現在のビジネスを取り巻く環境は、日々変化しています。そんな不確実で変化スピードの速い社会環境の中で、企業が生き残っていくためには正確なデータを元にした意思決定が必要になります。つまりこれからも事業を継続していくためには、データ活用は不可欠。データ活用が成功させるため、大手企業を中心に多くの企業が設置しているのがデータ組織です。データ組織に欠かせないと言われているアナリティクスエンジニアとはどのような職種で、どんな技術が求められるのか、解説します。
キャリアマップ編集部 文/ITライター 関洋子
DX推進に欠かせないデータ活用
2018年に経済産業省が発表した「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」は、多くの企業に衝撃を与えました。DX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進しなければ、2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると書かれていたからです。これを機に、大企業を中心に多くの企業がDXを推進しています。
経済産業省によると、DXは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。この定義からもわかるように、DXの手段として欠かせないのが「データ」と「デジタル技術」です。そこで多くの企業が競争上の優位性を確立するために、懸命にデータ活用に取り組んでいます。
しかしデータ活用はまだまだうまく進んでいません。活用できるデータの種類拡大に伴い、データ活用の範囲も拡大しているからです。社内で蓄積されたデータに加え、最近では設備や機器、センサーなどから取得できるIoTデータ、ソーシャルデータや統計データ、天候データなどの社外データなども活用できるようになっています。
出典:DX白書2023(独立行政法人情報処理推進機構)
このようなさまざまな種類かつ膨大なデータをうまく活用するには、必要となるのがデータ活用基盤やそれを構築・運用するための体制作りです。そこで大手企業を中心に部門横断型のデータ組織を作る企業が急増しています。
ただ、データ組織という器だけを作ってもうまく機能するわけではありません。データがきちんと活用できる状態に整備したり、安心・安全に使えるようになっていたりしていることが必要です。そこで重要になるのが、データに関する知識やスキルを持つ専門人材、つまりデータ活用人材です。ではどういう人材が必要になるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
データ専門人材に求められる3つのスキル
まずデータ活用人材は、「ビジネススキル」「データサイエンススキル」「データエンジニアリングスキル」という3つのスキルが求められます。
出典:「データサイエンティスト協会、データサイエンティストのミッション、スキルセット、定義、スキルレベルを発表」
(一般社団法人データサイエンティスト協会 2014年12月10日プレスリリース)
データサイエンティスト協会では、この3つのスキルを次のように定義しています。ビジネススキルとは、課題背景を理解した上でビジネス課題を整理し、解決する力です。データサイエンススキルとは、情報処理や人工知能、統計学などの情報科学系の知恵を理解し、使う力。データエンジニアリングスキルとは、データサイエンスを意味ある形に使えるように実装、運用できるようにする力です。3つのスキルをすべて兼ね備える人がいれば、問題はありませんが、そのような人材はなかなかいません。そこで次のデータ活用人材が連携して、データ利活用を推進するのです。
ビジネススキルに軸足を置いているのが、データアナリストです。
データアナリストの役割は、データ分析から得たこれまでに知られていなかった実用的な知見をビジネスサイドに提供すること。そのため、ビジネスサイドと話し合いをし、分析案件を企画することから始まります。実際の分析業務では、データを抽出し、集計・可視化などを行います。
データサイエンススキルに軸足を置いているのが、データサイエンティストです。
データサイエンティストは、AIや機械学習などを駆使して、分析モデルの構築を行います。実際の業務では分析の品質を高めるためにデータクレンジングを行い、分析アルゴリズムを選定します。そして精度を向上させるためのチューニングを行い、最適な分析モデルを構築することが主な役割と言えます。
データエンジニアリングスキルに軸足を置くのが、データエンジニアです。データを利活用するための基盤の整備や運用を担う人材です。データを蓄積・活用するためのインフラの構築、分析しやすいようデータの成形・加工、データ活用基盤がきちんと稼働するように運用・保守するという役割を担います。
例えば3職種が所属している企業では、データアナリストはデータエンジニア(分析環境の整備やデータ加工を担当)やデータサイエンティスト(アルゴリズムの実装や分析のモデルの構築)と連携し、ビジネス施策の参考になる知見の提供します。このようにデータを利活用するには、軸足の異なる専門人材の連携が不可欠なのです。
アナリティクスエンジニアとは?
しかし現在はデータの種類が拡大し、データ活用の領域が増えており、それに伴い、データサイエンティストやデータアナリスト、データエンジニアの業務は増える一方です。その一方で、ビジネスを取り巻く環境は日々、変化しています。そのような中でデータをビジネスの意思決定に活用するには、スピードが欠かせません。そこで昨今、注目されている職種がアナリティクスエンジニアです。
アナリティクスエンジニアは、ビジネスサイドに近い領域で、データ利用者がデータ分析により多くの時間を費やせるように、クリーンなデータセットを用意したり、高品質なデータパイプラインを開発したり、DataOps(データ活用のスピードと生産性を継続的に改善するための取り組み)の実現を通して開発・運用効率を改善したり、各種アウトプットの利用状況を定期的に確認しながらデータ環境のPDCAを回していくというような業務を担当します。
「先に紹介された3つの職種が担当しているのでは」と思う人もいるでしょう。確かに「クリーンなデータセットの用意」は、データサイエンティストの「分析の品質を高めるためのデータクレンジング」、「高品質なデータパイプラインの開発」や「開発・運用効率の改善」は、データエンジニアの「データを利活用するための基盤の整備」「各種アウトプット」は、データアナリストの「用的な知見をビジネスサイドに提供」業務に含まれてもおかしくありません。
そのため、アナリティクスエンジニアという職種を置いていない企業では、データアナリストやデータサイエンティスト、データエンジニアが担っています。ですが、より早く、より精度の高い意思決定につなげるには、アナリティクスエンジニアの役割が重要になるというわけです。
では、どんなスキルが求められるのでしょうか。データベースやSQLによるデータ抽出やデータ集計のスキル、Pythonなどの分析用プログラミング言語、統計学の基礎知識、データモデリングツールやBIツールの活用経験、データパイプライン~BIツール全体のアーキテクチャ構築に関する知識・経験、事業やプロダクトにおけるKPI定義や可視化、データ分析の経験などが求められます。
具体的な業務は企業によってさまざま、自分の得意を生かして
先に述べたどんなスキルを求められるのか?を見ると、非常にハードルが高いと思われますよね。ですが、これも全部身につけなければなれない職種というわけではありません。第一の理由は現在、データ活用人材は世界的にも非常に不足しているからです。それは「デジタル人材の不足状況、不足する理由、確保に向けた取組状況に関するアンケート」(出典:総務省(2022)「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究」)を見るとよくわかるでしょう。
第二の理由はアナリティクスエンジニアを募集している企業においては、求められる役割が異なること。例えば、大手情報会社であるリクルートであればデータサイエンティストとデータエンジニアの間のポジションを担い、ビジネスサイドとの折衝も頻繁にあると記されています。医療系のソリューションを提供するUbieのアナリティクスエンジニアは、データアナリストとデータエンジニアの間に位置するポジションで、主にエンジニアリング業務を担当します。PayPayのアナリティクスエンジニアも、データエンジニアよりで、社員が社内で流通する各種データを有効活用できるように、データ分析基盤の整備・運用を担当。案件によっては、業務部門のサポートやトレーニングまでを担当することもあるようです。このようにアナリティクスエンジニアとひとくちに言っても具体的に携わる業務はさまざまなのです。
プログラミングやデータベース、コミュニケーション力などは、アナリティクスエンジニアになるためには欠かせないスキル。このうちのいずれか得意なスキルを深掘りしつつ、データを正しく解析するためのスキル(統計学やデータ分析スキルなど)を身につけようとする向上心があれば、アナリティクスエンジニアへの道が開けると思われます。
アナリティクスエンジニアになり、経験を積めば、データサイエンティストやデータアナリストへの転身も可能でしょう。またよりビジネスサイドで活躍したいという人は、コンサルタントの道にも進めそうです。
データ活用人材は、どの企業も求めている注目職種。データを活用してビジネスに貢献したいという方は、ぜひ、アナリティクスエンジニアへの道を考えてみてはいかがでしょう。