食の世界で、「聞いたことはあるけど詳しくは知らない」「今さらだけれど実はわからない」という言葉はたくさんあるはず。この連載ではそうした言葉の中から、食のこれからを知るキーワードを説明。今回は「日本の発酵食品」を取り上げます。
vol.4 日本の発酵食品
日本の食文化は、麹菌によって作られたと言っても過言ではない
発酵とは、微生物の働きによって食材を分解させること。その結果、多彩な発酵食品が生まれます。発酵食品は身体にいいことで知られ、「腸活に効果的」というフレーズも多く聞くようになりました。
さてその発酵食品ですが、生まれる工程は以下の通り。
材料の食品 × 微生物の働き = 発酵食品
もちろん、材料や微生物の種類がなんでもよいというわけではありません。人間にとって有用で、おいしい発酵食品が長い食の歴史の中で淘汰されて、今に残っているのです。
日本の代表的発酵食品はもっぱら「大豆や米」×「麹菌」
発酵食品は世界中にあり、それぞれの地域の発酵食品の個性は、とりわけ「微生物」によって形作られます。日本では、その微生物の中でも「麹菌」が、日本を代表する発酵食品である味噌、醤油、酒に使われています。日本の食文化は麹菌によって作られたと言っても過言ではないのです。
味噌、醤油、日本酒の成り立ちを、ごく単純化した式で見てみましょう。(実際には酵母や乳酸菌、酵素も複合的に働きますが、ここでは簡略化します)
◆味噌類
信州味噌(一般的な味噌)
(ゆでた大豆+蒸した米)× 麹菌+塩 = 信州味噌
白味噌(京都などでポピュラーな、白くて甘い味噌)
(ゆでた大豆+蒸した米 ※米の割合が多い)× 麹菌+塩 =白味噌
豆味噌(愛知の八丁味噌など、色も味の濃い味噌)
蒸した大豆 × 麹菌 + 塩 =豆味噌
発酵・熟成にかける時間はそれぞれ違います。一般的に、信州味噌は半年〜1年ほど。白味噌は数週間〜1ヶ月。豆味噌は2〜3年という長期間です。
発酵・熟成にかける時間はそれぞれ違います。一般的に、信州味噌は半年〜1年ほど。白味噌は数週間〜1ヶ月。豆味噌は2〜3年という長期間です。
なお、この発酵の過程で何が起きているかを、ざっくりと見てみましょう。
麹菌には、
・タンパク質をアミノ酸に分解する
・デンプンを糖に分解する
などの働きがあります。
味噌の製造では、麹菌により、大豆のタンパク質がアミノ酸に、米のデンプンが糖に分解されます。アミノ酸や糖は、旨みや甘みの原料です。これが、味噌類のコクや複雑なおいしさにつながっているのです。
◆醤油
味噌の製造では、麹菌により、大豆のタンパク質がアミノ酸に、米のデンプンが糖に分解されます。アミノ酸や糖は、旨みや甘みの原料です。これが、味噌類のコクや複雑なおいしさにつながっているのです。
◆醤油
(蒸した大豆+煎った小麦)× 麹菌+塩水=醤油
発酵・熟成にかかる時間は、およそ半年です。味噌と同様、蒸した大豆のタンパク質がアミノ酸、煎った小麦のデンプンが糖になります。
◆日本酒
◆日本酒
蒸した米 × 麹菌+水や酵母=日本酒
なお上記の式はごく単純化したもので、実際には、米のデンプンが糖になり、糖がさらに酵母などの働きでアルコールや酸味に変わります。
日本酒造りにかかる発酵・熟成期間は、製品によってさまざまですが、およそ2ヶ月が目安となっています。
日本で作られている他の発酵食品
◆乳酸菌の働きによるもの
麹菌を用いる発酵のほか、乳酸菌を用いる「乳酸発酵」(糖分から乳酸が生まれる)もまた、日本ではポピュラーです。日本の乳酸発酵では、野菜が材料となることが多いです。
・糠漬け
・野沢菜漬け
・すぐき漬け
などが例として挙げられます。
また変わり種ですが、魚の鮒(ふな)を乳酸発酵させた「鮒寿司」は、独特の風味を持つ滋賀県の伝統発酵食品です。作り方は以下の通り。
また変わり種ですが、魚の鮒(ふな)を乳酸発酵させた「鮒寿司」は、独特の風味を持つ滋賀県の伝統発酵食品です。作り方は以下の通り。
① さばいた鮒を塩漬けにする
② 水で洗い、一晩干す
③ エラに炊いた米を詰める
④ 樽に詰めて発酵させる(乳酸発酵)
乳製品を乳酸発酵させた製品も、明治以降の日本で開発されるようになりました。
乳製品を乳酸発酵させた製品も、明治以降の日本で開発されるようになりました。
・カルピス、ヤクルトなどの乳酸菌飲料
・ヨーグルト
がそうです。江戸時代以前の日本では乳製品を摂取する習慣がほとんどありませんでした。それゆえ、西洋化がはじまった明治以降にこれらの製品が開発されるようになったのです。
◆納豆菌の働きによるもの
◆納豆菌の働きによるもの
納豆は非常にポピュラーな発酵食品。こちらは蒸した大豆に納豆菌をまぶし、発酵させて作ります。
納豆菌は、微生物の中でも非常に強い力を持ちます。そのため、納豆以外の発酵食品を製造する現場に、その日に納豆を食べた人が訪れることは厳しく避けられています。
◆魚の持つ酵素の働きによるもの
◆魚の持つ酵素の働きによるもの
魚醤は、その名の通り、魚から作る醤油のようなものです。秋田県沖で多く獲れるハタハタを原料にした「しょっつる」が代表例です。
魚醤の作り方を、しょっつるを例に見てみます。
① 内臓ごとぶつ切りにしたハタハタを血抜きする
② たっぷりの塩をまぶす
③ 清潔な瓶に詰め、2〜3年間おく
魚醤造りでは、魚自身が持つ酵素の働きで魚のタンパク質が分解され、それがコクと風味になります。
※魚醤は、酵素の働きで魚が分解されて生まれます。そして酵素は、微生物ではありません(微生物は生き物ですが、酵素は違います)。そのため、「発酵は微生物の働きにより生まれる」という定義から魚醤は外れます。しかし歴史的に魚醤は発酵食品と呼ばれてきたため、ここで紹介させていただきました。
伝統的な発酵食品を食べてみよう!
長い歴史を持つ発酵食品。もともとは保存食として製造がはじまり、ブラッシュアップをくり返して今に至ります。また、味の面でも魅力も強めてきました。
その一方で、この60年間ほどで、日本では食品製造の工業化・大量生産化が進みました。その結果、発酵食品の製造も科学的な研究が進み、伝統製法に比べて速く安定的に製造されるようになりました。これにより便利かつ安価に発酵食品が手に入るようになったと同時に、人工的にアルコールや酵素、酵母、甘味料やアミノ酸を加えた製品も増え、味の面で平坦になるという結果も招いています。
こうして作られ、一般的に販売されている発酵食品も、十分においしいものです。添加物も、法律の範囲内の量のみ使われているので問題ありません。しかし時間をかけ、ゆっくりと味を引き出して作られる伝統製法の発酵食品のおいしさ、健康への効果は格別です。
ぜひ機会があれば、伝統製法の発酵食品も楽しんでみてください。道の駅や自然派食品のスーパーなどで手に入れることができます。