パティシエ エス コヤマ
小山 進氏
(プロフィール)
小山 進氏
(プロフィール)
洋菓子職人の父の元に生まれる。神戸「スイス菓子ハイジ」でキャリアを重ねた後、2000年「パティシエ エス コヤマ」設立。
2003年三田ウッディタウンに「パティシエ エス コヤマ」オープン。
「サロン・デュ・ショコラ・パリ」で8年連続最高位を獲得するなど、世界的コンクールでの受賞歴多数。
三田市の住宅地にあるエスコヤマは、1500坪の敷地内にカフェやショコラブティック、パン工房、アイスクリーム工房などのスイーツショップが集まる「スイーツワンダーランド」。世界の権威ある賞を多く受賞する洋菓子職人であり、人々を魅了し続けるコヤマワールドの仕掛け人でもある小山進氏にケーキ職人という仕事と後進育成について聞きました。
―――――――――新型コロナ感染症の流行は、業界に深刻な影響を与えました。 コロナ自粛が続いた3月、4月の状況はいかがでしたか。
高いレベルの感染対策で、安心して寛げる場所に
近隣が住宅地という立地なので、人を集めることをやめるべきだと思い、ほぼ1ヶ月店を閉めました。
それから、すぐには再開せず、店内でのお買い物は休止し、その間は、オープンしてから17年間、近隣のみなさんに対してできなかったことを創業に立ち返ってやろうと考え、お菓子の配達を始めました。
それから予約制のドライブスルー、予約なしのドライブスルーを徐々に整備し、より手軽で安全にお菓子を購入していただけるよう体制を整えていきました。
緊急事態宣言が解除された後も、感染予防対策を徹底しています。9月まで外のテーブルと椅子は撤去していましたし、お菓子教室は9月から、ショコラのショップは10月からと、本当に慎重に、段階的に通常営業に戻していきました。お客様に安全な場所で寛いでいただくには、迎え入れる側が率先して、高いレベルで感染対策を打ち出していくことが一番だと思ったんです。今は「コロナとともに歩む」ということが社会的に浸透してきたこともあり、店の売り上げは昨年の9割まで戻ってきています。
―――――――――近隣のお客様に対してできることを考えて動いておられたのですね。 2003年のパティスリーオープンからこれまで、カフェ、パン工房、ショコラ専門店、お菓子教室と店舗を展開してこられましたが、 人気店舗を作る秘訣は。
なんで売れないのかって、心が届いていないからだ
オープン当初は小さな工房と一つの店だけで始めましたが、今では1500坪の敷地に8ブランドの店舗や施設があります。
周りは「流行っているお店」と思ってくれているかもしれません。そしてその理由は「おいしいからだ」「商品がいいからだ」と考えている人が多いと思います。でも、それだけではありません。「おいしい」だけではわざわざ人は足を運んでくださらない。この世界、「技術はあるのに売れない」「商品は良いのに売れない」ということは多々あります。なんで売れないんだろうって、それは心が届いてないからです。流行る店や長く愛されるブランドを作るには、人を喜ばせたい、驚かせたいという気持ちをまず持って、喜ばせるには、驚かせるにはどうしたらいいかと相手の考えや気持ちを想像して、味はもちろんパッケージ、店の設え、ものごとを立体的に捉えてプロデュースすることが大切なんです。
―――――――――プロデューサーの視点を持つということですね。それができる職人になるには、どうすればいいのでしょう。
技術よりも、「人に関心を持つ」こと
何よりも「人に関心を持つこと」です。ものを見たときに「作った人」を意識して観察するんです。例えばエスコヤマに来たとき、お菓子だけでなく建物や空間、庭、置いてある家具、壁にある絵などを見て、「どうやって作ったんだろう」「なんでこんなものを作ったんだろう」と分析してみる。そうすれば、見えて来るものがあるはずです。
私たちの仕事は、人に提供して人に感じさせる仕事です。「手っ取り早い形」なんて学べるはずがありません。目の前のものを作った人物が何を考え、どう動いて、どのように生み出しているのかを興味を持って見る習慣をつけること。店に飾っている作品ひとつ、家具ひとつとっても、なぜ選んだのか。そこを掘り下げていくことで、ものごとを立体的に捉えられるようになります。
今の時代は人に興味がない人が増えているように思います。社会でも家庭内でも、人に興味を持つことを学んでほしい。それがクリエイティブな力につながるから。そういう考えで生まれたのが「子どもと大人をつなぐパティスリー‘未来製作所’ 」です。大人が入れないお店を作ったら、親たちは中の様子を子どもたちに聞くしかない。楽しいコミュニケーションの機会が増えることで、教育につながればという願いが込められています。
―――――――――小山さんは、インスタグラムのリクルートアカウントで若者に向けてメッセージを発信するなど、 人材育成や教育をテーマにした活動もされています。若いパティシエの成長に必要なものはなんだと考えますか。
本気でめざす人だけが頑張ればいい世界
プロデューサー的な視点を持つことと、もうひとつは「努力」ですね。やはり一流になる、店を成功させるには努力しかない。とびきりおいしいものや心地よい空間は、「普通」では生まれません。現実的にこの世界で成功できる人は少数です。特に日本はサービス業に対する要求が世界一厳しい国です。菓子職人はヨーロッパでは最高職人で、努力をして技術を磨いて極めた人だけが認められる世界です。逆に言えば、そこを本気でめざす人だけが頑張ればいい世界なんです。厳しいようですが、それが「手に職をつける」ということだと思います。
でも、そういうことを伝えるメッセージが今の日本に少ないのは残念なことです。エスコヤマのインスタグラムのリクルートアカウントでは、これから社会に出る若い人に向けてメッセージを投稿しています。その内容は、働く人や菓子職人をめざす人へのメッセージや、日々スタッフとの間で起こったミス敗の分析などです。その時に感じたリアルな内容になっているので、ぜひ学生さんたちに見てほしいですね。
―――――――――小山さんご自身は、パティシエとして世界的な受賞歴も多くありながら、 プロデューサーやコンサルとして人気ブランドを次々と成功させていますが、そのような力はどのように培ったのですか。
子どもの時からの能力を全て切らずに使いこなせ
すべて自分の中から湧き上がってくるものです。子どもの頃からの経験が源になっていて、「ブリコラージュ(よせ集めの能力)」というらしいです。それは、お菓子作りに限った経験ではなく、何かに熱中した熱量の寄せ集めという意味。
私のお菓子に向ける熱量は、昆虫好きから始まっています。図鑑で見た昆虫の形や、それらが木に止まっているのを見つけた時の驚きやワクワク感。それが今、役に立っています。誰でも自分の中に子ども時代から培った何かがあるはずです。熱中していたものは何なのか、好きだったものは何なのか。すべては自分の中にあります。野球に熱中していたならそこから何を学んだのか。自己分析してみて、その熱量を寄せ集めてみるといいと思います。
―――――――――最後に、将来エスコヤマで働きたいと考えているパティシエ志望の学生にメッセージをお願いします。
まずは考えよう。自分ならどうする?自分ならどう動く?
当社の入社試験は、毎年採用チームがいろいろ工夫を凝らしています。例えば、採用担当のスタッフと一緒に散歩をしたり、スポーツをしたり、お菓子作りをしたり。通常の面接ではわからない部分を知るためのものですね。現時時点の製菓技術よりも、その人自身をきちんと見た上で採用を行う方針です。エスコヤマに限らず、就職活動中の人は、なぜ自分がその会社を選んだのかをもう一度分析してみましょう。会社の成り立ちを理解し分析して、自分の中に取り込む。その上で考え抜けば、理由はもっと出てくるはず。その答えを導くプロセスが大事です。表現できるのは、自分で導き出したものだけです。人に答えを聞いたことは表現できない。
入社したら、「人を巻き込む力」が鍵になってくる。そのために何が必要か。技術はもちろん、知識、勉強に力を注ぐエネルギー、声も大きい方がいいでしょう。みんな技術が一番大事だと思っているけれど、技術は一部です。「人に関心を持とう」という話はしたけれど、自分自身についても関心を持って分析してみてほしい。人は、得意技が70%、これからの勉強する領域が20%、苦手が10%というのがいいバランス。それを基準にしたら、今自分はこれからどこを努力しなければならないのかを考える。得意なこととこれからの領域がトータルで90%あるなら、苦手なことは人がやってくれるけれど、苦手なことが70%占めていたら厳しい。入社1年目でも、自分がひとりのパートさんのリーダーだとしたら、その人からみていいバランスの先輩になっているかを考える。いいバランスをめざして、キープするように努力をし続けること。
エスコヤマの世界観は、「超一流」のヒト・モノ・コトが集まって創り上げるものだと考えていて、もちろんまだまだなところもありますが、全員がそこを目指して日々頑張っています。敷地内には一流の方が手掛けて下さった建物や造形物もありますし、スタッフは自分さえその気になれば、学べる材料は無限にあります。
店だけでなく街全体も見てほしい。私は、三田を自然の中の食の都にして、心地いい風に当たりながら緑を見て食を楽しんでもらえるような街にしたいと思っています。ぜひ、そんな世界観の中で、一緒に働きましょう。