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この連載では、新しい視点で自分らしい働き方をする料理・製菓業界の若手にインタビュー。どうやって自分らしさを見つけたか? どうやって今、自分らしく働いているか? 今に至る道のりや、現在の仕事について聞きます。
Vol.11パティスリーイーズ大山恵介(後編)
仕事を続けるのも、モチベーションを保つのも自分
2020年7月のオープン以来、順調に人気店へ成長している「パティスリー イーズ」(東京・兜町)。シェフパティシエの大山さんは2021年に姉妹店の「ティール」を開業し、さらに今年の秋冬には別の姉妹店としてビストロ併設のブーランジュリーをオープンする予定。ますます勢いを増しています。
2回にわたってお届けする大山さんのインタビューの後編である今回は、大山さんが実践した「道の切り拓き方」と、修業初期の若者に向けたメッセージを紹介します。
大山恵介 おおやまけいすけ
1986年生まれ。日本菓子専門学校出身。在学中から「イデミスギノ」で研修し、卒業後に就職。その後渡仏し、アルザス地方のオーベルジュで働く。帰国後は「アルジェントASO」「リストランテASO天神」「レストラン ラ フィネス」「レストラン シンシア」など、レストランのパティシエとして経験を重ねる。2020年に「パティスリー イーズ」を、2021年姉妹店「ティール」をオープンする。
レストランのデザートを独力で学んだ
――「イデミスギノ」での修業(前編参照)を終えてから自分のお店をオープンするまでの間は、ずっとレストランで経験を重ねています。
そうですね、パティスリーではなくレストランで働いていました。そして基本的に、誰かに教わるのではなく、最初から自分で考えてデザートを作っていました。もちろん周りの人たちに助けていただいたことはたくさんありますが、いわゆる「師匠に教えてもらった」という経験はありません。
イデミスギノの次はフランスに行きたかったのですが、まずは資金を貯めるため、東京の汐留にあったフランス料理レストランで10ヶ月ほどアルバイトをしました。この店にはデザート部門の社員がいなくて、教えてくれる人がいない。なので自分なりに考えてデザートを作っていました。それまでにパティスリーで学んだ技術を生かすことができたので、困ることはありませんでしたね。
フランスではアルザス地方のオーベルジュで働き、レストランのデザートと、あと料理も担当しました。小さなオーベルジュだったので、デザートを作るのは僕だけ。基本的にはここでも、自分でデザートを考えていました。
その時、主に参考にしたのは製菓の専門書です。日本からたくさん持って行きましたし、フランスでも買って、とにかく熱心に読み込みました。あとは試作して食べて、改善してまた試作して……ということをひたすらくり返していました。
自分には「将来はパティスリーを開く」という目標があり、また、人の下で働くという状況をできるだけ早く脱したい、という思いがあったんです。そのためには自分が頑張るしかないので、受け身でいてもダメだな、とはずっと思っていました。
積極的に自分の名前を売る
――将来の夢は「自分のパティスリーを持つ」でしたが、なぜレストランで働き続けたのでしょう?
早く自分の名前を売りたかった、というのが大きいです。そのためにはレストランのシェフパティシエになるのが一番早い道だと考えました。有名なレストランのシェフパティシエになれば、自分の名も世に知られる可能性が高い。もちろん、自分にもそれだけ力が求められますが。
なぜ名前を売ることに熱心だったかというと、自分のパティスリーを開いた時、やはり、自分が有名である方が、より多くのお客さまに来ていただけると思ったからです。でないと、店が潰れてしまう。シンプルな理由です。
なので独立する直前に働いていた「シンシア」では、面接の時に「この店で自分の名前を売りたいと思っている」と最初にはっきりと伝えました。石井真介シェフは「いいよ!」と言ってくれて、取材で僕の名前を出すなど実際に協力もしてくださり、とても感謝しています。それである程度世に知られるようになり、「パティスリー イーズ」をオープンした時にスタートダッシュができたのだと思います。
――「名前を売るためにレストランで働こう」というような戦略的な発想は、昔から持っていたのですか。
イデミスギノを辞めたあたりからでしょうか。人の下で働くのではなく、早く一人前になりたいという思いを強く持つようになったのがこの頃です。
ただ、自分では戦略的だとは思っていません。その時の、なんとなくの直感です。将来、こうなりたい。そのためには何が必要だろう……と考えただけです。とてもざっくりとしたものです。
――大山さんは2020年にイーズをオープンし、修業時代の目標を実現しました。今はどのような目標で動いていますか。
今は、お菓子を中心に世界を広げ、生活全般を扱う店をいつか開きたいと思っています。パン、ビストロ、花、フレグランス……など、菓子を起点にライフスタイル全般への提案ができる店を作りたいです。
これも直感で、戦略的に目標を定めたわけではありません。ふと「やりたいな」と思いついたものです。この秋冬にブーランジェリーとビストロはオープンする予定ですが、その先は特に決まっていません。
ただ、ざっくりとした将来像ではありますが、実現のためには何が必要かについてはしっかりと考えるようにしています。そして自分にはないものがあったら勉強する。こうして夢に近づいていくのだと思っています。
「やらされている」ではなく、自分のために働く
――これから製菓業界で働きはじめる人、働きはじめて間もない人に向けて、仕事を続けるには何が必要だと伝えたいですか。
僕はモチベーションが何よりも大事だと思っています。店に入ってからしばらくはやることが多かったり、叱られたり、辛いことがたくさんあります。それを乗りきるにはモチベーションを上げるしかありません。
そして、モチベーションを上げるには、目標がはっきりしていることが必要です。目標は、なんでもいいんです。自分の店を持つでもしいし、たくさん稼ぐでもいいし、人を喜ばせるでもいいです。そうした「なりたい自分」を忘れないでいれば、目の前の辛さは成長のために必要なものだと思うことができます。
でも若い人を見ていると、目標が特にない人が意外とたくさんいるんです。なんとなくやっているだけ。そうなると、どうしても「やらされている」「きついのは周りのせい」という気持ちが強くなってしまいます。
厳しいことを言うようですが、この仕事を選んだのは自分です。なので、同じ仕事をしていて、「やらされている」と思うか、「自分のために必要な過程」と思うかは自分次第です。モチベーションの低下を他人のせいにして愚痴ばかりいうとか、そういう行動はやめた方がいい。そうでなく、目標を持ち、自分のモチベーションを自分自身で高める。そう心がけてほしいです。
――一時的にモチベーションが下がってしまう……という瞬間は誰にでもやってくるものだと思います。そこを乗り切るにはどうしたらいいでしょうか。
成長が実感できれば、それがモチベーションにつながりますよね。でも残念ながら、成長はすぐに現れるものではありません。成長曲線はごく緩やかな時期が長く続いた後で、グッと上がります。つまり、最初はいくら仕事を重ねてもなかなか成長できない。この現実を知っておくと、逆に、辛い時期も乗り切りやすいのではないでしょうか。筋トレでも、今日たくさんトレーニングしたら明日いきなりマッチョになることはありませんよね(笑)。それと同じです。
あと、修業では「今日だけすごく頑張った」よりも、「少しずつでも常に積み上げていく」ことのほうが重要です。
それはたとえば「昨日より今日の方が少しでもきれいに仕上がるように頑張る」、「同じ作業が少しでも速くできるよう意識する」という小さな努力を積み重ねるということです。この少しずつの努力を一ヶ月くらい続ければ習慣化され、努力が無意識になる。そうなれば軌道に乗ったようなものです。
でも残念なことに、こうなる前に、製菓の世界で働くことをやめてしまう人が一定数います。それは本当にもったいないことだと思います。働いていて「この場所は自分に合わない」と思ったら、他の店に移っても全然構わない。努力を続けるのであれば。しかし勉強も努力もやめてしまったら、それまでの積み重ねが水の泡になってしまう。しかも「辞めるクセ」がついてしまうんです。
逆に、継続したら、「継続するクセ」がつきます。何をやっても辞めなくなる。なんだか精神論みたいですが(笑)、実効性はあると思っています。
なので、成長曲線がグッと上がるまではコツコツと小さな努力を続ける。そして、頑張るのは自分。そのことをぜひ覚えておいてください。
取材・文/柴田 泉 撮影/小沼祐介
パティスリー イーズ
東京都中央区日本橋兜町9-1
TEL 03-6231-1681