現代における技術は日進月歩で進化しており、注目度が高いものの一つとして「メタバース」が挙げられます。総務省の発表によると、メタバースは2030年には国内で78兆8,705億円にまで拡大すると言われている成長市場で、メタバース事業を手がけるスタートアップが続々と誕生。中でも株式会社HIKKYは、シリーズAで累計70億円の資金を調達するなど、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けています。
今回は、同社のCOOである喜田龍一さんに「メタバースの面白さ」「メタバース業界で働く人材に必要な素質」についてお伺いしました。
※なお、このインタビューは、2022年12月リリースされた「My Vket(β版)」にて行いました。
キャリアマップ編集部 文/ライター 西村友香理
インタビューを受けてくれたのは……
喜田 龍一さん
株式会社HIKKY COO
京都大学理学部大学院卒。大学時代の専門は量子化学・統計力学。イラストレーター“黒銀”としてもさまざまなアニメ、ゲームタイトルにキャラクター・メカニックデザインなどで関わる。2018年から株式会社HIKKYにジョイン。クリエーティブセンスとロジカルシンキングを両立し、COOとして事業、サービスなどを統括する。
急成長するメタバース業界
──本日はよろしくお願いいたします。はじめに、HIKKYの事業内容について教えていただけますか。
喜田:HIKKY では「バーチャルマーケット」「Vket Cloud」の二つを軸に、メタバースに関する複数の事業を展開しています。
一つ目のバーチャルマーケットは、メタバース上に作られた会場で商品を売買できる世界最大のVRイベントです。アバターやメタバース内で使用できる技術(ギミック)などのアイテムはもちろん、現実世界で使用する洋服や飲食物の購入も可能です。「VRマーケットイベントにおけるブースの最多数」として、ギネス世界記録™にも認定されています。(※1)
2018年から年に2回開催していて、9回目となった「バーチャルマーケット2022 Winter(開催期間:2022年12月3日~18日)」では、国内外から累計100万人以上ものユーザーにご参加いただきました。
▲バーチャルマーケットの様子その1。マリークヮントがワールドジャックを行った時のもの。
▲バーチャルマーケットの様子その2。パラリアルワールド(並行現実の世界)の一つとして作られた札幌では、台の上に乗るとアバターが雪像になる仕掛が施されていた。
二つ目の Vket Cloud は、ひと言で表すと「誰でも簡単に仮想空間を創れるメタバースエンジン」ですね。他社との開発事例はすでに複数あり、今お話している My Vket の空間は、Vket Cloud で開発しました。なお、Vket Cloud は一般公開を目指して開発を進めております。
──それは楽しみです!ちなみに、アバターはご自身で開発されたものですか?
喜田:ええ。私のアバターが着ているこのTシャツは、実世界で着ているものを撮影してシステムに反映させたものなんですよ。このように現実世界とリンクさせるのはもちろん、実際とは全く異なるアバターにするのも面白いですよね。
My Vket ではアバターを作るサービス「Avatar Maker」も提供していますので、興味のある方はぜひ挑戦してみてください。
▲喜田さんのアバター。イラストレーター時代に関わっていたというアニメ『ナイツ&マジック』のグッズTシャツを着用。書かれているのは、アニメ内のキャラのセリフ。
メタバースの面白さは“技術的な難易度の高さ”にあり
──開発者の視点から、メタバースの面白さを教えてください。
喜田:メタバースというと3D空間にフォーカスが当たりがちなのですが、技術的な面では「リアルタイム通信」が大きなポイントです。
──なるほど。具体的にはどういった面白さがあるのですか?
喜田:簡単に言うと「難しいからこそ、面白い」といった感じですね。
メタバースサービスといえば、リアルタイムでのコミュニケーションが特徴の一つであり、システムの遅延はサービス体験を著しく損なうことにつながります。システムを遅延させないためには「どこからでもアクセスできるようにする技術」と「安定的な通信を広い範囲に提供する技術」の二つが必要です。
ただ、リアルタイム通信の技術は非常に難易度が高く、その領域の開発経験者も少ないため、人手不足に陥りがちな領域なんです……。
これだけ聞くと大変な領域だと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、技術的な挑戦が多い分、開発者としては面白さを感じられるはずです。
──3D空間そのものではなく、サービスを提供する裏側の仕組みを作るのも面白そうですね。
喜田:もちろん、3D空間の開発についても面白いポイントはたくさんあります。
ひと口に3D空間と言っても、アニメ風のものからリアルさを追求したもの、絵本の中を再現したようなアーティスティックなものまで、開発会社によってさまざまな空間がありますよね。それらのどれもに共通するのが「どこまでクオリティーを追求するのか」といった問題です。
精緻(せいち)に作り込まれた3D空間は美しいですが、通信の遅延やVR酔い(※2)の原因にもなり得ます。反対に質素すぎる空間では、没入感を得られない可能性も出てきます。サーバとクライアントへの負荷を抑えつつ、リッチな空間・映像に見せるためには、どうすればいいのか。開発者として腕の見せ所ですね。
メタバース業界を目指す上で必要なものは「深堀りするスキル」と「好奇心の強さ」
▲インタビュー中の様子。ユーザーが話すのに合わせて瞬(まばた)きするなど、アバターの表情が変わるのも見どころ。
──メタバース業界を目指すために、学習しておいた方がいい言語や技術はありますか?
喜田:メタバース業界ではUnity(※3)に成熟した開発者が求められている傾向にありますが、Unityだけを習得しても就職で有利にはなるとは言えません。特定の技術を学ぶよりも、エンジニアリングの基礎力を身につけることの方が大切です。
喜田:メタバース業界ではUnity(※3)に成熟した開発者が求められている傾向にありますが、Unityだけを習得しても就職で有利にはなるとは言えません。特定の技術を学ぶよりも、エンジニアリングの基礎力を身につけることの方が大切です。
当社を例に挙げると、Unityに成熟した方ももちろん募集しています。しかし、Unityがなくても開発できる方もまた熱量高く募集しています。というのも、Vket Cloudは独自のゲームエンジンをC++(※4)で開発しているため、既存のゲームエンジンで開発できるというだけでは難しい領域だからです。
また、先ほどお話したようなリアルタイム通信の領域は、MMORPG(※5)の開発に携わっている方が得意とするサーバ技術であり、これもまたUnityによる開発とは異なる部分です。そのため、HIKKYの開発組織には、若くてUnityに精通した方からゲーム会社出身のベテランメンバーまで、さまざまな方が所属しています。
技術トレンドは変化していくものですが、技術における基本的な考え方が変わることはあまりありません。特定の技術やスキルに固執せず、基礎力の向上を目指してみてはいかがでしょうか。
──なるほど。エンジニアリングに関する技術書はたくさん出版されていますし、そういったものを読んでおくのも役に立つのでしょうか。
喜田:技術書にもさまざまな種類があるので、基礎的なものを読んで実践してみるのは良いかもしれません。
ひと言付け加えるとするなら、本を読むだけでなく、さまざまな領域にアンテナを張り巡らせておくことが大切だということです。メタバースに限らず、新しいサービスが出たときには、自分で体験して深堀りする。その過程を楽しめる方は、メタバース業界で活躍する素質があると言えます。
また、将来的にメタバース業界を目指しているのであれば、ゲームなどのメタバースに近しいコンテンツに触れておくこともおすすめします。
メタバース業界で活躍する人材は「不確実性も楽しむエンターテイナー」
──メタバースはこれからどのように発展していくのでしょうか。
喜田:Vket Cloud を含め、VRゴーグルなどがなくとも気軽にアクセスできるメタバース空間はすでに存在しており、一部のユーザーだけが楽しむものではなくなってきました。TwitterやLINEなどのSNSと同等の存在として、多くの人が当たり前のようにメタバース空間へアクセスする未来が、いずれはやってくるはずです。
──社会インフラになっていくということですね。最後に、メタバース業界を目指す学生に向けて、メッセージをお願いします。
喜田:近年はノーコードで開発できるツールも誕生していて、一部では将来的に開発者の需要が減るのではないかという説も出ていますが、その心配は無用です。私個人の意見として、開発者の需要がなくなることはないと予測しています。
メタバース業界に焦点を当てると、確実に成長するとは言い切れない領域であり、先行きが見えない部分があるのも事実です。しかし、私たちはメタバースの可能性を信じていますし、この業界は最高のエンターテインメントを提供できる場所だと自信を持っています。
メタバースサービスを開発する上で大切なことは「人を楽しませたい」という強い想いです。その想いを持ち、エンターテイナーとして開発に携われる方は、きっとやりがいを感じられる業界です。興味があれば、果敢にチャレンジしてほしいです。
※1…2023年2月現在
※2…VRヘッドセットをつけてメタバース体験をしている際に、めまいや吐き気に襲われること
※3…米国のUnity Technologies社が提供するゲームエンジン。スマホゲームやPS4などのゲーム開発でよく使われる言語
※4…プログラミング言語の一つで、ゲーム開発ではメジャーな言語。なお、UnityはC++で作成されている
※5…大規模人数が同時に参加するオンラインゲーム