人間が自然に行うタスクをコンピュータに学習させる機械学習である、ディープラーニング(深層学習)の登場によって、2010年代半ばから始まったAIブーム。バズワード的な盛り上がりも一段落し、今はさまざまな分野で本格的な活用が進んでいます。AIがどんな分野/場所で活用されているのか、ご紹介いたします。
AI開発の歴史は既に1950年代から始まっていた
最近よく耳にするAIは新しく登場した技術と思われがちですが、その歴史は実は古くて第1次AIブームは1950年代にさかのぼります。1956年に米国で開催されたダートマス会議で、「Artificial Intelligence」つまり、人工知能という言葉が初めて定義とされたと言われています。
この時代のAIは、迷路の解き方など、ある特定の問題に対する解を導き出すための「推論と探索」を行うためのプログラムを中心に研究されていました。ですが、今のように高性能なマシンがなかったため、すぐにブームの火は消えてしまったのです。そして20年後の80年代になると、第二次AIブームが到来。このときは特定の問題に対して、専門家と同じような意思決定や助言をするエキスパートシステムが多数、生み出されました。ただ当時のAIは、人の手によって知識を追加しなければならなかったので、その後下火になりました。
第1次AIブームから近年の第3次AIブームに至るまで、途切れることなく、研究開発は続けられてきたのです。そして2000年代からはビッグデータを用いた機械学習が実用化され、AI自身が大量情報の取得し、蓄積することが可能になりました。さらに冒頭で紹介したディープラーニングが登場したことで、AIブームが加速。現在は一時期のバズワード的な盛り上がりはなくなったものの、さまざまな分野で本格的な活用が進んでいます。
出典)総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成28年)
AIを活用し、キャスティング!オリジナルコンテンツを製作するNetflix
ワールドワイドで2億2200万人の有料会員数を誇るNetflix。2021年第4四半期(10~12月)の決算では増収増益を報告するなど、好調に成長を続けています。その背景にあるのは、オリジナルコンテンツの充実です。Netflixではユーザーの視聴データをAIで解析。視聴データの中には、停止や巻き戻しという操作場面の情報も含まれます。そこに登場していた人物、その表情や言葉なども解析し、オリジナルコンテンツの作成に活かすことはもちろん、視聴率や離脱率からどんな監督、俳優が好まれているのかなど、キャスティングもAIが支援しています。
2013年に制作されたオリジナルドラマ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」はその代表例です。同作品は同年のプライムタイム・エミー賞3部門(ドラマ・シリーズ監督賞、撮影賞、キャスティング賞)を受賞。この成功体験から、Netflixはもちろん、その他、多くのコンテンツ製作会社がデータを基にしたコンテンツ製作を行っています。https://www.netflix.com/jp/
手話通訳もAIにお任せ
中国の国営放送局中国中央電視台では、聴覚障がい者にも北京オリンピック・パラリンピックを楽しんでもらおうと、AI手話アナウンサーによる競技情報の提供が行われています。AI手話アナウンサーを開発したのは検索エンジンの開発で有名なバイドゥ(百度)と天津理工大学。
手話通訳では話者の言葉を逐次通訳するわけではありません。通訳者は無関係な単語や文節を省いたりして、話者が伝えたいことがきちんと伝わるよう、表情なども含め手話に翻訳するという作業を行います。この手話通訳者が持つ技術をAIで実現するのはかなりの苦労が伴ったそうです。同サービスの開発には実際に手話を使っている聴覚障害者や手話の専門家なども協力。実際の手話の動作だけではなく、唇の形、顔の表情などを話の内容に応じて生成する仕組みを構築し、実現。その精度は9割に近づくほどだと言われています。
http://japanese.cri.cn/20211125/37461fd8-fffc-6f2c-b7e3-8146d32e4bd8.html
http://japanese.cri.cn/20211125/37461fd8-fffc-6f2c-b7e3-8146d32e4bd8.html
第一次産業でもAIの活用が進む
AIと農業はまったく関係のない分野に思えますが、現在はITを活用する場面が増えつつあります(スマート農業)。その背景にあるのが、農業就業者が高齢化していることが挙げられます。そこでITを活用することで、身体にかかる負担を減らすことに加え、新規参入しやすくなる取り組みが行われています。AIの活用もその一つです。NECとカゴメが共同で事業展開している農業ICTプラットフォーム「CropScope」は、センサーや衛星写真を活用しトマトの生育状況や圃場環境を可視化するサービスと、AIを活用して圃場(ほじょう:農作物を栽培するための場所)に合わせて最適化された営農アドバイスをするサービスで構成されています。熟練栽培者のノウハウを習得したAIが、水や肥料の最適な量と時期を指示してくれるため、豊富な栽培技術を持たない生産者でも、安定した収穫と栽培コストの低減が期待できるとされています。
農業だけではありません。漁業でもAI活用が進んでいます。長崎のITベンチャーオーシャンが提供する「トリトンの矛」は、過去の操業日誌データと海洋気象データをAIで解析することで、最適な漁場の位置情報などを漁業者に提供するサービスです。長年蓄積されたベテラン漁業者の経験や技術、勘をデータベース化することで、効率的かつ生産性の高い漁業を実現するとともに、若手漁師へのスムーズな技術継承を目的としているそうです。
https://www.ocean5.co.jp/
AIの技術は高く評価される時代へ
今回、紹介したのはほんの一例です。例えば、現在、開発が進められている自動運転にもAIは欠かせません。AIで道路状況(どれが人でどれが車かなど)認知・判断、操作するという役割を担います。チャットボットもAIの一つ。自然言語処理という技術が使われています。また小売店へのAI活用としては、高輪ゲートウェイ駅(東京・港区)などに設置されている「TOUCH TO GO(TTG)」が挙げられます。TTGではカメラやセンサーから取得した来店者や商品の動きをAIがリアルタイムで認識し、来店者が会計ゾーンに立つと会計の明細が表示され、来店者はお金を支払うだけで買い物が完了します。
このようにAIはもはや活用する時代。そこで必要となるのが、AI人材です。AI人材とひと口に言っても大きく3種類に分かれます。一つはAIの研究開発に取り組むAIリサーチャー(研究者)。大学や企業の研究開発機関に所属し、ディープラーニングや機械学習のアルゴリズム、新しいAIモデルの作成などを行っている人たちです。ビッグデータの利活用を行うデータサイエンティストもAIリサーチャーの一種です。
次はAIエンジニア。ディープラーニングや機械学習のアルゴリズムを用途に合わせて選択したり、学習モデルの開発および精度向上のためのチューニングを行ったりすることで、プロダクトやサービス化できる人材です。Pythonによるコーディングスキルのほか、TensorFlowやKeras、PyTorchなどのAIフレームワークに関する知識なども必要です。このようなAIに特化したスキルだけではなはありません。AIもシステム。プロダクトやサービス化につなげるためには、ITエンジニアに求められるシステムの開発における一連の知識も求められます。またデータ分析などのスキルもあるとよいでしょう。
第三はAIとビジネスをつなげる役割を担うAIコンサルタントやAIプランナーと呼ばれる人材です。今後、活用が進めば進むほど、最も求められる人材と言えるかもしれません。AIエンジニアほどでなくてもAIに関する知識はもちろん、担当する企業のドメイン知識も必要となります。
AIエンジニアとして就職を目指すのなら、AI関連企業への就職が一番ですが、経済産業省では課題解決型AI人材育成プログラム「AI Quest」を展開しています。22年度の開催は未定ですが、このような学習コンテンツを活かすことも検討してみてはいかがでしょうか。