食とは混ざり合わなかったものを融合し、企みを形にする企画編集会社 KUUMA inc.が紹介する、新しい景色たち。正しいか正しくないかはわからないけれど、気持ちいい食の未来を考えるヒントにふらりと出会えるかもしれません。
今回混ざり合うのは、科学。「料理は科学だ!」とも言われることがありますが、人間の「おいしい」という感覚を科学的に紐解いてみると、料理だけでなくヒトのからだの可能性にも気づけたお話。。今回は、大阪駅直結に位置する複合商業施設グランフロント大阪で行われている、食育プロジェクト「Umekiki(うめきき)」での取り組みを紹介しながら、科学と考える食をのぞいてみましょう。
「おいしい」のめきき力を育てるプロジェクト「Umekiki(うめきき)」って?
2013年、大阪の一等地に開業したグランフロント大阪。100店舗近い飲食店がテナントとしてはいる食にチカラをいれた複合商業施設で、開業とほぼ同時期に食育プロジェクト「Umekiki」は生まれました。
BSE問題や食品偽装問題など、食の安全への関心が高まっていた当時。100店舗のレストランがあれば、100人近い料理人やつながりのある生産者さんなど、グランフロント大阪の料理の裏側で活躍する、多くの食のプロたちがいる。そんなプロたちと一緒に、おいしいものがおいしい理由を自分自身で目利きできる力を育てることができれば、食はもっと安心して楽しめるようになるのではないか。そんな想いからUmekikiプロジェクトは始まりました。シェフによる料理教室や、全国から農家さんが集まって開かれるマルシェ、生産地ツアーなどのイベント開催や、食の学びの情報誌「Umekiki Paper」やWEBサイト、SNSでの発信など、さまざまな取り組みを行ってきました。
そして、2019年。誰も予想もしなかったパンデミックが世界中で起こり、飲食業界は特に大きな打撃を受けました。Umekikiとして今できる取り組みをと、次世代を担うこどもたちへ食を通した学びを届ける企画を2022年に実施。その名も、『Umekikiこども記者倶楽部』。記者となったこどもたちがグランフロント大阪に潜入し、食の学びをまとめた新聞を作るプログラム。テーマは、“好き嫌いの科学”。誰しもが経験する食の好き嫌いについて、大学教授やシェフを先生にお招きし、大人も子どもも一緒に学ぶ機会となりました。
「まずは、運営チームも学ばねば!」と、大阪大学大学院人間科学研究科で動物生理化学や栄養学などの研究をされている八十島(やそしま)先生に取材を決行。今回は、科学の視点から見た食の好き嫌いについて、八十島先生から教えてもらった学びを一部ご紹介します。
好き嫌いは、遠い祖先からの贈り物
そもそも、好き嫌いはただのワガママなんでしょうか?答えは、ノー。そのワケは、私たち人間にとって、ひいては私たち生き物にとって、「食べる」という行為がどういう意味を持つのかを考えてみれば理解できるといいます。食べることは、生きるために必要な栄養やエネルギー源を取り込むこと。そして、肉も魚も野菜も食べる雑食性動物である人間に好き嫌いがなかったら、からだに害をもたらす食べ物まで取り入れてしまう可能性があります。食の好き嫌いは、遠い昔に生き物の祖先が身につけた生きるための知恵であり、わたしたち人間もその力を受け継いでいるのです。
食べ物の味には、甘味、塩味、酸味、苦味、旨味の基本五味があります。好き嫌いには個人差があるものの、生き物である人間に共通して好まれやすい味と嫌われやすい味があるのだそう。こどもの頃、甘味と旨味を好んで食べていた人も多いのではないでしょうか。その理由は、甘味と旨味が生き物に安心感をもたらすからなんだとか。例えば、赤ちゃんが生まれて初めて口から摂取する母乳には、旨味物質のグルタミン酸が豊富に含まれます。母乳だけでなく、赤ちゃんが生まれる前のお母さんのお腹の中にある羊水にもグルタミン酸が含まれます。旨味は、お腹の中にいる頃から慣れ親しんでいる味だからこそ、安心して受け入れられる味なんです。
一方で、酸味と苦味は嫌われる傾向があるといいます。子どもの頃、苦いピーマンや酸っぱいトマトが苦手だったという人もいるのではないでしょうか。酸味は、腐敗した食物が醸し出すことが多い味わい。腐敗した食物を食べるとからだは異常を起こすため、人は生まれもって酸味に対する警戒心をもっているとのこと。また、苦味は毒性の強い食材に多く含まれる傾向にあります。コアラのように毒素を消化できる体なら話は別ですが、わたしたちは毒に強い体へと進化していません。そのため、苦味を危険信号として受け取り、嫌うことが多いというワケなんです。
そして、こうした反応は人間だけに当てはまるものではないのだそう。ある実験によると、オランウータンやネズミなどの哺乳類も甘味には舌なめずりをして食欲旺盛になり、苦味には舌を出して吐き出そうとする行動をみせたといいます。このように食の好き嫌いを紐解いていくと、私たち人間は、この地球上にあまたいる生き物の一つであることを改めて実感します。
理由は一つじゃない。好き嫌いのワケはとっても複雑
一方で、好き嫌いには個人差があります。「なぜか人よりきらいな野菜が多い」、「みんなが普通に食べられるものが苦すぎて食べられない」、そんな経験をした人もいるのではないでしょうか。そこには、その人の体の特徴が関係している可能性があるのだそうです。人の遺伝子には、味を感じるために必要な「味覚受容体(みかくじゅようたい)」を作るはたらきがあり、味の感じ方に関係するのだとか。異なる遺伝子の特徴を持つ人同士では、100〜1000倍まで味の感じ方に違いが出ることもあるのだそう。また、味を感じるために必要な細胞である「味細胞」が多い人のことを「超味覚者(または、スーパーテイスター)」と呼び、特に苦味に対して敏感になりやすいといいます。さらに、生まれる前の赤ちゃんはお母さんが食べた物の成分が含まれる羊水を飲んでいるため、胎児の頃に経験した味が生まれてからの好き嫌いに影響すると考えられているのだそうです
また、人の性格も好き嫌いに影響することがあるといいます。人間には、新しいものを怖いと思う特性である「新奇性恐怖」が備わっていて、これは食べ物の安全性を見極めないといけない雑食性動物である人間にとって、生きるために欠かせない性質です。この特性は、引っ込み思案な性格の人ほど強まり、いわゆる食べず嫌いが増えやすい一方で、新しいもの好きな性格の人は新奇性恐怖が弱まる傾向にあるのだそう。また、人間には「〇〇恐怖症」という呼び方をする性格特性を持つ人がいます。そのうち、「集合体恐怖症」を持つ人は、食べ物が混ざっている状態にも恐怖を覚え、嫌いになることがあるのだそうです。このように、生まれ持った性質が原因となる好き嫌いだけでも、さまざまな要因が複雑に絡み合っていることがわかります。
経験や学習によって変わり続ける、好き嫌い
幼かった頃から好き嫌いが変わることがあります。そこには、脳と腸の関係性が影響している可能性があるのだそうです。
ある食べ物を食べた後に吐いたり体調を崩したりすると、たとえ好きだったとしてもその食べ物を嫌いになることも。その背景には、味の情報と腸(内臓)の情報が、脳の中のとても近い場所に運ばれることが関係しているといいます。近い場所に届けられる2つの情報はお互いに影響しやすく、「この食べ物のせいで体調不良になったから、この食べ物は嫌い」と、からだが無意識のうちに認識しているのだそうです。
反対に、嫌いな食べ物を好きになる脳のメカニズムはまだまだわかっていないことが多いのだとか。嫌いなものが好きになる可能性の一つとして、腸を刺激することの効果が考えられています。好き嫌いに関わらず、栄養のある物を食べると「体にいいものが入ってきたぞ!」という情報を腸から出るホルモンが脳へ伝えます。すると、脳が「もっと欲しい!」という信号を出し、結果的にその食べ物をだんだん好きになる、というメカニズムが考えられているのだそう。これらは無意識のうちに起こっているため、わたしたちがはっきりと認識することはできません。知らないうちに、脳と腸の間でこんなやりとりがあったと思うと、人間のからだには私たちが知らない秘密がまだまだあるのだと感じます。
人は、情報を食べている?
好き嫌いには科学的なメカニズムがある一方で、人間は味物質そのものだけでなく、情報にも左右されながら味を感じています。口コミで高評価を得ている料理を美味しいと思ったり、インフルエンサーや権威のある人がおすすめするものを良いと感じたりと、人間の感覚は曖昧で揺れやすいものでもあります。情報を鵜呑みにして食べるのではなく、体の反応に敏感になってみると、日々の食事がまた違った見え方をするかもしれません。
科学の視点から食を見つめてみると、さまざまな発見がありました。一方で、同時に「科学=全てを知っているもの」ではないのです。科学を知れば知るほど、人間の曖昧さや不思議さも同時に実感していくようにも感じる点が、逆説的であり興味深い点でもあります。Umekikiプロジェクトが科学の視点を取り入れたように、あなたが今取り組んでいるテーマを別の視点から観察・考察することで、新しい発見が生まれるかもしれません。どんな混ぜ合わせをしてみたいか、ぜひ一度考えてみてください。
(筆:木村有希 KUUMA.inc)
▼関連リンク
・食の目利き力を高めるプロジェクト「Umekiki」
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・「Umekikiこども記者倶楽部」イベントレポート
・2022年10月発刊号「Umekiki Paper collaboration with こども記者倶楽部」