ウイルス対策とは何が違う? IT業界の注目トレンド「デジタル免疫システム」とは
2022年10月17日、米国に本拠を置くITアドバイザリ企業・ガートナーは、2023年の戦略的テクノロジーのトップトレンドを発表しました。本稿で取り上げるのは、その中のひとつである「デジタル免疫システム」です。免疫とは言葉の通り、私たちの体にも備わっている免疫機能を指しています。デジタルなのに免疫が関係するとは、いったいどういうことなのでしょうか?
キャリアマップ編集部 文/ライター 西村友香理
「免疫」に注目? 新たなデジタルシステムとは
パンデミックを引き起こし、世界を混乱に陥れた新型コロナウイルス感染症。2023年5月7日より感染症法の位置付けが5類感染症へと見直されたこともあり、少しずつコロナ禍前のような生活を送れるようになってきました。完全に元の生活が戻ってくるわけではありませんが、それは悪いことばかりではなく、良い方向に変わったものもあります。変化の一つとして挙げられるのは「免疫に対する意識」です。テレビ番組では免疫力を高めるための特集が多く組まれるなど、健康への意識が高まっています。
国民が免疫を意識するようになった中で、新型コロナウイルス感染症とは関係ないものの、ITの世界でも「免疫」に注目が集まっているのはご存知でしょうか。
今回紹介するデジタル免疫システムは、システムの適応力を最適化する仕組みです。私たちの体には免疫機能が備わっており、細菌やウイルスといった病原体の侵入を防いだり、排除したりできるようになっています。また、一度感染した病原体は記憶されるため、再感染した際には速やかに対応することもできます。そういった免疫機能の仕組みをデジタルに応用した概念が、デジタル免疫システムなのです。
単なるウイルス対策ではなく、外部からの侵入やウイルス感染といったトラブル発生時の影響を低減し、早期解決を目指すとともにシステムの耐久性を向上します。私たちの体の免疫機能がさまざまな細胞から成り立っているのと同じように、単体ではなく複数の要素から構築されるのも特徴です。
デジタル化の遅れ、人材不足など…デジタルの課題解決に役立つ存在
デジタル免疫システムがなぜ重要なトピックスだと言われているのか。その背景にはさまざまな要素がありますが、ひとつ挙げるとするとデジタルの浸透も関係しています。
スマートフォンの登場により、私たちの生活とデジタルは切っても切り離せないほど密接に関わるものとなりました。経済が成長していく上でデジタルは欠かせない要素であり、デジタル化の流れは世界的に加速していくことが予測されます。
しかし残念ながら、日本は「デジタル後進国」だと揶揄されるほど、デジタル化が遅れている国です。2018年に経済産業省が発表したDXレポートには、現状の既存システムの問題を解決できなければ、2025年以降に最大12兆円の経済損失が生じる可能性があるとも書かれています。
出典:「DXレポート」(経済産業省)
国としては数年前からデジタル化を推進しており、中小企業向けの助成金や補助金も用意されていますが、レガシーなシステムからの脱却は簡単に実現できるものではありません。IT人材が不足していることを踏まえると、そのハードルはより高くなっているとも言えます。
そういった問題への対応策として注目されているのが、デジタル免疫システムです。
デジタル免疫システムを取り入れることで、工数を削減して人手不足の問題を解消し、システムのセキュリティを強化するとともに安定的な稼働も実現できます。ちなみに、ガートナーは「2025年までに、デジタル免疫システムに投資する組織では、ダウンタイムを80%削減し、これによって顧客満足度を高めることができるようになる」と予想しています。(引用:ガートナー「デジタル免疫システムとは何か?」)
デジタル免疫システムを取り入れることで、工数を削減して人手不足の問題を解消し、システムのセキュリティを強化するとともに安定的な稼働も実現できます。ちなみに、ガートナーは「2025年までに、デジタル免疫システムに投資する組織では、ダウンタイムを80%削減し、これによって顧客満足度を高めることができるようになる」と予想しています。(引用:ガートナー「デジタル免疫システムとは何か?」)
つまり、システムのトラブル改修にかかる時間を削減することで、顧客体験を損なうリスクを低減して顧客満足度を高めることが可能となり、結果として売り上げ向上が期待できるとされているのです。
デジタル免疫システムを構成するための6つの要素
ここからは、デジタル免疫システムを高めるために必要とされる要素について紹介します。
■オブザーバビリティ
オブザーバビリティを英語で書くと「Observability」。これは「Observe(観察する)」と「Ability(能力)」を組み合わせた造語で「可観測性」を意味します。
異常検知をベースとするモニタリングに対し、エンドユーザーの体験も含めてアプリケーションやシステムの状態を観測できるのが特徴の一つ。下記三つの要素で構成されています。
・メトリクス:CPU使用率などの数値データで課題を特定
・トレース:各サービスで発生した処理の経路や時間を把握し、課題の発生ポイントを特定
・ログ:データ履歴や情報の記録を活用して課題の発生原因を特定
■AI拡張型テスト
ソフトウェアのテストにおいて、人の手を動かさずAIによって自動テストを実行すること。テストの計画や作成、保守、分析といった一連の流れも自動化することが理想とされています。
■カオス・エンジニアリング
稼働中の本番システムに意図的な障害を発生させることで、障害に耐えられるシステムを設計するテスト手法です。Netflixが考案したことで知られており、米国では一般的な手法になっています。日本ではまだ少数であるものの、複数の有名企業が実践していると公言しています。
Netflixではカオス・エンジニアリングのためのツールとして「Chaos Monkey(カオスモンキー)」というOSS(オープンソース・ソフトウェア)を開発しています。興味のある方は、ぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。
■自動修復
その名の通り、何らかのトラブルが発生した際に自動で修復できるようにする仕組みを構築すること。緊急性の高いトラブルに対しても人が介入することなく対応できることを目指します。先に紹介したオブザーバビリティとカオス・エンジニアリングを組み合わせると、問題を未然に防ぐことができます。
■サイト・リライアビリティ・エンジニアリング(SRE)
Web系の事業会社ではSREという職種名で求人を出しているケースも増えてきたため、単語を目にしたことがある人もいるかもしれません。これはGoogleが提唱したシステム運用の方法論で、システムの信頼性を高めることを目的としています。
SREとして働く場合、開発チームと運用チームの連携をサポートするとともに、ツールの導入などを通して自動化を推進することで開発生産性の向上に貢献することが求められることが多いとされています。(※職種名が同じであっても、企業によって担当する領域が異なるので注意が必要です)
■ソフトウェア・サプライチェーン・セキュリティ
ソフトウェア・サプライチェーンとは、ソフトウェア開発のライフサイクルに関わる全てのものを意味しています。ソフトウェアにはさまざまな技術やツールが導入されており、それらが密接に関わっているため、そのうちのどれか一つにトラブルが発生しただけでも影響する範囲が広くなってしまうのです。
そういった点を利用したサプライチェーン型のサイバー攻撃が増加しているため、ソフトウェアを構成する要素を一覧表にしたソフトウェア部品表(SBOM)などを活用し、ソフトウェア・サプライチェーン・セキュリティのリスクを低減することが求められています。
技術的なトレンドを取り入れている企業をチェックしよう
前述の通り、デジタル免疫システムには「顧客満足度の向上」「セキュリティリスクの低減」「自動化による人手不足の解消」といったメリットがあります。特に顧客満足度の向上は、事業の売上向上に直結するものです。ビジネスに大きな影響をもたらす要素であるため、エンジニアのみならず、デジタルを活用している全てのビジネスパーソンに関係があると言っても過言ではないでしょう。
学生のみなさんにとっても、就職先を選ぶ上で重要な指標となる可能性があります。
トレンドは日々変わっており、組織のフェーズなどによっても適切な対策が異なるため「デジタル免疫システムを取り入れているかどうか」だけを指標とすることはできません。しかし、積極的に技術投資をする文化があるのかどうか、判断をする際の一つの指標としては役立つはず。日頃からトレンドにアンテナを張っている企業であれば、広報の一環として技術的なトレンドについて情報発信している可能性もあります。気になっている企業があるのであれば、テックブログや社員のSNSでの発信内容をこまめにチェックしてみてはいかがでしょうか。
トレンドは日々変わっており、組織のフェーズなどによっても適切な対策が異なるため「デジタル免疫システムを取り入れているかどうか」だけを指標とすることはできません。しかし、積極的に技術投資をする文化があるのかどうか、判断をする際の一つの指標としては役立つはず。日頃からトレンドにアンテナを張っている企業であれば、広報の一環として技術的なトレンドについて情報発信している可能性もあります。気になっている企業があるのであれば、テックブログや社員のSNSでの発信内容をこまめにチェックしてみてはいかがでしょうか。