食の世界で、「聞いたことはあるけど詳しくは知らない」「今さらだけれど実はわからない」という言葉はたくさんあるはず。この連載ではそうした言葉の中から、食の今とこれからを知るキーワードを説明。初回は「エシカル」を取り上げます。
vol.1 エシカル
vol.1 エシカル
エシカルは環境・人権・動物愛護で理解する
エシカルは「倫理的」「道徳的」という意味です。「モラルに則った」と言うとわかりやすいでしょうか。
たとえば、ある商品が作られる過程のうち、一定のプロセスで、過度な効率性や儲け主義よりモラルを重視した行いがあれば、それは「エシカルな商品」と呼べます。「エシカルファッション」「エシカルコスメ」といった言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。
ここでは、食におけるエシカルなアイテムにはどのようなものがあるか、そしてその根拠はどこにあるか、例を挙げながら見ていきます。
まず伝えたいのが、エシカル(モラル)の中身は主に3つに分けられるということ。以下がその3つです。
1) 「自然環境」に関わるもの
2) 「人権」に関わるもの
3) 「動物愛護」に関わるもの
それぞれを見ていきましょう。
1)「自然環境」の視点〜何が自然環境への負担につながるか?
1)の自然環境に関するものとしては、たとえば有機農業で作られた農作物はエシカルな例として挙げられます。
有機農業では化学農薬や化学肥料を使わないので、畑や田んぼの周辺にいる虫や微生物を殺すことはわずかです。それにより周辺の生態系が守られます。
また、農薬や肥料を使うにしても天然由来のものなので、畑の土に化学物質を浸透させることがありません。そのため、水が流れ込む河川、その河川が流れ込む海の生態系は保護されます。それにより田畑の周辺、土、河川、海の環境が保護されるのです(なお有機農業でも、過度に堆肥などの有機肥料を使うと河川の汚染につながるので、適量を用いることが前提です)。
地産地消の農作物、畜産物もエシカルだと言われています。産地から消費地までが離れていると運搬では長距離トラックが、また海外からの輸入品では飛行機や船舶が用いられます。それらを動かすには化石燃料が使われ、気候変動(温暖化)をもたらす温室効果ガスが発生します。地産地消を実践すればそれを最小限に抑制でき、地球環境に与える負荷も減らせるのです。
また、最近話題の代替肉(大豆などの植物性タンパク質を原料に作る擬似肉、あるいは細胞培養によって作る肉)や昆虫食もエシカルと言われています。
これは、肉の生産、すなわち畜産は実は環境に強い負荷を与えているから。よって、畜産を行うことなく手に入る肉、すなわち良質なタンパク源である代替肉は環境にやさしい食べもの、ということになるのです。昆虫食も、肉に変わる優れたタンパク源として期待されています(なぜ肉が環境に負荷を与えるかは、この連載で追って扱う予定です)。
2)「人権」の視点〜安く買い叩くという罪
さて、2)の人権に関するものの代表例としては、フェアトレードを謳う品々が挙げられます。チョコレートやコーヒーで「フェアトレード認証」が明記されている商品を、高級スーパーの棚などで見かけることも増えています。
そのフェアトレードとは、貿易の過程において、公正な価格で取引を行うこと。まさに「フェア」な「トレード」です。
そしてフェアなトレードでやりとりされる公正な価格というのは、その貿易に関わる人たちが、きちんと人間らしい生活を送れる賃金を得られる、という価格です。
これは主に、原料の生産国の人たちを貧困から守ることを意味します。その背景には、「生産国から原材料を安く買い叩く」という風習が歴史的に長く存在していた事実があります。
たとえばチョコレートの原料であるカカオの生産者(多くは発展途上国、旧植民地の農家)と、それを買う側(多くは先進国の商社)では、生産者の立場の方が圧倒的に弱い。「買ってくれる」人がいないと農家の生活が成り立たないからです。その立場の差を行使し、長い間、買う側は農家からギリギリの安さでカカオを買ってきました。結果、農家は貧困に陥ったり、児童労働に手を出さざるを得なくなったりする。これは、きちんとした人間らしい生活とはいえません。モラルにも反しています。
生産者が十分な労働の対価が得られるよう、生産国を買い叩かない。そうした貿易や商取引が「フェアトレード」なのです。
3)「動物愛護」の視点〜家畜の身体的・心理的ストレスは大丈夫?
3)の動物愛護に関するものとしては、アニマルウェルフェアを実践している肉や乳製品、卵といった畜産品がエシカルな品々として挙げられます。
アニマルウェルフェアとは、直訳すると「動物福祉」。どういうことかというと、家畜にとって身体的・心理的ストレスのない環境で育てられ、屠畜されるということです。
たとえば鶏は、あたりまえですが、地面で動き回りながら生活するのが本来の姿です。しかし現在、特に日本では、肉用卵用問わず、ケージ飼いと呼ばれる方法で鶏を育てるのが主流です。これは鶏がかろうじて動くことができる狭いケージを飼育場に並べ、重ね、そのケージの中に鶏を入れて育てるという飼育方法です。鶏にとっては、非常にストレスフルな環境。アニマルウェルフェアに則っていない畜産といえます。
豚に関しても同様です。豚も、動きまわれる広さのある場所で、泥遊びをしながら生活するのが本能に則った姿です。しかし実際には、コンクリート敷きの豚舎での飼育が圧倒的多数です。効率的な畜産を行うには動物の本能よりも管理のしやすさや、狭い土地の有効利用を優先する。その結果がアニマルウェルフェアに反した畜産となるのです。
また海外の例では、高級食材のフォワグラの生産もアニマルウェルフェアに反すると言われています。フォワグラは、鴨やガチョウの肝臓を人為的に肥大させたもの。これを作るには、トウモロコシなどの飼料を、専用のチューブを用いて、鴨やガチョウの胃に直接大量に流し込むという作業がよく行われます。チューブを喉に押し込められる苦しみのほか、生きるための適量より過剰な餌を与えられ、その結果肝臓が不健康に肥大する。これはまさにストレスで、反アニマルウェルフェアだと言われているのです。
では、アニマルウェルフェアに則った畜産物とはどのようなものでしょう? 上記で説明したのとは逆の方法で飼育された豚や鶏などの畜産物、すなわち広いスペースで、本能の通りの行動がとれる生活を送りながら育てられた鶏や豚がそれにあたります。しかし日本では、アニマルウェルフェアに則った畜肉は、割合としてごく少量しか流通していません。そのため、実際問題、私たちはそれを選ぶことは非常に難しいのです。
またフォラグラに関しては、極論を言えば、そもそもフォワグラを食べないのがアニマルウェルフェアに則った行動、という意見もあります。実際、米国のカリフォルニア州ではフォワグラの販売と使用が禁止されており、ニューヨーク市もその流れにあります。また、ヨーロッパではフォワグラ生産にともなう強制的なエサやりを違法とする国も少なくありません。
その一方でフランスでは、最小限のストレスでフォワグラを作る流れが生まれています。というのもフォワグラはフランス美食文化の歴史を支えてきた重要な伝統食材なので、簡単に消滅させるわけにはいかないから。こうしたジレンマが、アニマルウェルフェアでは多く見られます。
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以上が、食のジャンルにおける「エシカル」の主だった内容です。SDGsで掲げられている達成目標に直結する事柄も多くあります。
数は少ないかもしれませんが、身近に実践できるエシカルな食はあるはずです。それを選択するのが、エシカルな行動。さまざまな困難がありつつも、エシカルに向かう食の流れは今後ますます加速すると思われます。