寿命化にもつながります。
2 プレキャスト工法 ― 工場で作り、現場で組み立てる ―
もうひとつ、大空間建築を実現するうえで重要な役割を担っているのが ”プレキャスト工法” です。
柱や梁、床などの部材をあらかじめ工場で製造し、現場へ運んで組み立てる方法で、品質を安定させやすく、寸法の精度も高めやすいという利点があります。
さらに、現場での作業量を減らせるため、工期の短縮や、夏場の炎天下における作業負担の軽減など、施工環境の改善にもつながります。
ただし、部材は1本で20〜30トンになることもあり、現場では大型クレーンを使った慎重な作業が欠かせません。部材をつなぐ際には、PC工法を応用した圧着工法※が用いられます。
※ボルトで締めるのではなく、PC工法で用いられる「鋼線を引っ張る技術」を応用し、部材同士を強く密着させて一体化させる方法です。
3 施工事例 ― 名だたる施設の「裏側」 ―
■ 花園ラグビー場(東大阪市)
ラグビー世界大会に向けたリニューアルで、U字型だったスタジアムをぐるりと一周させる増築工事を担当。観客席床版の据え付け(プレキャスト工法)、X字に交差する斜め柱の組み立て(PC工法)などを行いました。
柱の組み立ては、重心がどこにあるかを見極めながら支保工※で位置を決め、全体が形になってから外していくという、経験がものをいう作業でした。実はこのラグビー場は、私が入社して最初に担当した現場なんです。今回のリニューアル工事にも携わることができ、感慨深いものがありました。
柱の組み立ては、重心がどこにあるかを見極めながら支保工※で位置を決め、全体が形になってから外していくという、経験がものをいう作業でした。実はこのラグビー場は、私が入社して最初に担当した現場なんです。今回のリニューアル工事にも携わることができ、感慨深いものがありました。
※コンクリート打設時の型枠や掘削箇所の地盤を一時的に支え、崩壊を防ぐ仮設構造物のこと。
■日鉄鋼板 SGLスタジアム(尼崎市)※阪神タイガース二軍球場
観客席・大階段・外壁を担当。中でも特徴的なのが、1枚10トンにもなる大型外壁パネル「モンスターウォール」の据え付け(プレキャスト工法)です。工場で製造したパネルを現場に搬入し、支保工で位置を調整しながら設置しました。
鉄骨の外壁はボルトや溶接で固定できますが、コンクリートのパネルの場合は床と一体化するまで支保工で固定し続けなければなりません。支えを外すタイミングの見極めが難しい工事でした。
■ 甲南大学(神戸市)
校舎の柱・梁・床をすべてプレキャスト工法で施工。半円形の建物(図書館)では円形に支保工を組んで、ケーキのピースのような形の部材を積み上げていきました。部材を置くたびに荷重の偏りで位置がずれていくため、次の一手を常に考えながら進める難しさがありました。
最後に……
今回は前後編を通じて、巨大建築の構造を支えるコンクリートの特性と、PC工法・プレキャスト工法といった特徴的な施工技術について紹介しました。
当社は従業員7人の小さな会社ですが、手がける仕事の大きさは従業員100人規模の会社と変わりません。小規模でも大きな現場に挑めるのは、PC工法やプレキャスト工法など専門分野に特化した技術と、これまで積み重ねてきた実績があるからです。
広々とした大空間の裏側には、緻密な計算と経験に裏打ちされた専門技術があります。
みなさんも、大きな建物を訪れる機会があれば、少し立ち止まって「この空間はどうやって支えられているのだろう?」と考えてみてはいかがでしょうか。“つくる側”の視点で少しでも興味が湧いたら、いつでも会社見学にきてくださいね。
みなさんも、大きな建物を訪れる機会があれば、少し立ち止まって「この空間はどうやって支えられているのだろう?」と考えてみてはいかがでしょうか。“つくる側”の視点で少しでも興味が湧いたら、いつでも会社見学にきてくださいね。
