超高齢化社会に突入し、労働力人口が年々、減少傾向にある日本。世界第3位の経済大国とはいえ、国内総生産(GDP)の成長率はアメリカや中国に大きく引き離され、低迷しています。日本が経済を成長させていくためには、新産業を創出し新たな成長領域を作っていくことにほかなりません。そのようなイノベーションを起こすことにつながる思考法として今、多くの企業が注目を集めているのが、「アート思考」です。アート思考とは何か、練馬区立美術館 館長の秋元雄史氏のインタビューを元に解説します。
キャリアマップ編集部 文/ITライター 関洋子
インタビューを受けてくれたのは……
秋元雄史(あきもと・ゆうじ)
練馬区立美術館 館長/東京藝術大学 名誉教授
1955年東京生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科卒業後、作家活動をしながらアートライターとして活動。91年に福武書店(現・ベネッセコーポレーション)に入社し、直島のアートプロジェクトを担当。2004年より地中美術館館長および公益財団法人直島福武美術館 財団常務理事に就任。ベネッセアートサイト直島・アーティスティックディレクターも兼務する。06年に財団を退職。金沢21世紀美術館 館長などを経て、現在は練馬区立美術館館長として、美術館再整備に取り組んでいる。
アート思考って何? デザイン思考と何が違う?
国際通貨基金(IMF)が発表した2021年の世界GDPランキングによると、日本は3位に位置する経済大国です。ですが、成長率で見ると日本は158位。1位のアメリカ68位、2位の中国(34位)と比べても大きく引き離されており、経済の停滞が続いています。そんな中、国も新産業創出に注力しており、さまざまな取り組みを展開していますが、新産業創出は仕組みだけではうまくいきません。既成概念や固定観念に縛られることなく、新しい発想によるイノベーションが必要です。そのイノベーションを創出する思考法として今、多くの企業の注目を集めているのが「アート思考」です。
「アート思考は、もともと、米シリコンバレーの起業家たちが実践してきた思考法なのです」と秋元雄史氏。例えば日本で大人気のスマートフォン、「iPhone」はAppleの創業者であるスティーブ・ジョブス氏によって生み出されました。初代iPhoneが誕生したのは2007年。当時の日本ではいわゆるガラケーが主流の時代。そんな時代にこれまでの常識にはなかった画期的な携帯電話が登場したのです。これはスティーブ・ジョブス氏がアーティスト的な発想の持ち主であり、シリコンバレーの有名な起業家たちは、アーティストが作品を作るのと同じく、自身の中に湧き出た感性を元にプロダクトを生み出し、創作活動する延長のような感覚でビジネスを立ち上げてきました。
ちなみに、アート思考によく似ているキーワード「デザイン思考」があります。デザイン思考も多くの企業で注目されている思考法です。デザインもクリエイティブです。では、どう違うのでしょう。
「紋切り型の言い方をすれば、デザイナーはクライアントからの課題に対して解決策を出していく人たち。つまりデザイン思考は、課題解決型の発想のための思考法です。一方、アーティストは何が問題かから考える人、問いを自ら作っていく人たちです。アート思考は問い、つまり課題を見つけていくための思考法と言えます」(秋元氏)
キャリアマップ編集部 文/ITライター 関洋子
インタビューを受けてくれたのは……
秋元雄史(あきもと・ゆうじ)
練馬区立美術館 館長/東京藝術大学 名誉教授
1955年東京生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科卒業後、作家活動をしながらアートライターとして活動。91年に福武書店(現・ベネッセコーポレーション)に入社し、直島のアートプロジェクトを担当。2004年より地中美術館館長および公益財団法人直島福武美術館 財団常務理事に就任。ベネッセアートサイト直島・アーティスティックディレクターも兼務する。06年に財団を退職。金沢21世紀美術館 館長などを経て、現在は練馬区立美術館館長として、美術館再整備に取り組んでいる。
アート思考って何? デザイン思考と何が違う?
国際通貨基金(IMF)が発表した2021年の世界GDPランキングによると、日本は3位に位置する経済大国です。ですが、成長率で見ると日本は158位。1位のアメリカ68位、2位の中国(34位)と比べても大きく引き離されており、経済の停滞が続いています。そんな中、国も新産業創出に注力しており、さまざまな取り組みを展開していますが、新産業創出は仕組みだけではうまくいきません。既成概念や固定観念に縛られることなく、新しい発想によるイノベーションが必要です。そのイノベーションを創出する思考法として今、多くの企業の注目を集めているのが「アート思考」です。
「アート思考は、もともと、米シリコンバレーの起業家たちが実践してきた思考法なのです」と秋元雄史氏。例えば日本で大人気のスマートフォン、「iPhone」はAppleの創業者であるスティーブ・ジョブス氏によって生み出されました。初代iPhoneが誕生したのは2007年。当時の日本ではいわゆるガラケーが主流の時代。そんな時代にこれまでの常識にはなかった画期的な携帯電話が登場したのです。これはスティーブ・ジョブス氏がアーティスト的な発想の持ち主であり、シリコンバレーの有名な起業家たちは、アーティストが作品を作るのと同じく、自身の中に湧き出た感性を元にプロダクトを生み出し、創作活動する延長のような感覚でビジネスを立ち上げてきました。
ちなみに、アート思考によく似ているキーワード「デザイン思考」があります。デザイン思考も多くの企業で注目されている思考法です。デザインもクリエイティブです。では、どう違うのでしょう。
「紋切り型の言い方をすれば、デザイナーはクライアントからの課題に対して解決策を出していく人たち。つまりデザイン思考は、課題解決型の発想のための思考法です。一方、アーティストは何が問題かから考える人、問いを自ら作っていく人たちです。アート思考は問い、つまり課題を見つけていくための思考法と言えます」(秋元氏)
課題を見つけていくための思考法だからこそ、新産業やイノベーションの創出に活用しようと、多くの企業でアート思考を取り入れようとしているのです。
アート思考を身につける意義
とはいえ、アート思考を身につければ誰もがアーティストや、スティーブ・ジョブスになれるわけではありません。アーティストや起業家として活躍している人は、自分の中にある、ほとばしるクリエイティブ性を創出できる天才だからです。では、アート思考を学ぶことにどんな意義があるのでしょう。
「天才は例えると野生動物のようなもの。その野生動物が持っている力を社会の役に立つようにするには、トレーニングが必要です。そしてトレーニングするには、野生動物を深く知らなければなりません。例えば、スティーブ・ジョブスのそばにはマイク・マークラ氏(Apple Computerへ投資し、二代目の社長を務めた)がいたから、今のような大企業に発展しました。つまりアーティストの考えを理解してビジネス化できる人が日本に増えることで、日本でもイノベーションが起こってくることが期待できます」(秋元氏)
「新しいサービスやプロダクトを生み出したり、将来起業したりするわけではないので、自分には関係ない」と思う人もいるでしょう。ですが、社会人としてこれから生きていく上でも、アート思考を身につけることは有意義だと秋元氏は言います。
今の世の中は価値観も流動化しており、同じ事象でも立場や見方によって答えが変わってくる時代です。
「善悪の基準も曖昧になっているような気がします」と秋元氏。その一方で、日本は島国だったことから、単一性を担保するという動きがあります。もちろん、今では多様性を受け入れようという動きがあり、変わってきていますが。そんな不安定な状況の中で生きていくには、基準(ルール)を自分で組み立てていくことが求められます。そこで「課題を自ら見つけていく」アート思考が役に立つというわけです。
どうすれば身につけられるのか
アート思考を身につけることは、アーティストの考え方を身につけること。実際にはどのようにすればよいのでしょう。秋元氏は「堅苦しく考える必要はありません。アート思考はあくまでも考え方なので、身体をエクササイズでほぐすように、型にはまった考え方をほぐすことと捉えて、美術鑑賞をすればよいと思います」(秋元氏)
美術鑑賞といってもいろいろありますが、特にお勧めなのが、「現代アート」だそう。その理由について尋ねると、「現代アートは破天荒な世界。だから型にはまった考え方をほぐす方法として最適だと思います」と秋元氏。例えば、岡本太郎や草間彌生。彼らの作品をぱっと見ただけでは、何を表しているのか、わからないというという感想を持った人は多いのではないでしょうか。
「絵画鑑賞は画家の目を通して、別の世界を見ることです。たとえ自分には理解できないようなものでも、『こんな考え方もあるんだ』『こんな見方もできるんだ』と気づくことができると思います」(秋元氏)
仕事で行き詰まったときなどに、気分を変えようとコーヒーを飲んだり、散歩をしたりすることありませんか。アート鑑賞もそれと同じ。そういう気軽な気持ちで見ることで、行き詰まった心や型にはまった考え方をほぐすことができるというのです。アートを鑑賞する効能はそれだけではありません。自分磨きにもつながります。例えばコミュニケーションスキルは、ビジネスパーソンには必須の基本スキルです。アートを鑑賞することで、その向上も見込める可能性があります。そのためにはちょっとした見方のコツがあります。
「絵を見て好きと思ったのなら、なぜ好きと思ったのか、考えて言葉にすることです。逆に気持ち悪い、嫌いだと思ったときも同様です。無意識を意識化することは、インナーマッスルを鍛えるのと同じ。物事を深く考える力が身につき、人とのやり取りも受け答えを含めて深い感性を持った言語表現ができるようになります。そんな会話ができると、相手も会話するのが楽しくなりますよね」(秋元氏)
さらにもっと思考のインナーマッスルを鍛えたいという人にお勧めなのが、鑑賞体験にプラスして、作家個人のプロフィールやその作家が生きてきた時代について調べてみること。「時代背景を知り、なぜそういう作品が生まれてきたのかを知った上で鑑賞する。そうすることで、観察力を高めることができると思います」(秋元氏)
自分一人ではなかなかそこまでできないという人には、対話型鑑賞のワークショップに参加する方法も有効です。対話型鑑賞は1980年代半ば、アメリカの現代美術館(MoMA)で開発された鑑賞法と言われています。グループで一つの絵画を鑑賞し、まずは何が描かれていたのか、色や形について具体的な言葉にしてグループ全体で共有します。その上で、徐々に抽象的な方向へ見方を変え、ナビゲーターの問いかけにより、みんなで絵画について考え、対話していくというものです。
このような鑑賞方法をとることで、自分とは異なる見方があることに気づくことに加え、よりそのアートを深く知ることができるようになり感性が磨かれていきます。中には集中力が高まり、相手の気持ちが先読みできるようになったという例も。対話型鑑賞は誰もがすぐに取り入れるというわけにはいきませんが、美術館の中には定期的にワークショップを開催していることもあるので、興味のある方はチェックしてみてください。
美術館に足を運んでみよう
アート思考を養うことは、変化の激しいこれからの時代を生き抜くビジネスパーソンになる準備として得になることはあっても、損になることはありません。まずは、自身の考え方が凝り固まっていないか、チェックするためにも、一度、美術館に足を運んでみてはいかがでしょう。そして自分の思ったことを言葉にしてみれば、心と頭がスッキリするのではないでしょうか。秋元氏が館長を務める練馬区美術館は日本の近現代美術を中心に収蔵されています。興味のある方はぜひ、訪れてみてください。
【練馬区美術館の鑑賞チケットをプレゼント!】
2022年6月26日(日)~8月14日(日)、練馬区美術館では画家・舞台美術家として活躍した朝倉摂(1922~2014)の全貌に迫る展覧会「生誕100年 朝倉摂展」が開催されます。本展では日本画に加え、絵本の原画や挿絵など、朝倉摂送達活動の全体像を紹介しています。その観覧チケットを5組10名様にプレゼントいたします。
応募は<次>まで。ふるってご応募ください。
「生誕100年 朝倉摂展」展示作品例
《群像》1950年 顔料、紙 練馬区立美術館蔵
「ハムレット」舞台模型 1978/2021年 朝倉アトリエ蔵
大佛次郎『スイッチョねこ』挿絵原画 1971年発行 アクリル、イラストボード 大佛次郎記念館蔵
練馬区美術館
東京都板橋区貫井1-36-16(西武池袋線「中村橋」駅下車 徒歩3分)
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
休館日:毎週月曜日(ただし、月曜日が宿休日の場合は開館し、翌平日休館)