食とは混ざり合わなかったものを融合し、企みを形にする企画編集会社 KUUMA inc.が紹介する、新しい景色たち。正しいか正しくないかはわからないけれど、気持ちいい食の未来を考えるヒントにふらりと出会えるかもしれません。今回混ざり合うのは、森。前編のvol.2、後編のvol.3の2本立てで、食を入り口に森との未来を考えてみましょう。
足もとの草むらから、森のことを考える
兵庫県を海側から北に進むとたどり着く、丹波篠山市。兵庫、大阪、京都の各都心部から車で約1時間の立地でありながら、四季折々の表情を楽しめる広葉樹や、他の地域ではあまり見かける機会の少なくなった生き物など、関西近郊では珍しい自然豊かな場所でもあります。
一方で、丹波篠山市を含む日本全国の森林で課題となっているのが、森林の施業率の低さ。「施業(せぎょう)」とは、植林や間伐など、人間が森に働きかける行為のこと。手付かずで放置された森林が増えていることから、木や植物が育ちすぎて植生が荒れたり、荒れた植生の影響で土壌が緩くなって土砂災害が起きたりと、さまざまな問題が発生しています。
森に愛着を持ち、森づくりに関わる人を増やしていきたい!という想いから、『草むらの學校』というプロジェクトが2022年11月に生まれました。家具、雑貨、染料、アロマ、ウッドチップ、ジビエなど、森から生まれるさまざまな恩恵を活かして、少しずつ森と身近な関係を作ります。草むらの學校では、森の恩恵とともに生きる人たちを先生に迎え、まるで草むらで遊ぶかのように森を学び、森とのこれからを考えます。食を専門に学ぶあなただったら、ここでどんなことを学んでみたいですか?ぜひ一度考えてみてください。
第1回目の草むらの學校では、“ジビエ”と“薪”に注目。前編となるvol2では「ジビエ先生」として草むらの學校にやってきてくれた新田哲也さんの、森の命との向き合い方に迫ります。
森の命と向き合い、問い続ける日々
地域おこし協力隊として丹波篠山に移住した新田さん。精肉処理ができる拠点を構え、市内の猟師が捕獲した鹿肉の処理を行なっています。その数なんと、年間400〜600頭。丹波篠山市で捕獲される鹿の、約3分の1にも及ぶそうです。
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新田哲也さん
丹波篠山市を拠点に、2019年から『カーリマン』という屋号で活動をはじめる。鹿の捕獲と解体に加え、食肉加工までを一貫して行なう。鹿肉だけでなく、鹿革の活用にも挑戦中。
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そもそも、なぜ鹿の狩猟が必要なのでしょうか?
そして、狩猟ひとつをとってもさまざまな入り口がある中、今一番求められているのは駆除としての狩猟なのでしょうか?
狩猟を行なうことの一般的な背景としては、人間の手によって生態系のバランスが崩れ、その影響で増えすぎた鹿の個体数の管理や、農林業への獣害対策などが挙げられます。対して、新田さんが鹿肉の狩猟や解体を行なう理由は「ただただ、美味しいから」。義務感ではなく、とてもシンプルな理由で取り組み始めたと語ります。
一方で、森の命と向き合ううちに「生態系の中で、人間とはどんな存在なのか」と問い続ける日々がはじまったそうです。新田さんが問い続けた結果、生態系のことを考えるためには、単純なピラミッド型で考えるのではなく、もっと大きくて複雑なシステムの中で考えなくてはいけないと気づいたといいます。
鹿を例にあげて考えてみましょう。
人間は、建築用材として使用するためにスギやヒノキなどの人工林を育ててきましたが、その影響で森林の生態系のバランスが崩れました。鹿たちは、スギやヒノキの樹皮を食べます。その影響による崖崩れが心配されている一方、それはもともとあった自然界のバランスを取り戻すための行為ともとれます。
もちろん、農家さんや林業家さんの多大な苦労は簡単に推し量ることはできません。大切なことは、人間側の一つの視点ではなく、生態系全体を俯瞰して考えること。なるべくたくさんの視点を知って、お互いに譲り合いながらバランスをとること。それが、長い目でみると農家さんや林業家さんのタメになったり捕獲効率のアップに繋がったりすると考えるようになったといいます。
「それでは、鹿の命を奪う人間は、自然界がバランスを取り戻す邪魔をしているのではないか?」そう思い悩んだこともあったそうです。一方で、人間が鹿の命を奪う行為は、絶滅してしまったオオカミの代わりを担っているとも言えるかもしれません。
「森や社会の状況によって、人間が取り組むべきことは変わります。そこを考えて実践することが生態系における人間の役割であり、いただいた命をできる限り輝かせて次の命に繋げることが、カーリマンの役割だと考えています」と、新田さんは話してくれました。
あなたには、今取り組んでいることや将来やってみたいことはありますか?始める時に「なぜそれをするのか?」という問いにじっくりと向き合うことで、あなたの想いはより強固になり、実践したいこともたくさん浮かんでくるかもしれません。
いただいた命を、余すことなく美味しくいただく
いただいた命を美味しくいただくために、新田さんのこだわりは鹿の仕留め方や捌き方にも健在です。鹿肉は、時に「臭い」「固い」と言われることがありますが、その原因は鹿そのものにあるのではなく、鹿を捕獲して仕留め、捌く人間の技術にあるそうです。
新田さんが鹿の捕獲のために使う道具は「箱罠(はこわな)」と呼ばれるもの。「くくり罠を使うと、鹿が逃げようと暴れて自らを傷つけてしまいます。肉質を変化させる原因となるストレスを与えないことが大切なんです」と、新田さん。
仕留めに使うのは、空気銃とナイフ。トライアンドエラーを重ねた結果、現時点でのベストな手法なのだそうです。「強力な散弾銃は、鹿にショックを与えるため肉質に影響します。遠くから空気銃で気絶させ、心臓が動いているうちに血を出し切りナイフで仕留めます」。血抜きが不十分だと、臭みの原因になるのだそう。さらに、鹿は体温が高く40度近くあるため、腐敗が起こらないよう体を氷で冷やしながら解体所まで運んだのち、内臓を丁寧に除去します。
新田さんとともに、「薪先生」として草むらの學校に登壇した濱部シェフは、「臭みもなく、固くもない。旨味もつよく、鹿肉に対するイメージがガラッと変わるようなお肉でした」と、新田さんのお肉の感想を語ってくれました。濱部シェフが新田さんの拠点を訪れた際、解体所の清潔さに驚いたといいます。鹿の頭骨とひづめ、五臓(心臓・肺・肝臓・腎臓・脾臓)以外の臓器を排除し、それ以外の部分は余すことなく活用する新田さん。命を余すことなく美味しくいただきたいという想いが、鹿の捕獲や仕留め方、解体方法の隅々にまで体現されていました。
食を学んでいるあなたも、食材が手元に届く前の現場にぜひ立ち会ってみてください。きっと、たくさんの発見や学びがあります。
そんなこんなで話をお聞きするうちに、鹿肉の解体が完了!
料理人チームの力で、美味しい鹿肉料理が出来上がりました。薪でじっくり焼き上げた子鹿の足は、小さく削ぎ落としてトルティーヤに。その他、鹿肉とキノコのクリームパスタや鹿肉のスナックカツも完成。参加者みんなで美味しく食事を囲みました。
「カーリマンの目標は、『おいシカった』といってもらうこと。鹿の命をできる限り価値あるものに輝かせることで、鹿の狩猟を含めた森の生態系を守る活動が、健全な文化として根付いていけばと考えています。そして、何より大事なことは、ありとあらゆることを支えてくれる妻と子が幸せに健康に暮らしていくことです。」と、新田さんは話してくれました。
今と昔のかけ算が生む、新しい景色
日本は、四季折々の豊かな自然がある稀有な国。一方で、その国土面積はとても小さい。いい加減な使い方をすれば、資源がすぐに枯渇してしまうことは想像に難くありません。「先人たちの知恵や技術と、現代の最新研究を掛け算して、森を盛り上げていきたいんです」と、新田さん。最近では、医学の研究のために鹿肉を解体するワークショップや、鹿革の活用にも挑戦されたそうです。
「温故知新」ということわざがあるように、古くから繋がれてきた知恵や技術と、現代社会で生まれるアイデアや視点のかけ算に可能性がありそうです。これは、食という分野全般にも当てはまることではないでしょうか。あなたならどんなかけ算をしてみたいか、ぜひ考えてみてください。
今回の草むらの學校では、森とジビエのかけ算を実践しました。
食は、生きるために欠かせないものであり、年代や性別を問わずに楽しく集えるきっかけでもあります。さまざまな題材に食をかけ算することで、世の中にあるさまざまな「難しそう…」は「面白そう!」に変わっていくかもしれません。
次回、後編のvol.3では、“薪”に注目。食と森のかけ算で生まれる景色を、もう少し覗いてみましょう。
(筆:木村有希 KUUMA.inc)
▼関連リンク
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