太陽光や水素など自然環境に負荷の少ないエネルギーを使って、環境負荷を軽減する。未来の私たちの暮らしや地球のことを考えると、地球温暖化などによる環境への影響を最小限に抑える取り組みが重要なことだと感じている人は多いでしょう。そうした状況下で、最近は「GX (グリーントランスフォーメーション)」という言葉が使われるようになりました。日本政府も「GX基本構想」といった形で取り組みを進めています。今回は、まだ少し耳慣れないGXについて、その基礎から ご紹介します。
キャリアマップ編集部 文/ITジャーナリスト・ライター 岩元直久
キャリアマップ編集部 文/ITジャーナリスト・ライター 岩元直久
たくさん目にする○X。だけど 「GX」は知っている?
いろいろなところで「○X」という略称を目にします。CXならカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)、DXならデジタルトランスフォーメーション(デジタル改革)の略ということは、ご存じかもしれません。EXだと、普通に「example:例」を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、FXという略称でよく見る機会があるのは、外国為替証拠金取引です。では、「GX」とは何を意味するのでしょう。
答えからいうと、GXは「グリーントランスフォーメーション」です。脱炭素社会を目指して、社会や産業の変革を目指す取り組みのことです。太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスなどから作られるエネルギーをグリーンエネルギー(グリーン電力)と呼びます。再生可能で環境負荷が低いエネルギーのことで、GX はグリーンエネルギーを使う取り組みの1つです。もちろん、単にグリーンエネルギーを使えばいいということではなく、トランスフォーメーション=変革をして、その後に社会や産業が成長することを目指します。将来の私たちの暮らしや仕事の土台にかかわる大きな変革だということをイメージしてもらえたらうれしいです。
温室効果ガスを減らす取り組みの必要性
△温暖化で溶け始める氷河。
メディアなどでよく取り上げられる、地球温暖化対策や二酸化炭素(CO2)排出量削減は皆さんにとって身近なトピックではないでしょうか。将来の社会を支えていく皆さんにとって、無関心ではいられない課題です。これまで社会や産業を支えてきた活動のエネルギー源として、石油や石炭を中心とした化石燃料が多く使われてきました。化石燃料は消費するときにCO2を排出します。このCO2が、いわゆる温室効果ガス(GHG:Green House Gas)の中心的な存在で、地球温暖化の大きな要因と考えられています。
地球温暖化の影響は、既に環境変化にあらわれており、環境省はWebサイトで「氷河の融解や海面水位の変化、洪水や干ばつなどの影響、陸上や海の生態系への影響、食料生産や健康など人間への影響が観測され始めています」と、警鐘を鳴らしています。将来の地球環境を急速に変化させてしまう危険をはらんでいるのです。
地球温暖化の原因となる温室効果ガスの中で最も多くを占めているのがCO2です。これは化石燃料をエネルギー源として、燃焼するなどの形で消費すると多く発生してしまいます。日本では、電力を生み出す多くの火力発電所が化石燃料を燃やしてCO2を排出していますし、工場などはもちろん、自動車や航空機などの運輸からもCO2が出ています。
こうしたエネルギーを太陽光発電や風力発電バイオマス発電、水素の利用などグリーンエネルギーへと転換し、CO2の排出量を減らしていくことが地球温暖化への対策になります。ちなみに日本では2050年までにCO2など温室効果ガスの排出量と吸収量を同じにするカーボンニュートラルを実現することを世界に宣言しています。そのためにも、CO2を排出しないようにする具体的な取り組みが求められているのです。
GXにより持続可能な産業や社会の変革を
「GXと言っても、地球温暖化対策のCO2削減は同じことを格好良く言い換えただけ?」と感じる人もいるかもしれません。そう感じるとすれば、鋭いところをついています。というのも、地球温暖化対策の各種の取り組みは、GXの1つの要素だからです。
例えば、経済産業省のWebマガジンのMETI Journalでは「化石燃料に頼らず、太陽光や水素など自然環境に負荷の少ないエネルギーの活用を進めることで二酸化炭素の排出量を減らそう、ま た 、そうした活動を経済成長の機会にするために世の中全体を変革していこうという取り組みのことを『GX』と言っています」と説明しています。
ここで1つ重要なことは、「世の中全体を変革していこう」という言葉です。CO2の排出を抑える取り組みをその場しのぎ的に実施して、「目標○% 達成」を掲げることをもできます。しかしGXでは、化石燃料に頼らないように、社会や産業の構造を変革することを目指しているのです。
もう1つ着目したいことは、「経済成長の機会にするため」というキーワードです。環境負荷軽減のために何かをすると、お金がかかったりしますよね。皆さんがコンビニで買い物をするときに、以前ならば無料でレジ袋をもらって便利に使っていました。ところが、プラスチックごみの環 境負荷を減らすために、レジ袋が有料化されました。環境には良いけれど、お金の負担がかかります。それに日本のプラスチックごみ全体で見て みると、レジ袋はごく一部と言われています。つまりレジ袋をなくしても、プラスチックごみ問題が解決されるわけではありません。それに、国連環境計画(UNEP)によると、マイバッグは綿製で50回以上、厚手のプラスチック製で10回以上使用しないと、一般的な薄手のプラスチック製レジ袋を1回で使い捨てる場合と比べて、温室効果ガスの排出量が多く、環境負荷が高くなるとのことです 。(注釈※1)
国や企業も、再生可能エネルギーなどを活用しながら、経済成長につなげられるような変革を実現したいわけです。GXには、そうした「経済社会システム全体の変革」という大きな目標があるのです。
※注釈1...UNEPが7つのLCA(ライフサイクルアセスメント)研究をレビューし、政策決定者等に対して提言をまとめた「Single-use plasticbags and their alternatives 」(2020年3月)より引用。本レポートは、従来のプラスチック製レジ袋と、紙袋・リユースバッグ(マイバッグ)・使い捨てバイオマスポリエチレン配合のレジ袋・生分解性プラスチック配合のレジ袋等について比較研究し、使用回数、廃棄処理の手法、環境項目等に応じて、環境上のメリット・デメリットはさまざまであることを指摘している。
日本がデジタル技術で世界をリードするように
△レジ袋を排除するだけではプラスチックごみの問題は解決しない。
GXへの取り組みは、国を挙げて進み始めています。2022年7月から岸田総理大臣を議長としたGX実行会議が開かれ、2023年2月には「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定されました。その中で、「気候変動問題への対応に加え、ロシア連邦によるウクライナ侵略を受け、国民生活及び経済活動の基盤となるエネルギー安定供給を確保するとともに、経済成長を同時に実現する」ことを目標にしています。具体的にはエネルギー安定供給に向けた省エネ脱炭素電源への転換、さらにGXへの投資支援などの金融的な手法も盛り込まれています。
一方で、これまで地球温暖化対策への取り組みでは、特に欧州が先行して国際ルールを作ってきた経緯があります。日本が受け身で国際ルールに従うだけでは、日本が保有する技術力や製品力が国際的に貢献できない可能性があります。こうした状況から、経済産業省は2023年度に産官学が協働してGXに取り組む場として「GXリーグ」を立ち上げる予定です。2023年2月に公表した「GXリーグ基本構想」には、日本を代表する企 業の440社が賛同を表明しています。
日本が持つ多様な技術や匠の技は、デジタルの力で将来の社会の変革につながります。そうしたDXを推進した先には、地球環境を守りながら経済成長を続けるGXの世界が広がります。皆さんは、ITやデジタル、それ以外にも多くのテクノロジーについて学ぶ機会があるでしょう。テクノロ ジーやDXの手法をGXでどうすれば役立てることができるのか道筋を考えておくことは、これからGXの実現が求められる社会の中で、エンジニアとして生き残り、成長していくための1つのカギになるかもしれません。