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この連載では、新しい視点で自分らしい働き方をする若手シェフにインタビュー。どうやって自分らしさを見つけたか? どうやって今、自分らしく働いているか? シェフたちの道のりや、現在の仕事について聞きます。
vol.6 ラチュレ室田拓人(後編)
狩猟を通して、料理人の
社会貢献を考えるようになった
「ラチュレ」は2016年に東京・青山にオープンしたフランス料理店。オーナーシェフの室田さんは料理人であると同時に、狩猟免許を持つハンターでもあります。室田さんはまた、日本の食が抱えている課題の解決に取り組む、広い視野を持つ料理人としても知られています。
2回にわたってお届けする室田さんのインタビューの後編である今回は、ラチュレのシェフとして全力で働きながら、好きな狩猟や社会問題も追求している室田さんの考え方、仕事のしかたをお伝えします。
プロフィール 室田拓人 むろたたくと
1982年千葉県生まれ。武蔵野調理師専門学校出身。卒業後は都内のフランス料理店数店での修業を経て、フランス料理の名店「レストラン タテル ヨシノ」に入り約6年間働く。その間、2009年に狩猟免許を取得。2010年に都内ビストロのシェフに就任。16年に「ラチュレ」を独立開業。17年よりミシュラン1ツ星を維持するなど、高い評価と人気を得ている。
食べるとは、命をいただくこと
――狩猟をしたり食育に取り組むなど、レストランの外での活動にも積極的ですが、どのような経緯で取り組むようになったのですか。
僕は単純な人間。疑問に思うことがあればその理由を見つけ、解決したいとシンプルに思うんです。
狩猟に興味を持つようになったのは「レストラン タテル ヨシノ」で働いていた時でした。タテル ヨシノはジビエ(猪、鹿、鴨などの自然の動物や鳥)の料理で非常に有名なレストラン。そのため、ジビエの時季である冬には半端ない量のジビエを厨房で扱うのですが、その中には質のよいものもあれば、においのキツイものもある。個体差がとても大きいわけです。
その理由を調べたら、猪なり鴨なりが生きている時に食べていたエサや、撃ち獲った後の処理の仕方が味の決め手になっているとわかった。ここがきちんとできていなと、キツイ肉になってしまうのです。
ならば自分がハンターになれば、エサ場の選択も処理も好きにできる。こう考えて狩猟免許をとったのです。
――実際にハンターになって、発見したことはありますか。
行く先々の土地に昔からある猟師のグループに、仲間として入れてもらえるようになったのは非常に嬉しいことでした。こうした仲間ができたことで狩猟についていろいろ教えていただいたり、グループでする猟に参加できたり。これは厨房にいるだけでは知り得ない、でも料理人にとって貴重な体験だと思います。
あと何よりも、「命をいただく」という食の基本を強く感じられるという点も、狩猟から得られる貴重な財産だと思います。実際に動物を仕留め、それをさばいて肉にするのですから、けっこう生々しい。でもこの感覚は、スタッフにも若い世代にもこれからしっかりと伝えていきたいと思っています。
というのも、食べものはもとは生き物で、その命をいただくことに対する感謝の気持ちが今の時代はどんどん弱くなっているのを感じるからです。肉、魚、野菜すべてにおいてそう。そこを変える必要があります。
これからの料理人は、
おいしい料理を作っているだけでは不十分
――それは、たとえば、どのようにして変えていきたいと考えていますか。
僕は小中学生向けにジビエをテーマにした食育に取り組んでいますが、それは変化の一歩になるのでは、と思っています。
この食育ではジビエについて伝え、さばくところから調理工程を見せ、できあがった料理を実際に食べてもらっています。命を食べるということをジビエを通して実感してほしいのです。
なおこの20年くらいで、山の中の鹿や猪の数は増加し続けています。そうした猪や鹿は山から下りてきて、畑の野菜や果樹園の果物を食べてしまうようになったため、害獣として駆除の対象になっています。しかし、駆除した鹿や猪は、長らく埋められたり捨てられたりするだけだった。今も大多数がそうです。
しかし命を無駄にしていいわけがない。これからは、ジビエの食肉としての利用をどんどん進めなければいけません。なので、今の子供世代は、ジビエに抵抗感を持たない大人になってほしいと思っています。
将来は、ジビエがスーパーで普通に売られている時代になるのが理想です。そうした背景もあり、食育を通して上質なジビエ料理を子供たちに食べてもらっています。
――レストランの外での活動と、シェフとしての料理の追求を、どのようにして両立させていますか。
僕の本業はレストランで、自分の原点はお客さまに料理を通して喜んでいただきたいというところにあるので、料理には最大の情熱を傾けています。スタッフを育て、活気のあるチームを作ることにも力を入れています。
でもこれからの料理人は、おいしい料理を作っているだけでは不十分だと思うのです。食の社会問題や、農業や漁業のサステナビリティに対してアクションを起こす必要が絶対的にある。なので、レストランの外と中の活動を両立させようと意識するより、「これは今の時代、必要なことなんだ」と自然に考えています。
なお、今専門学校に通っている世代がシェフになる頃には、料理人が食の社会問題を知り、解決するために行動することは当然になっているはずです。なので、そうした知識を常に意識して、アンテナを張っていてほしいです。
あと料理についてばかり考えるより、猟や畑に行くなど、店の外から学ぶことは非常に多く、それは料理にフィードバックされます。そんな視野の広さも料理人には必要です。
料理も真剣にやっているけれど、料理している時以外も真剣にやっていけば、料理につながるものが見つかる。そんなふうに考えています。
たまにはバカになって!
――これから料理修業をする学生に向けて、伝えたいことは何でしょう。
これからの料理人は社会的意識を高く持たなければいけないと話してきましたが、まずは料理人としての基礎を固めることが大切ですよね。その際は、「技術も大事だけれど、それだけを見ないでいてほしい」と伝えたいです。
働きはじめたら、何よりも技術を追い求める人が多いと思います。でも、まずは「続けることに意義がある」と考えてみてください。というのも、技術は、量を重ねて身に付くもの。続けていればいずれ習得できます。
技術より大切なのが、「何のために料理をしているか」を常に意識することです。そして、それは、やはり食べてくれる人のためなのです。
一つ一つの調理の先にある「食べてくれる人」までを意識すると、料理を作る楽しさや目標が見えてくるのではないでしょうか。僕は、「お客さまの方を見て一生懸命働いていれば結果はついてくる」と思っています。
――料理する最終的な目的を意識しながら、続けることが大切なのですね。
ちなみに、僕の印象ですが、学生時代に優秀だった人ほど折れがちと感じます。「こんなはずじゃなかったのに」と、思ってしまうんでしょう。
逆に、同級生でも「こいつ何考えてるのかな? 大丈夫かな?」なんてヤツの方が実際は続いていて(笑)、シェフになっていることが多い。
だから、「バカになれ!」です。これは僕の大好きな言葉で、アントニオ猪木が言っていたこと。
煮詰まりそうな時は開きなおって、でも料理が好きという気持ちはしっかりと持ち続ければ、修業は続けられると思います。「バカになれ!」と自分を励まして、頑張ってほしいです。
取材・文/柴田 泉 写真/小沼祐介
ラチュレ
東京都渋谷区渋谷2-2-2
青山ルカビル B1
TEL 03-6450-5297
https://www.lature.jp
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