酔虎寿しについて
福岡市博多区・中洲に店を構える酔虎寿し。
カウンター越しに職人と来店客が向き合うスタイルを基本とした店内には、会社帰りのビジネスパーソンだけでなく、ファミリー層や、佐賀・唐津に店舗を構えていた時代からの常連客も多数来店するなど、一見『高級寿司店』ではあるもののアットホームな雰囲気に包まれている。
同店の寿司の特徴は、なんといっても扱う魚がすべて天然魚であること。
この道約50年の大将の水鳥川(ミドリカワ)氏が3時半起きで直接市場に足を運び、自ら選び、長年培ってきた技をフルに駆使して提供する寿司は、来店客からも「ここでしか味わえない!」と高評価を得ている。
そんな水鳥川氏のこだわりの原点は?そして若手に伝えたいこと、伝承したい技術についてお聞きしました。
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すべてはお客様の『おいしい!』の一言のために。
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【寿司は“季節を握る”もの】
寿司職人を目指した当初から一貫しているのは、お客様に「おいしい!」と言わせたい…ただそれだけです。
寿司というのは、一言で表現すれば「白飯と魚」といった単純なもの。これをいかに美味しいものに仕上げていくのか…それが職人の技であり、単なる白飯と魚を「季節を握る」寿司に仕上げ、お客様に季節を感じていただくことこそが、寿司職人の仕事です。
そのために、毎朝市場に出向いては実際に見て、そして時には食べてみて、納得したもののみを購入。季節を感じていただくためにも、養殖魚ではなく天然魚しか購入しません。
【店で使う魚は、店以外の人には触らせない】
仕入れる魚は、鮮魚店が下処理したものや既にサクになっているものではなく、活けの状態で仕入れるのも私のこだわり。店内で鱗取りから行って捌き、丁寧な下ごしらえを施し、口に運んだ時の「ネタと米の融合」までを考慮して握り、お客様に提供。50年近く寿司職人として続けてくることができたのは、このこだわりがお客様に伝わっているんだろうな、と思ってます。
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魚にも米にも触れて学ぶのが、成長への一番の近道。
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【同じマグロの種類でも味が異なるワケ】
例えばひとことで「マグロ」といっても、クロマグロもあればインドマグロ…と種類があるだけではなく、水揚げされた地域や、そのマグロがどの海で泳ぎ、どんなものを主食にしていたかにより、味や食感も異なってきます。つまり一匹たりとも同じマグロはありません。私自身、7年ほど東京・築地になんども通い、築地で三本指に入るマグロ卸売業者から、世界中のマグロについて色々教えてもらい、自分の店でお出しする“理想のマグロの味”を確立してきました。
そんな長年かけて培ってきた知識を伝えていくためには、実際に魚を見て、触って、舌で味わってもらうことが、若手の成長には一番の近道だと思っています。鱗かき一つをとっても、魚によって鱗の並びは異なるので、実際に手を動かさないと覚えられません。「この季節、この魚の腹には白子が詰まっている」というのも、捌いて実感することが何よりの学びになります。だからこそ、一年目から実際に魚に触れ、経験を積んでもらうことにしています。
【舌を鍛えるのも重要!】
また、お客様に「おいしい」と思っていただくには、自分自身も「おいしいもの」を知る必要がありますから、お客様にお出しする前に、できるだけ実際に食べてもらい、旬の天然魚ならではの味や食感の違いを、舌でも実感してもらいながら、教えるようにしています。ただ頭で覚えることよりも、実際に食べて違いを実感した方が、理解も深まりますし、お客様に品出しをする際にも体験に基づいたご説明ができます。説明できれば、自分の中の知識として頭にも残っていくので成長スピードはより早くなるのではないでしょうか。
まさに、魚そのもの形の状態から、料理として味わう…1~10までに触れて理解することが、板前の第一歩だと思っています。
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“基礎”を“本物”に。ゼロから学びに来てほしい。
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【職人への道は、基礎が重要】
例えばシャリの握り方の基本には「小手返し」「本手返し」「縦返し」の三つがあります。専門学校で和食を学んだ方であれば、ご存じでしょう。けれどこれはあくまでも、基礎中の基礎。
寿司というものは、口に運んだ際にネタとシャリがいかに早く口の中で一体感を持ち、味わえるかが重要です。板前の手の大きさや指の長さ、力加減によって同じ握り方をしても味わいは異なりますし、またお客様のお口の大きさなどによっても異なってきます。つまり場面に応じて、調整できるのが職人技のひとつ。
また魚を捌く際にも、同じ種類の魚であっても全く同じものはひとつとしてありませんので、包丁の使い方・持ち方も状況に応じて臨機応変に変えていく必要もあります。
基礎を積み重ねてこそ、本物の“技”が身に付くもの。一年目から天然魚に触れるなど、下働きだけではなく様々な経験を積んでもらうのも、この基礎の積み重ねのためなのです。
【10年は修得にかかる技術をいかに短く自分のものにできるか】
多くの人に認められる職人となるには、10年はかかると言われています。海に囲まれた日本では様々な天然魚が手に入るためそれらを理解するだけでも時間がかかり、味付けや下処理方法によって味わい方も異なります。
私自身も、独立するまでに10年ほどかかり、その後も常に勉強の毎日です。でも学ぶことで、お客様に喜びや感動を与えることができたり、小さかった子供さんが大人になって「本当の寿司のおいしさを教えたくて」と家族を連れて来てくれたら、これこそ寿司職人冥利につきると思います。
そんな技術をできるだけ早く修得してもらいたいから、新入社員にも時には厳しいことを言うかもしれませんが、私を驚かせるような頑張りを見せてくれる人に、お会いできたらうれしいですね。
