AI(人工知能)は、話題を集める随分前から研究開発が進められ、さまざまな形で私たちの暮らしや仕事に役立ってきました。ところが、AIの活用方法が生成AIの登場によって、これまでと大きく変わる可能性が高まっています。生成AIの中でもChatGPTに代表される文章生成AIは、私たちのコミュニケーションの基本である言葉を紡ぎ出します。日本語を入力すると、日本語でさまざまな回答を作ってくれる様子は、まさにAIとの対話のようです。生成AIの基礎から、用途や注意点まで、いま知っておきたいポイントを押さえておきましょう。
キャリアマップ編集部 文/ITジャーナリスト・ライター 岩元直久
認識や分析から生成のステージに入ったAI
テクノロジーの関連ニュースをチェックしていると、生成AIに関する話題が最近増えています。学生の皆さんの中でも、すでに生成AIを活用している人も少なくないかもしれません。一方で、「よく耳にするけれど、詳しくは知らない」という人もいるでしょう。今回はいま話題の中心にある生成AIについて取り上げていきます。
生成AIは、英文ではGenerative AIと記載され、コンテンツを生み出す機能を備えたAIのことを指します。AIは、人工知能なので、何でもできそうな気がするのですが、そんなことはありません。チェスや囲碁などのゲームに特化したAIは、あくまでもゲーム専用のAIです。一方でこれまで実用化されてきた多くのAIは、認識や分析などで優れた能力を発揮してきました。画像認識や音声認識を素早く的確にこなすAIや、多くの情報を元に今後の機器の故障を予見するようなAIです。ところが、最近の話題の中心にある生成AIは、認識や分析から答えを導き出すAIとは異なり、画像や文章などを作り出すことができるのです。これまでのAIの使い方と大きく変わることが感じ取れるでしょう。
生成AIの中にも、いくつかのジャンルがあります。その1つが画像生成AIです。2022年ごろから急速に話題に上るようになりました。既に「Midjourney」「Stable Diffusion」といった画像生成AIの名前は目にしたことがあるかもしれません。「プロンプト」と呼ぶ指示書きを入力するだけで、写真や精細なイラスト、アニメ風など、多彩な画像を作成してくれるため、大きなブームを巻き起こしました。最近ではMicrosoftの「Image Creator」のようにブラウザー上で日本語のプロンプトで手軽に使えるサービスも登場しています。
▼画像生成AIで画像を作った例。MicrosoftのImage Creatorに「トランペットを吹く日本人の高校生」と入力して作画した1つの結果
そうした中で、2022年11月に、米国の人工知能研究団体であるOpen AIが「ChatGPT」をリリースしました。こちらは文章生成AIと呼ぶジャンルのAIで、テキストベースのコンテンツを生成します。技術的には、大量のテキストデータを学習したモデルを使って文章を生成する大規模言語モデル(LLM)を用いています。ChatGPTは、GPTと呼ぶLLMを使って、人間と対話式でコミュニケーションするチャット形式のアプリケーションに仕立てています。
LINEのトークやチャットアプリなどと同じく、ChatGPTに質問や依頼を話すような言葉使いで文字入力すると、それに対して回答を返してくれます。回答はなめらかな言葉づかいで、まるで人間と対話しているように情報を提供したり、文章を作ったりしてくれるのです。人気が出るのも当然で、2カ月ほどで全世界の1億ユーザーが利用したと言われています。学生の中では宿題やレポートの問題を入力してChatGPTに答えさせてみるような使い方が世界ですぐに広まり、物議を醸し出しました。
幅広いシーンで活用が広がり、開発競争も進む
生成AIの中でも、ChatGPTの登場による文章生成AIの広がりは、多方面への影響を与えそうです。2022年から話題の画像生成AIが画期的だといっても、影響は一部のクリエイティブな仕事やホビーの分野に限られます。一方で、文章生成AIは「テキストによる対話」という人間のコミュニケーションの1つの方法に大きく関わります。生活でも仕事でも言葉を介してやり取りしますし、文章を作成するシーンもとても多くあります。ChatGPTをはじめとした文章生成AIが注目されるのは、幅広いシーンでの活用が期待されるからです。
ChatGPTを例に、どのような使い方ができるかを少し見ていきましょう。ChatGPTは、チャット形式のアプリケーションなので、私たちが何かを入力すると、それに対して対応する答えを返してきます。さらに同じ話題で詳しく聞いてみたり、言い方を変えてもらったりすることもできます。まるで文章を作るアシスタントがついたように使えるのです。
用途の1つは、「質問」です。科学技術はもちろん、経済や文化芸術、スポーツなど、知りたいことを尋ねればChatGPTが回答してくれます。使い方の良し悪しは別として、学校の課題などもChatGPTに聞いてみることで、答えの方向性が見えてくることは大いにあるはずです。こうした「答えがある」ものだけでなく、「アイデアの創出」にも使えます。文化祭の出し物の相談でも、仕事のプロジェクトの案でも、状況を説明して入力すればアイデアを出してくれます。もっと創造的なものとしては、ストーリーや詩などの生成もあります。登場人物と設定を入力して「小説を作って」とお願いすれば、新しいストーリーが生み出されます。パソコンソフトの使い方がわからなくなったら尋ねればいいですし、プログラムの作成も手助けしてくれます。幅広い使い方ができることを感じていただけるでしょうか。
▼ChatGPTに、「専門学校の学生がChatGPTを利用するメリットとデメリット」を整理してもらった
このように活用の幅が広い文章生成AIは、ChatGPTだけでなく他社からもさまざまなモデルやサービスの開発がアナウンスされています。Googleは自社開発のAIパートナー「Bard」を試験運用中です。日本語にも対応して試せるようになっています。文章生成AIのエンジンであるLLMは海外製が多い中で、日本語に最適化した日本製のLLMも開発が進んでいます。2023年7月にはNECが日本語を中心に学習した高性能LLMの開発を発表していますし、NTTやソフトバンクも生成AIの開発を進めています。近い将来、より日本語に堪能で、日本のビジネス環境や文化に即した回答をする生成AIももうすぐ利用できるようになりそうです。
きれいな文章を作成する一方、フェイクを生成するリスクも
ChatGPTなどの文章生成AIは、LLMというモデルを使って文章を作成していることをお伝えしました。このAIは大量のテキストを学習しており、その情報の中から確からしい文章を作ることで正しい答えが得られることが多いわけです。英語はもちろん、日本語であっても自然な言葉での回答が得られるのは、こうした大量のテキストの学習によるのです。
しかし文章生成AIは、物事の本質を知っているかというとそうではありません。例えば2023年7月時点に無料で使えるChatGPTが利用しているモデル(GPT-3.5)では2021年9月までのテキストをデータとして学習しています。それよりも新しいことは、ChatGPTは知らない可能性があります。日本の小さな町の出来事や、私たちの学校の細かいことなども知らないかもしれません。それでも、ChatGPTに何かを尋ねると、「よく知ったことのようにきれいな文章で回答してくれる」のです。相手は、「文章生成AI」であり、何でも知っている万能のコンピューターではないということを理解して向き合うことはとても大切です。つまり、ChatGPTに聞いたことがフェイクだったというようなリスクもあるわけです。
生成AIは登場したばかりの技術です。どのように使うと良いか、どんなところに問題があるかは、まだまだ議論や検証をしていかなければなりません。例えばChatGPTを見ても、利用を禁止する組織や企業は少なくありません。一方で、業務に積極的に取り込むことを表明している組織や企業も多くあります。
ChatGPTは、アカウントさえ取得すれば、誰でもすぐにパソコンやスマホから利用できます。ITを学ぶ皆さんはもちろん、違う分野を専門にする学生さんも含めて、まずはChatGPT、生成AIと付き合いを始めてみてください。自分の専門の分野の質問をしてみると、とても正確に答えてくれるケースや、最新情報を知らなかったり、文章はよくても内容が怪しかったりするような多くのケースに出会うでしょう。
文部科学省は2023年7月に小中高校での生成AIの扱い方に対する指針を公表しました。そこには、リスクを考慮しながら、限定的な利用から始めることが適切だとあります。
学びの場でも有効な活用の仕方を考えながら、実際に使っていくスタンスです。小中学校でも利用を始めるのですから、専門の学習をしている皆さんは、さらに「こんなところに上手く使える」「こう使うと問題がある」といったことを自分で体験しておくことが重要です。
利用を阻止する動きもあるでしょうが、生成AIは間違いなくどんどん生活や社会に入り込んできます。まずは自分たち自身が体験して、メリットやデメリットを知った上で上手に生成AIと付き合えるようになっておくことが、今後の生活や仕事で生成AIを使いこなす基礎になります。そして、毎日のように新しいニュースが飛び込んでくる生成AIについて、アンテナを伸ばして感度を高めておくことも、今後の皆さんの糧になるはずです。