この連載では、新しい視点で自分らしい働き方をする若手シェフにインタビュー。どうやって自分らしさを見つけたか? どうやって今、自分らしく働いているか? シェフたちの道のりや、現在の仕事について聞きます。
vol.5 ラチュレ 室田拓人(前編)
学生時代に自分の「好き」がわかり、
それは今も変わらない
「ラチュレ」は2016年に東京・青山にオープンしたフランス料理店。オーナーシェフの室田さんは、自分で狩猟をし、撃ち獲った獲物をお店の料理で使う「ハンター料理人」であることで有名です。
人気店のシェフを務めながら、店の外での活動にも意欲的な室田さん。2回にわたってお届けする室田さんのインタビューの前編である今回は、料理を志し、学生時代を経て、修業初期に至るまでの道のりをお伝えします。
プロフィール 室田拓人 むろたたくと
1982年千葉県生まれ。武蔵野調理師専門学校出身。卒業後は都内のフランス料理店数店での修業を経て、フランス料理の名店「レストラン タテル ヨシノ」に入り約6年間働く。その間、2009年に狩猟免許を取得。2010年に都内ビストロのシェフに就任。2016年に「ラチュレ」を独立開業。2017年よりミシュラン一ツ星を維持するなど、高い評価と人気を得ている。
高校時代の飲食店バイトは
今も役に立っている
――室田さんは、どのようなきっかけで料理人をめざしたのでしょう。
うちは親が共働きだったので、小学校高学年の頃から自分でご飯を作って、家族に食べてもらう機会があったんです。それを「とてもおいしい」と言ってもらえることがすごく嬉しかった。そこから、「料理を作ってお客さまに出して、喜んでいただく仕事」に魅力を感じるようになり、料理人になりたいと思うようになりました。
あと、単純に勉強が嫌いというのもありましたね(笑)。机に向かうより、自分で体を動かしたり、職人的に手を動かすことに惹かれていました。
当時テレビで放送していた「料理の鉄人」の影響も大きかった。対決方式でシェフたちが料理する番組ですが、千切りをものすごく早く切っているところや鍋を豪快にふっているところが、とてもかっこよく思えたんです。
――専門学校に進学した理由は?
「料理をしたいなら専門学校がいい」と、高校の先生に勧められたからです。高校一年の頃から飲食店でアルバイトもしていましたので、迷いはいっさいなかったですね。
その、高校時代のアルバイト先は、地元の千葉の船橋にあるカジュアルなお店です。接客も調理場もやりましたが、この時の経験が今も非常に生きています。とくに接客は、お客さまの反応がじかに見られて勉強になる。専門学校時代も含め、学生時代にこうした体験をするのはすごくいいことだと思います。
専門学校では、志が同じ仲間たちと2年間過ごせたことが自分にとって非常に大きかったです。同じ境遇の仲間がいると、修業中もシェフになってからも、自分も頑張らなきゃと励みになります。壁にあたっても相談できます。仲間との出会いは学生時代の大きな財産です。
食べ歩きの資金は自分で稼いで!
――学生時代にフランス料理を専攻に選びましたが、どのようにして決めましたか?
進学した時は漠然と「料理がしたい」と思っているだけで、ジャンルは決めていませんでした。フランス料理を選んだのは、当時、学校の仲間たちといろいろな店に食べ歩きをしていた中でです。
僕が育った家はあまり裕福というわけではなく、高校時代まで高級フレンチなんて当然行ったことがありませんでした。なので食べ歩きで初めて行ったフランス料理のレストランで、自分の知らない世界、自分の食べたことのない味があることがわかった。これを「自分が作りたいな」と思ったのです。
その、最初に行った店というのは、本で見て行った銀座の「マノアール・ダスティン」。ここでコースの最初の一皿に出てきたのが、「豚の血のソーセージ」つまりブーダンノワールです。「豚の血のソーセージ」という時点で、もう意味がわからない(笑)。そこに、りんごのジャムを合わせていたのも、「すごい組合せだな……」と驚愕。
でも、食べるとめちゃくちゃおいしかったんです。ブーダンノワールの濃厚な味わいと、りんごの甘みが非常に相性がよくて衝撃を受けました。これがフランス料理を選ぶ決め手になりましたね。
――やはり、若いうちからいろいろな一流の味を食べることは大切ですか。
はい、僕はそう思います。食べ歩きをした味の記憶が今も役に立っているし、舌も鍛えられました。それに、若いうちの吸収力はすごいですから。
また、食べ歩きをする中で自分の好みがわかるようになります。僕は今も、きちんとソースのあるクラシックなフランス料理が好きだと自信を持って言えるのですが、その好みの原点は専門学校時代の食べ歩きにあるんです。
あ、あと、大事なこと言いますが、自分でアルバイトして稼いだお金で行ってくださいね! 親に出してもらっていたらありがたみもなく、記憶に残りませんよ!
最初は小さい店で働いて全体を学んだ
――最初の就職先は、どのような店を選んだのでしょうか? 食べ歩きで、いろいろな店を見てきたと思いますが……。
最初は小さなフランス料理店で働くことにしました。ビストロと呼んだ方が近いかな? 専門学校の先生に紹介してもらった店です。とくに有名というわけではありませんでしたが、自分で食べに行って「おいしい」と思い、決めました。
専門学校の生徒の中でも志の高い子は、超有名レストランで、ミシュランだったら三ツ星か二ツ星の店に行きたがると思います。僕も最初は有名店希望でした。でも、「卒業したてで何もわからないでそういう店に入るより、基礎を学んでから入った方が吸収できるものは多い」と先輩がアドバイスをくれたんです。そのアドバイスに納得して、学校の先生に相談して店を探すことにしました。
そうして入ったのが、最初に話した小さなフランス料理店なのですが、そこはご夫婦二人だけで営んでいる店。厨房にはシェフと僕しかいなかったので、僕もいろいろやらざるを得ない(笑)。でも、それはつまり、何から何まで全部やらせてもらったということ。とても勉強になりましたね。
この店を含めて5年ほど働いたのち、学生時代から憧れていたフランス料理の名店「レストラン タテル ヨシノ」に入ることができました。やはり基礎を身につけていることで、厨房チームの一員としてちゃんと戦力になることができ、多くのことが学べたと思います。
――働きはじめてしばらくは、誰もがきつい思いをすると思います。
最初のうちは大変です。僕もそうですが、怒られてばかりだと思います。そして、逃げたくなってしまうこともあるでしょう。
そんな時は、やはり、「自分はなぜ料理人の道を選んだのか」を思い出すことが大事です。僕の場合は「自分の料理で人を喜ばせたい」という思い。初心は絶対に忘れてはいけません。
つらくてしょうがない時期もありますが、それが一生続くわけではありません。目安としては、最低でも3年は「ここで働く」と決めた店で修業を続け、乗り越えてほしいと思います。
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