東京アメリカンクラブは、ワインの国際資格の認定校でもある
東京アメリカンクラブでは、ワインの国際資格WSET(Wine & Spirit Education Trust)の講座を、館内で開いています。これは、イギリスに本部を置くワイン教育機関の国際的な資格で、本来は外部のワインスクールに通わなければ取得できません。しかし、私たちはクラブそのものが認定校になっているため、働きながら受講できるのです。認定を受けたのは約10年前。イギリス本部と香港オフィスの審査を経て、館内で教えられる体制を整えました。会員制クラブが認定校になるのは、めずらしいことです。講師を務めるのは、館内のアルコール飲料すべてを管理する、私たちのビバレッジマネージャー兼ソムリエの伊地知です。
なぜ日本ソムリエ協会の資格ではなく、WSETなのか。それは、私たちの職場が国際的だからです。日本ソムリエ協会の資格は日本語での受講と試験になりますが、さまざまな国籍を持つスタッフが働くこのクラブでは、それがハードルになります。WSETなら英語で学び、英語で試験を受け、英語の証書が手に入る。海外に出ても通用する資格であり、50か国以上の会員が集まるこのクラブではソムリエよりも合っていたのです。
レベル1は3日間に分けて2時間ずつ。座学と試飲を組み合わせ、最後にマークシートの試験があります。合格するとバッジが授与されます。ご負担いただくのはテキスト代のみで、授業も試飲サンプルも試験も私たちが用意し、数か月に一度、受けたい人を募って開講しています。受講しているのはサービススタッフだけではありません。シェフも参加しています。「このワインならこの料理が合う」と理解が深まることは、料理をつくる側にとってもプラスになるからです。
ワインを知らなかったスタッフが、自分の言葉ですすめるまで
実際に講座を受けたスタッフ、レストランでサービスを担当するJorge(Jorge Luis Imacana Alava)に、話を聞いてみました。エクアドル出身で、来日したばかりのタイミングで私たちのクラブに加わりました。
「入社した頃は、ワインのことは全然詳しくありませんでした。でもレストランで働くうちに、ブドウの品種や味わいの違いを少しずつ覚えて、もっと知りたくなったんです。それで1年ほど経った頃、WSETのレベル1に挑戦しました。
講座で学んだのは、ワインがどうつくられるのか、品種によって酸味やボディがどう違うのか。カベルネ・ソーヴィニヨンはブドウの名前で、ボルドーは場所の名前だということなど。耳にはしていても正確には知らなかったことが、一つずつ繋がっていきました。
一番印象に残っているのは、ワインと料理の相性を学ぶ講義です。塩やレモンをつまんでから赤ワインを飲むとおいしく感じるのに、砂糖や旨味の強いものを食べたあとだと、同じワインが酸っぱく感じる。食べているもので、ワインの味がここまで変わるとは思いませんでした。
学びの成果は、すぐに接客で活かせるようになりました。以前は『このステーキに合うワインは?』と聞かれても自信がなくて、ビバレッジマネージャーに相談しに行っていたんです。でも、いまは『フルボディがおすすめです。カベルネやシラーはいかがでしょう』と、自分の言葉でお伝えできるようになりました。会員の方を見て、今日はこれを飲んでくださるかな、と考えるようにもなりました。
自分がこんなにワインを好きになるとは、思ってもみませんでした。次はレベル2に挑戦したいと思っています。」
この学びは、仕事の外でも活かせる
専門学校に通うあなたは、まだワインを飲んだことがないかもしれません。それでかまいません。Jorgeも、入社した時点では何も知りませんでした。
私たちがこの講座を続けているのは、資格を配るためではありません。講師を務めるビバレッジマネージャーの伊地知は、こう話しています。「お酒は、誰もが飲まなければいけないものではありません。でも、お食事は誰もが楽しむものです。友人との食事、少しかしこまった席、結婚式に呼ばれること。ステージが広がっていく中で、その場にふさわしい飲み物を選べるというのは、人生において持っていていい知識だと思うんです」
夕食の買い物でワインを一本選ぶとき、何も知らなければラベルの文字は何も語りかけてきません。けれど「これは習ったから知っている」「これは魚に合う」と分かるだけで、日々の景色は少し変わります。
私たちが用意しているのは、学びたいと思ったときに手を伸ばせる仕組みです。ワインを知らないあなたが、いつか誰かに一本をすすめられるようになる。その扉を、一緒に開けてみませんか。
