食とは混ざり合わなかったものを融合し、企みを形にする企画編集会社 KUUMA inc.が紹介する、新しい景色たち。
いままで実践してきた様々な取組みを通して、正しいか正しくないかは、わからない。けれど気持ちいい、食の未来を考えるヒントにふらりと出会えるかもしれません。
今回混じり合うのは、森。森の恩恵を分解してみると、どんな食との未来が見えてくるのでしょうか。
前編のvol.2に続き、vol.3は後編として、薪レストランを題材に紹介していきます。
キッチンから踏み出す、料理人。
神戸北野にレストランを構えるリストランテerre(エッレ)。
今から約5年前の2017年12月に開業した当時から、薪を熱源として食材と向き合い、完全予約制でコース料理を提供しています。
どうして薪なのか?という問いに、オーナーシェフの濱部隆章さんはこう答えます。
「ガスコンロのつまみをひねると簡単に火がつき、強弱のコントロールもこちら次第。もっとコントロールできないものを向き合い料理を愉しみながら、食材のおいしさと向き合いたかったんです。」
加えて、熱源となる薪には、まだ中に水分が眠っています。その水分とともに食材を焼き上げることで、食材の水分を保ったまま表面はガリッと焼き上がるため、味わいのコントラストを愉しむことができるのだと教えてくれました。
erreで初めて豚の薪焼きを食べたお客様は、そのジューシーさに驚かれることが多いそう。火加減を誤るとパサついてしまう印象のある豚が、一口噛んだ瞬間に中から肉汁がじゅわっと溢れるのだとか。
erreで初めて豚の薪焼きを食べたお客様は、そのジューシーさに驚かれることが多いそう。火加減を誤るとパサついてしまう印象のある豚が、一口噛んだ瞬間に中から肉汁がじゅわっと溢れるのだとか。
そんなerreのシェフが、キッチンから踏み出し丹波篠山で猟師であり、解体処理も行っているカーリマンの新田さんを訪ねたのは、森の恩恵をもっと身近に感じてもらおうと始まった『草むらの學校』プログラムの準備のため(草むらの學校、そしてカーリマンの新田さんの取り組みについては、食未来編集室 Vol.2「食から考える、森との未来 〜前編・ジビエ編〜」を読んでみてください)。
2022年11月15日に、リストランテerreとレストラン 汀(みぎわ)を拠点に開催された『草むらの學校 vol.1 アサード ディナーナイト ジビエ先生×薪先生 編』。アサードと呼ばれる肉の塊を直火でじっくりと焼く昔ながらの調理方法を愉しみながら、森とのつながり、そこで生きる生き物との関係性、それらとどう人が付き合っていくべきかを学ぶプログラム。そんなプログラムが生まれるまでの道筋をたどってみたいと思います。
からだの仕組みがわかれば、おいしく調理できる。
年間400〜600頭もの丹波篠山市内の猟師が捕獲した鹿や猪などの解体処理を行っている新田さんの解体所は、狩猟期間(鳥獣保護管理法に定められた狩猟期間。主として安全確保の観点から農林業作業の実施時期や山野での見通しのきく落葉期等を勘案し、毎年10月15日(北海道は毎年9月15日)から翌年4月15日までとされています)は、特に大忙し。捕獲してから2時間以内に解体することが衛生上や美味しさのためのガイドラインで定められているなか、30分で解体することを大切にしている新田さん。猟師から捕獲の連絡がはいれば、急いで解体所へ。狩猟期間は、動物たちによって予定が決まると言います。
ジビエの解体所は何度か訪れたことのあった濱部シェフでしたが、新田さんの解体所の清潔さにびっくり。また、その余すことなくいただき尽くす解体の手さばきにも感心の声があがりました。
「今の料理人は、こんなにきれいに手さばきできる人は少なくなっていますよ。」と、濱部シェフ。骨の仕組み、筋肉の構造、血管の流れ方。からだの仕組みがわからないと、美味しくいただき尽くすことはできない。料理人のキッチンに届く食材としての肉は、加工処理されているものがほとんどなので、こういった場所に足を運び、体験することの大切さを話してくれました。
森を守ることにつながる、薪調理。
キッチンから抜け出しジビエが生まれる背景を知った濱部シェフ。11月15日のイベント当日は、erreの開放暖炉で子鹿の足をまるごと一頭焼き上げることになりました。
直火でゆっくり焼き上げるアサードスタイルは、火が入るまで数時間かかります。加えて薪に火をつけ温度が高くなる熾火になるまでも数時間。着火してから焼き上がるまで4時間ほどかかると言います。原始的な調理法が手間と時間がかかることを改めて感じさせられます。
リストランテerreでは、開業時から丹波篠山の薪を使って調理をしています。たまたま懇意にしていた丹波篠山の無農薬栽培を行うKOM" target="_blank" style="color: #158350; text-decoration: underline;"S FARMという農家のご夫婦が紹介してくれたのが、丹波篠山で活動をする伊藤さんというおじいさん。
定年退職後、伊藤さんの生まれ故郷である丹波篠山の森を守っていくべく、木を切りながら建材の販売や家具の制作、もっと森を身近にしようと子どもたちの遊び場として楽しんでもらうイベントの企画などを精力的に行う、パワフルな伊藤さん。
山は定期的に人がはいり間伐しなければ、陽がはいらずどんどん多様性がなくなっていくのだと言います。erreでは、そんな間伐した木を伊藤さんが丁寧に割り、ほどよく乾燥させたものを運んでもらっています。
その量は、月に500kgにも及びます。毎月、伊藤さんや地元の仲間の皆さんが、トラックに薪を積み込み届けてくれる貴重な薪たちです。
樹種によって、変わる味わい。
薪は、乾燥具合がとっても重要。水分を含みすぎていると、煙があがりすぎてしまいます。薪の扱いにまだまだ馴れていなかった開業当時は、レストラン中が煙でいっぱいになってしまうことも多々あったと話す、濱部シェフ。
その度に伊藤さんと話しながら、erreの調理にあったベストな乾燥具合を探り、いまの状態にたどり着いたと言います。水分量は60%程度を目指し、日々薪を管理。季節によりますが、1~2年をかけて山の麓で薪をゆっくり乾燥させながら保管してもらいレストランまで運んでもらいます。
乾燥具合に加えて、樹種も重要。樹によって香りや味わいが変わってくるのが、薪調理の魅力のさらなる魅力です。erreで扱うことの多い樹種は、ナラやクリ、クヌギ、サクラなど。30cmほどの長さに切りそろえてもらいます。ナラは一番燃えやすく燃焼時間も長いので比較的扱いやすい樹種だそう。クリは燃えにくく、種火のような感覚で長時間加熱したい時に。クヌギは一番燃焼が早く、高温になるので瞬間的な加熱に向いています。サクラは香りが高く、ほどよい燻製香を愉しみたいときに使うのだと言います。熱源も調味料となり得る。焼き上げる食材や作りたい料理によって、樹種を調整しながら日々向き合っているそうです。
乾燥しきっている炭の熱温度は600度ほどまで上がりますが、水分を含んだ薪の熾火は400度ほど。それでも近づくと体の芯からじわっと熱くなります。開業当時は、熱中症になることもあったと言います。
薪の状態によって火の入り方が異なるので、身体感覚を大切に食材と向き合います。温度計を使うと、感覚が鈍るそうで、濱部シェフは食材の芯に鉄串を指し、数秒おいたものを下唇の下に当て、人肌程度に温まっていることを確認するようにしています。
分かりやすい数値に頼りすぎず、自身の本能と付き合うことも、料理において重要なのだと感じさせられます。
おいしいものは、人をつなぐ。
11月15日の『草むらの學校 vol.1 アサード ディナーナイト ジビエ先生×薪先生 編』に訪れてくれた人たち。動機はさまざま。
美味しいものが好き。
ジビエに関心がある。
森に関わる仕事をしている。
生き物が好き。
なんだか面白そう。
それで良いのです。おいしいものを囲めば、みんななんだかほっこり。料理には、人をフラットにしてくれる力があるように思います。アサードスタイルで焼き上がった鹿肉をもって、erreの1階にあるレストラン汀(みぎわ)へ移動します。
汀で提供された丹波篠山産鹿肉を使った料理がずらりとキッチンカウンターに並びます。
驚くほど、くさみがなく、丁寧に解体された新田さんの鹿肉を、赤みの旨さを活かしながら楽しめるよう、濱部シェフ、そして汀の料理人チームが仕上げてくれました。
カウンターにずらりと並ぶ料理たち。中央に鎮座するのは、鹿肉とキノコのクリームパスタ
鹿肉のスナックカツなど普段なかなか出会えないジビエ料理も登場
鹿肉の薪焼き トルティーヤ-ワカモレ/トマトハラペーニョ/自家製タバスコのソース-
想像以上に臭みがないことに驚くお客様も
細かい部位はミンチにして余すことなくいただきました
食の背景には、色んな自然、生き物がいます。普段はなかなか見えない景色ですが、想像してみると、さらに味わい深くなるのではないでしょうか。
森との距離は、今の暮らしではどんどん遠くなっていく一方でしょう。
目には見えないけれど、実はたっぷり受けている森の恩恵を食から初めて見ることができるかも知れません。そこから何につながるかは、自分次第。それぞれの森との関わりかたを見つけていけると食の未来も豊かになっていくのかもしれません。
● リストランテ erre(エッレ)
各線三宮から北野坂を10分ほど歩いた先にある薪を熱源にした完全予約制のコース料理を提供するリストランテ。「根源を敬う-Respect the roots-」を合言葉に、かつて料理が生まれ大切にされてきた調理法の起源を再考しながら、 食材、そして火水土空気と向き合いプリミティブな調理を追求します。
神戸市中央区中山手通1丁目22-13 ヒルサイドテラス2F
☎ 078-862-6674
アクセス
・JR 三ノ宮駅 / 阪急神戸三宮駅 / 地下鉄 三宮駅 から徒歩8分
・阪神 神戸三宮駅から徒歩10分(北野坂沿い)
● 神戸北野 汀(みぎわ)
各線三宮から北野坂を10分ほど歩いた先の交差点にある、レストラン。『食とアートの交差点』を合言葉に、生産者さんの顔が見えるからだに優しい料理を囲んで、子どもも大人も混じり合う料理屋さん。カウンターキッチンで料理人との会話を愉しみながら過ごせます。ワインショップ、図書館も併設。子どもアート教室やアーティストとのイベント、企画展示も常時開催。
神戸市中央区中山手通1丁目22-13 ヒルサイドテラス1F
☎ 078-862-3411
アクセス
・JR 三ノ宮駅 / 阪急神戸三宮駅 / 地下鉄 三宮駅 から徒歩8分
・阪神 神戸三宮駅から徒歩10分(北野坂沿い)
筆:ハマベレミ(KUUMA inc.)