2019 年末に端を発し、翌年ごろから急速に拡大した新型コロナウイルス感染症。日本では緊急事態宣言が発令されて以来、多くの企業が不測の事態のもと、どのように事業を継続していくのか問われました。感染症の影響を受け、いち早く働き方を見直し、変えていったのがIT 業界でした。そこで今回、大きく変貌を遂げたIT 業界での新たな働き方について、国の調査結果から読み解いていきます。
キャリアマップ編集部 文/IT ライター 松葉紀子
キャリアマップ編集部 文/IT ライター 松葉紀子
急速に進んだテレワークで変わる働き方
コロナ禍以前から世界をけん引するIT 企業では既に進んでいたテレワーク。しかし一昔前まで「飲みニケーション」というワードが存在していた日本では、テレワークはなかなか浸透しませんでした。特に対面でのコミュニケーションが企業文化として根付いていて、”暗黙知”が存在する会社ではテレワークに対する抵抗がありました。しかし2019 年末に海外で一人目の新型コロナウイルス感染症が発生し、その後、日本でも4 月に緊急事態宣言が出されてから、オフィスへの出勤がままならなくなりました。そうした状況のなか、IT 企業の多くはテクノロジーを活用して、テレワークに一気にシフトする動きが見られました。
厚生労働省が発表した「IT 業界の働き方に関する経年変化と新型コロナウイルスの影響」(2020 年10 月7 日~11 月6 日86 社回答/2020 年9 月29 日~10 月3 日1,879 名回答)によると、コロナ以降にテレワークを実施するようになったと回答した企業は61.6%と半数以上占めています。また総務省が東京商工リサーチ「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査(第 2~6、8、10、14 回)を基に作成したデータは以下の通りです。
(出典)東京商工リサーチ「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査(第2~6、8、10、14 回)を基に総務省作成
東京商工リサーチの調査によると、1 回目の緊急事態宣言が発令されたときにはテレワークが17.6%から56.4%へと上昇。その後、宣言が解除された後には一時的に低下するものの、2 回目の緊急事態宣言時には38.4%に再度上昇するなど、少しずつテレワークが増えていることがわかります。これらの調査結果から新型コロナウイルス感染症の影響で始まったテレワークが、日本でも一定程度定着しつつあるといえるでしょう。
米国では永久在宅勤務制度の導入も進む
では実際に、テレワークの導入はどのように進んでいるのでしょうか。2021 年に総務省がまとめた「テレワークに関する先進事例」によると、Twitter 社では2020 年3 月にオフィスを閉鎖。同年 5 月には全世界の社員を在宅勤務(working fromhome)が順調に機能しているとして、永久に在宅勤務を認めることにしたといいます。ほかにも日本や世界を代表する企業では、テレワークを積極的に進めていることが以下の図からも見てとれます。
(出典)総務省(2021)「ウィズコロナにおけるデジタル活用の実態と利用者意識の変化に関する調査研究」(各種報道資料より作成)
先に述べた通り、コロナ禍以前もIT 業界の大手企業ではテレワークを進めることで働く場所だけでなく、より多くの人が柔軟に働ける環境づくりに取り組んでいました。今、想定外のスピードで変化している働き方ですが、IT 業界では顧客から求められることが変わってきています。
例えば、日本ではウオーターフォール型と呼ばれるシステム開発が主流だったのが、最近では「攻めのIT」が求められるようになりました。これまでは顧客が提示した課題に対してヒアリングをし、それに基づき必要なシステムを定義して開発。顧客が抱える課題を解決するシステムを作り上げてきました。しかしDX が進む現在、顧客がシステムの要件を決めるのではなく、真の意味で課題を解決するためにはどうすればいいのか、顧客のビジネスに一歩踏み込んだ形で提案をすることが求められるようになりました。これまでと比べると、ハードルが上がったようにも見えま
すが、顧客のビジネスに根本から関わるようになることで新たなソリューションやサービスが生まれる可能性も広がったといえるでしょう。
次にテレワークが浸透することで働く人たちはどんなメリットを感じているのか見ていきましょう。総務省が行った個人に対する調査によると、「通勤時間が削減される」(81.5%)が1 位に。続いて「好きな場所で作業をすることができる」(53.8%)、「自分や家族のための時間をとりやすくなった」(45.1%)などと、仕事だけでなく、プライベートにも良い影響があることが判明しています。
(出典)総務省(2021)「ウィズコロナにおけるデジタル活用の実態と利用者意識の変化に関する調査研究」
若手の教育や社員同士のコミュニケーションなど新たな課題も
いいこと尽くしに思えるテレワークですが、一方で課題も出てきています。先に紹介した、厚生労働省が発表した「IT 業界の働き方に関する経年変化と新型コロナウイルスの影響」では、経営体制、プロジェクト管理、人事管理などの 3 つの観点からアンケートを採っています。これまで長時間労働に対してさまざまな対策を講じてきたIT 企業ですが、新型コロナウイルス感染症の影響で難しくなったことを次のように挙げています。経営体制の観点では、「経験不足プロジェクトの業務知識獲得のための有識者との関係構築」が40.4%、プロジェクト管理では「契約締結時における開発期間、必要工数等に関する顧客との交渉」22.2%、人事管理では、「コミュニケーション能力向上のための研修などの実施」40.4%が上位にランクインしています。
これまでオフィスに出勤していれば、部下や後輩の様子が見て取れたため、システム開発において開発期間や必要工数を決め、顧客と交渉することはさほど難しくなかったのかもしれません。ですが今後、若手がテレワークとなり、それぞれの経験値やスキルを間近で確かめる機会が減っていくと、開発期間や必要工数を決定するのは一定のルールを定めるなどしないと困難になる可能性があります。
※企業向け調査の結果より各分野において「難しくなった」の回答比率が悪いもの上位5つを記載
(出典)厚生労働省「IT 業界の働き方に関する経年変化と新型コロナウイルスの影響」
またテレワークで多くの企業で課題としているのが「コミュニケーションの難しさ」です。特にマネジメントを行う立場の人にとっては後輩や部下が困っていたとき、チャットやメールなどで相手から言い出してもらわなければ、サポートできないことが予測されます。これ以外にも、これまでの人事制度では社員を評価しづらくなってきたことや、テレワークで快適にやりとりをするための環境づくり、安全・安心なシステム構築も課題に挙がってきています。
長い視点でいえば、これまで培われてきた企業文化をどうやって醸成していくのかということも重要な課題の1 つといえるでしょう。これから就職先を探す皆さんは、ただ単にテレワークなら家から仕事ができて便利!ということだけでなく、自分が周囲の人たちとどう関わり、どのように働きたいのかをイメージしながら、会社選びを慎重に行うことがより大切になるでしょう。
データ出典
【厚生労働省】
「IT 業界の働き方に関する経年変化と新型コロナウイルスの影響調査」(2020 年)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/it/analysis_2020.html
「DX を牽引するIT 業界における新しい働き方のポイント」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/it/pdf/kaikaku_R2_3.pdf
【総務省】
「令和3 年 情報通信白書」第1 部 特集 デジタルで支える暮らしと経済 第3 節
コロナ禍における企業活動の変化
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd123410.html
「令和3 年 情報通信白書」第1 部 特集 デジタルで支える暮らしと経済 第3 節
コロナ禍における企業活動の変化により先進事例
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd123430.html