キャッシュレス決済やオンライン診療サービスなど、私たちの身の回りには、テクノロジーを活用したサービスがたくさんあります。これらのサービスは「X-Tech」と呼ばれるものの一部で、前者は「FinTech」、後者は「HealthTech」に分類されます。
現在は20種類以上ものX-Techがあるといわれており、その数は今後も増えていくと言われているのです。今回はX-Techの概要とともに、代表的なものをいくつかご紹介します。
キャリアマップ編集部 文/ライター 西村友香理
テクノロジーで実現する新しい価値創出「X-Tech」とは?
既存のサービスとAIやIoTといった最先端テクノロジーを組み合わせて誕生した新しい仕組みやビジネスを総じてX-Tech(クロステック※)といいます。
ひと言でX-Techといっても、金融×テクノロジーの「FinTech(フィンテック)」や教育×テクノロジーの「EdTech(エドテック)」、農業×テクノロジーの「AgriTech(アグリテック)」など、その内容は多岐にわたります。
学生の皆さんのなかには関係のない話と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、私たちの生活にはX-Techに関連するサービスが数多くあふれています。身近なサービスで例を挙げると、街中でもよく見かけるようになったキャッシュレス決済は、FinTechの一例です。また新たな資金調達の方法としても注目されているクラウドファンディングもFinTechのひとつです。
ちなみに、X-Techと似ているものとして「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉もありますが、両者は異なる意味を持っており、DXはデジタルを活用して既存ビジネスをより良いサービスや仕組みに変えていく取り組みを意味しています。
X-Techにはどのような意味があるのかというと、総務省の情報通信白書によると「『X-Tech』とは、『産業や業種を超えて、テクノロジーを活用したソリューションを提供することで、新しい価値や仕組を提供する動き』と捉えることができる」と定義されています。(引用:総務省 平成30年版 情報通信白書)
つまり、DXが進んだことによって生まれたもの、もしくはDXを実現するためのサービスやビジネスがX-Techだといえるのです。
※……「エックステック」と読まれることもありますが、本稿ではクロステックとしています。
知っておきたい「X-Tech」5選
ここからは、数あるX-Techのなかからいくつかピックアップして、その内容を紹介していきます。
■Finance(金融)× Technology = FinTech(フィンテック)
先ほども紹介したように、金融とテクノロジーを掛け合わせたものを意味します。サービスとしては、キャッシュレス決済やクラウドファンディング、仮想通貨などが挙げられます。
キャッシュレスやクレジットカード決済は、現金と比べて人との接触を減らすことができるため、コロナ禍で注目を浴びました。最近は、各国で脱炭素社会の実現を目指す取り組みが進められていることもあり、FinTech(フィンテック)を通して「環境保護への貢献」をサポートするGreen Fintech(グリーン・フィンテック)にも期待が寄せられています。
■Education(教育)× Technology = EdTech(エドテック)
テクノロジーを活用して教育を支援する取り組みやサービスのことを、EdTech(エドテック)と呼びます。日本では、2012年頃から普及し始めたと言われており、代表的なものとしては同年に株式リクルートがオンライン学習サービス「スタディサプリ」をスタートしています。
FinTechと同様に、EdTechもコロナ禍で注目を集めた分野のひとつであるのも特徴です。全国の小中学校で「1人1台端末」と「高速ネットワーク環境」を整備するGIGAスクール構想が前倒しで進んだこともあり、教育現場ではEdTechの導入が加速しています。最近ではタブレット端末を持ち、教室を移動する児童たちの姿も見かけられるようになりました。
■Agriculture(農業)× Technology = AgriTech(アグリテック)
AIやドローンなどを活用して、人手不足や後継不足など、農業にまつわる課題解決を目指すものです。これまで“人の勘”に頼っていた部分をデータで判断できるように可視化したり、負担のかかる収穫作業をロボットが代わりに行ったりする技術が開発されています。
新しい食品や調理法を開発するFoodTech(フードテック)とともに市場規模が右肩上がりで成長しており、農林水産省もロボットやAI、IoTなどを活用した「スマート農業」を推進していることから、さらなる発展が期待されている分野です。
■Legal(法律に関することを意味する単語)× Technology = LegalTech(リーガルテック)
法律に関連する業務のサポートをするサービスやビジネスのことをLegalTech(リーガルテック)と呼びます。日本でLegalTechの先駆け的な存在といえば、法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」でしょう。現在はデジタルでやり取りを完結できる電子契約やAIによって契約書のレビューをサポートするツールなど、サービスの多様化が進んでいます。
ちなみに、AI契約書レビューサービスについては違法の可能性があると指摘されていましたが、2023年8月に法務省が違法にならないためのガイドラインを公表しました。これにより、LegalTech領域はより盛り上がっていくことが期待されます。
■Health(健康)× Technology =HealthTech(ヘルステック)
医療分野の課題解決を目指すサービスや取り組みのこと。少子高齢社会となった日本において、医療費の増加や医療従事者の不足は深刻な社会問題となっています。そうした問題を解決するべく期待されているのが、HealthTech(ヘルステック)です。
医療現場の負担を軽減するものや健康寿命の延伸をサポートするものまで、サービスの内容はさまざまです。日頃の生活で利用する機会のあるものとしては、健康管理アプリやオンライン診療サービスが当てはまります。
「X-Tech」の多様化が進んだ理由とは?
では、なぜここまで多様なX-Techが誕生したのでしょうか。その背景には、テクノロジーの進化が関係しています。
自社内でサーバーやシステムを構築しなくてはいけないオンプレミスが一般的だった時代と比べて、クラウドサービスが主流となりつつある現在は、サービス開発のハードルが大きく下がっています。なぜなら、クラウドサービスを利用すれば、サービス開発における初期投資や運用投資を大きく下げることができるからです。このことにより、規模の小さな企業であっても、ビジネスにITを取り入れやすくなりました。
またスマートフォンやタブレット端末の普及によって企業側が顧客のデータを収集しやすくなりました。それに加えて、AI技術が発達して複雑なデータを処理できるようになってきたため、さまざまな分野でデータの利活用が進められています。
これまで人力に頼らざるをえなかった業務をデジタルに置き換えることも可能となりました。その結果、人手不足や資金面などの複合的な課題により存続が危ぶまれている業界の持続可能性を高めることもできるでしょう。
そのほか「物流の2024年問題(※1)」や「2025年問題(※2)」のような社会問題を解決するべく、多くの企業が日々ソリューション開発に取り組んでいます。このように企業や開発者の働きによって新たなX-Techが誕生し、新たな産業が発展しており、今後この動きはさらに加速していくでしょう。
※1……働き方改革関連法によりトラックドライバーの労働時間が短くなることで発生する問題の総称。
例:物流企業の利益が減る、荷物が届かなくなる など
※2……戦後のベビーブーム世代(1947~1949年頃に生まれた世代)が75歳以上となることで人口構造が変化し起こる問題の総称。
例:労働人口の減少、社会保障費の急増 など
気になる業界の動向をチェックしておこう
FinTechからGreen Fintechが生まれたように、あるひとつのX-Techから派生して新たなテクノロジーが誕生しています。例えば、保険業界の課題解決や新しい保険サービスを生み出す「InsurTech(インシュアテック)や、資産や投資の増加・管理に関連するサービスを提供する「WealthTech(ウェルステック)」などは、すべてFinTechから派生したものです。
社会情勢やテクノロジーの進化に伴い、業界の動向は常に進化し変わり続けています。ご紹介したもののなかで、気になるものがある方は、その業界で活躍している企業の情報をチェックしてみてはいかがでしょうか。またFinTechやLegalTechなどは、法改正などがあった際に大きく影響を受ける領域です。そういった業界を目指す方は、学生時代から法律に関するニュースや情報をこまめに確認するクセをつけておくことをおすすめします。今すぐ役立たないことも、いずれどこかで学んで良かったと思えることも。興味のあることは損得に関係なく、追求してみてください。